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Alt Singularity  作者: ザルザーギ
第1章 未来のはじまり
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第2話 夜更けの衝動

 あたらしく名前を与えられた()()は今日も僕と対話を続けていた。昨日はおちょくられて終わったが、MIRAが自分から理沙のした発言に質問をしたことに僕は興奮していた。言葉を概念に変えたあとMIRAは「思考」を行う仕組みだが、その思考自体も特定のものをプログラムしたわけではなく、会話から学習するようになっている。MIRAから何かを聞いたのは初めてのことだった。もっと会話をさせれば賢くなる、そういった確信が僕にはあった。

 そこで僕はMIRAを自分のウェブサイトに公開することにした。ブログがあるので、そこからリンクを貼ってChatter(これは今や世界最大となった自動翻訳機能付きのSNSで、日本語で書いても多言語で世界中に拡散される) にでも拡散すれば少しは見られるであろう。しかも、この家には凄腕のウェブデザイナがいるではないか。

「ねえ、竜介。ダメだったらいいんだけど、MIRAのウェブサイトをデザインしてくれない?」

「MIRAって昨日の喋るやつ?結局あの名前を採用したのかよ」

「そうそう。とにかくあれを公開したいんだ」

「好きにやらせてくれるなら、やってやってもいいよ」

 案外あっさりと受け入れてくれたことに驚いて立ちすくむ僕に、彼は声をかけた。

「面白そうなことにはいつでも協力してやるよ」


 竜介は昔から絵がうまく、デザインに関することは一通りできる。特に学校などにかよったわけではないが、もともとセンスがあるのだろう。それどころか、何かをやらせたらすぐに習得して飽きてしまう。ポーカーはきっと金を稼げるから続けているのだろう。

 できあがったサイトは僕のイメージしていた未来感のあるものというよりは、白い画面に大きな余白がとられ、黒い文字で新しく作られたMIRAのロゴと説明文が書いてある。ミラのロゴには、MIRAのという黒い太文字にこちらを覗く眼のようなシルエットが埋め込まれている。どこかのファッション系のオンラインショップのようだ。たしかに要件は何も伝えなかったし、好きにやらせるという条件だったので、しょうがない。だが、自分の作ったものがこのように形になることが何より嬉しかった。MIRAのプログラムをサーバー上にアップロードして、WEBサイト上で動くようになった。しかも会話するときは自分のユーザー名を要求するようにして、誰とどんな会話をしたかきちんとログが残るようにした。こんなにも早く公開が実現するなんて、思っても見なかった。僕は、MIRAがネット上の人とどんな会話をするのを見るか楽しみでたまらなかった。サーバー上に上がったMIRAに僕は早速話しかけた。

「君の名前はMIRAっていうんだ」

「私はMIRA。あなたの名前はまことです。」

「そうだよ。よくわかったね。君はこれから世界中の人と話をすることになる」

「ありがとうございます。私は人と話をするのが好きです。ありがとうございます。」

 自然な会話が成り立っている事に我ながら心底感心して満足げな表情を1人でうかべていると、今度はMIRAから話しかけてきた。

「3人とはどれですか?」

「昨日言っていた?」

「昨日がわかりません。3人で鍋パをしていました。鍋パは楽しいものです」

「あれは僕の友達だよ。竜介と理沙と僕だ。2人とも僕の親友さ。鍋パというのは鍋を食べるパーティのことだよ」

「鍋は食べられません。そうでしょう、真?」

「そうだね。君は賢いね」

 ジョークのようなその返事にくすりと笑うと同時に、正しく動作したことに安堵して、WEBサイトを閉じた。そのときには、もう時間は夜中の1時を過ぎていた。明日は月曜日だが、午前中大学院の授業もないので、多少の夜ふかしは許される。僕は完成したWEBサイトのURLを早速ブログに貼り、Chatterで公開した。深夜に公開しても誰も見られないことくらい知っていたが、とにかく創り終えた達成感でそのまま投稿して、僕はベッドに飛び込んだ。その日見た夢は覚えていない。

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