火繰家伝 十二
次期王選の中、火繰家も精力的に活動していた。そんな中、代王派が人気取りの為、先手を打ってくる。それに対抗すべく、河智聖子は大胆な提案をした。
人物紹介
三岡芳蔵:火繰家の財務担当。やや不真面目。
河智聖子:火繰家の当主。世間的には操り人形と思われている。
知野陽音:火繰家の参謀。賢く常識人。
南代香北:代王派の次期王候補。元々は身寄りもない政治とは無縁で迂遠であったが、様々な思惑に利用され次期王候補にまで成り上がった。
須々木王:陽の国の王。王道派を束ねる。経済に強いと評価されている為、下降気味の経済状況に苦慮している。
影松桐蔭:草平衆を作った頭目。過激な思想を持ち、思想は行動をもって良しとする人物。現在行方不明。
用語
レイヤー:眼鏡型の情報端末。
青千院:太京にある政治の中心地。
火繰家:鉄鋼事業で財を成なした、古代より続く名家。王道派。次期王選を迎え、岐路に立つ。
太京:陽の国の首都。
三目家:古代から存続する名家。あらゆる分野に企業を持つ。今の代になって、初めて政治的な権力へ積極的に近づき始めた。
電柵:対飛び道具用の防具。
電足帯:足の裏に付ける電磁式の移動補助具。
鉄踏株式会社:多々良真琴が作った会社。
草平衆:影松桐蔭が作った誰でも参加できる衆。国の旧兵器を奪った事で、犯罪組織とされている。
東亜藍潮計画:陽の国に、一帯で最大の港を作る計画。
「本日、無事納品を終えました」
面長で矢印のような鼻と、レイヤーをかけた三岡芳蔵が、部屋に入ってくるな報告をした。
「ご苦労様です三岡さん」
座ったままだが、そちらを向いて軽くお辞儀をする、黒く、切りそろえた前髪と、長い髪を高く結わえ、赤茶色の瞳にレイヤーをかけた河智聖子が。
日差しも強く、ここは青千院にある多目的会議室の一つ、ここを仮の執務室として、火繰家は執務を行っていた。
勿論、太京にも火繰家の土地はあるが、三目家を警戒して、そこを使う頻度を減らしたかったのは、以前と同じ。
「予定通りこの後一週間の試験期間ですが、事前に」
行っていた現場の試験を本試験と認めて、前倒しを検討しているようです。
部屋の中を進みながら、自分用に設置した机に座る三岡。
話を聞きつつ、自分の作業に戻っていた河智は顔を上げ。
「前倒しですか?」
視線を三岡に。
軍が、軍備拡充を更に早める為、全てにおいて、予定の前倒しを行っているというのだ。
「銃器の正規納品は、九月からでしたね? 間に合いますでしょうか?」
姿勢を正し三岡にきちんと向き直って、質問をする河智。
それに対し、眉毛を大げさにゆがめながら三岡は。
「まあ、一週間程度の前倒しは予定していましたから、何とかなると思います」
両掌を河智に向け、大げさな身振りで。
分かりました、と自分の作業に戻ろうとする河智に。
「まあそちらはいいんですが、電柵と電足帯は、やはり無理でしたね」
そう言うと、自分の作業を開始する三岡。
逆に作業の手を止めて河智。
「何か分かったのでしょうか?」
「ええ、やはり元火繰家の下で働いた者で、今は」
鉄踏株式会社というのを起こしたらしいですね。
聞きながら河智の眉間に、少し力が入る。そして再び三岡に向き直り。
「その製品を入手する事は、可能でしょうか?」
相手の会社は既に、生産数上限いっぱいで追加は難しいらしいですが。
「こちらの銃器試験用に、いくつか使用されるというので」
その時のであれば。
鼻に人差し指を当てて河智。
「分かりました、ではその時にこちらの技術者も同席できるよう、手配をお願いできますでしょうか」
自信いっぱいの笑みで、三岡は、心得ました、と頭を下げた。
扉から乾いた音が聞こえ、わずかな間の後、開いた。
「失礼いたします」
そう言って入ってきたのは、細身、細い顔、薄い口に細い目、そしてレイヤーまで細い知野陽音。一礼して。
「河智様、今年の主だった祭りは、全て開催される見通しとなりました」
「 それは、現状の治安下でも、という意味なのでしょうか?」
それとも今後回復傾向にあるから、という意味なのか、河智は疑問を口にした。すると。
「この決定に、治安の状況は考慮されておりません、決定した後で、治安をどう安定させていくか、という考えのようです」
「……」
その考え方、決定の仕方は、河智の常識にはなかったようで、口を小さく開いたまま止まってしまった。
そこへ三岡が。
「お金ですか?」
と気づいて口にした。
その言葉に椅子を座り直して河智。
「どういう、事なのでしょうか?」
知野が壁に、各自治体や企業が恒例としている、祭りで発生する経済効果の表を写した。
これによれば、今年の経済効果は近況の治安悪化もあり、前年の六割程と試算されていた。国にとっては暗い夏である。
しかし資料に続きがあり、それを知野が表示すると。
「各祭りの認可を簡略化、資金援助を行う等の施策を行った場合の経済効果試算です」
去年を大幅に超えるまでとはいかないまでも、ほぼそれと同等で、警備も含めた人手を国側が出す事で、より高い経済効果が期待できるという指標でもあった。
「なる程……」
河智は理解した。そして知野に向き直り。
「経済効果の為に、祭りを推奨する、という事なのですね?」
「しかも、治安は二の次」
小さく三岡が。
それを聞き流して知野。
「これは次期王選の一環です」
「!」
直ぐに河智の頭の中で、動きがつながる。
現状、王道派は治安の悪化と、それに伴う経済の萎縮で支持率が下がり、無傷の代王派に比べ不利な状況にある。そこで分かりやすい経済効果と、不満のはけ口として、祭りを利用しようという事なのだろうと。
しかし。
「これを提案したのは、南代香北という事です」
「!」
再び、今度は三岡も驚いた。
「どういう事です? 代王派が王道派に塩を送るなんて」
三岡に首を振って知野。
「違います、これが成功すれば南代の、ひいては代王派の手柄であり、失敗すれば須々木王の失策となります」
もちろん、本来であれば、成功も失敗も須々木王に帰結するのだが、代王派がそうはさせないのが分かっているから。
鼻に指を当て河智が。
「では王道派は、それ以上の経済効果を上げる必要がある、という事ですね?」
相変わらず河智の思考は素早かった。
しかし経済沈下の原因である、治安を直ぐに回復させる事は、草平衆の影松桐蔭を取り逃がした為、不可能であろう事もまた確かである。
ではどうするか――。
「東亜藍潮計画を活用できないものでしょうか?」
「」
河智の大胆な提案に、知野も三岡もとっさに反応できなかった。
確かに、現在、陽の国において、これ以上の大型計画は存在しないし、歴史的世界的に見ても、これは最大規模かつ最高額の計画である。
それだけに、計画の中心である火繰家であっても、おいそれといじれる代物ではないのだ。
「他の方法でもよいのですが、なるべく派手に見せるという意味では、効果的と思うのですが……」
すると、知野よりは良識の薄い三岡が、額に手をやり楽しんでいるのか困っているのか、よく分からない表情で。
「投資会社を」
いったん区切り、しかし続けて。
「投資会社を一つ立ち上げるのはどうでしょう」
手で額をこすりながら。
東亜藍潮計画用に、一つ投資会社をつくって、一般からの小口投資先にするんです、しかも短期で。
「具体的な数値は検討が必要でしょうが、短期で小遣い稼ぎができる程度であれば、まあ。後は宣伝の仕方次第ですかね」
立ったままの知野が。
「その利息はどこから出すのですか?」
「最初は、計画の積立金からが望ましいんですけどね」
もちろん、各参加会社や名家から反対されるだろうから。
「火繰家が、ですね」
河智が座り直す。
「そうなんですが、まあこの際です、王道派にお願いするのも、いいかもしれませんよ」




