国中起盛 十六
軍務省の動きと、それに呼応する公安省。政府内で徐々に頭角を現す大窪透と暮里竜星。曲者大臣、佐復外務大臣は、未来に何を見ているのか!?
人物紹介
昇翔太郎:元赤警察。青丹春防衛戦で諜報活動後、常若へ左遷されていたが退職し、元上司である原井円生の誘いを受け、軍務省へ入った。
原井円生:元公安大臣。引責辞任をさせられた後、議員を辞職。軍務省へ入り現在は大佐の位となっている。
柱浩二郎:元青警察。青丹春防衛戦にも参加していた。現在は軍務省で大尉の位となっている。
佐復紘一:王道派。外務大臣。部下からも曲者と思われる程、個性的な人物。
大窪透:地方出身の議員で、火繰家により抜擢され、政府内にて辣腕を振るう。暮里竜星とは幼馴染。
暮里竜星:地方出身の議員で、火繰家により抜擢され、政府内にて辣腕を振るう。大窪透とは幼馴染。
宍和田絹男:代王派。公安大臣。行き過ぎた治安活動により、この後罷免が決まっている。
下赤悟朗:王道派。佐復紘一の補佐官。常識人。
石和希具視:皇王直下となるまで成り上がったが、出る杭の例え通り、政治の場からはじき出されてしまった。
小能中御池:原井円生の後の公安大臣に任命される。五月末、軍務省の立ち上げを待って、青丹春防衛戦の責任を取り辞任。一議員に戻る。
島海義弘:王道派。軍務省初代大臣。
用語
公安警察別室調査部特別合同部隊:公安が主導する特別治安調査隊に、軍から人員を追加した混合部隊。目的は治安維持の為の諜報活動。
レイヤー:眼鏡型の情報端末。
赤警察:捜査調査を担当する警察。
青千院:太京にある政治の中心地。
火繰家:鉄鋼事業で財を成なした、古代より続く名家。王道派。次期王選を迎え、岐路に立つ。
馬山国:春に、陽の国へ戦争を仕掛けた大陸の国の一つ。今また軍備を増強している。
「昇翔太郎、軍務省情報大隊特殊情報中隊第一調査小隊情報解析員として、本日付をもち配属を命ずる」
また同情報解析員は、公安と軍が共同で治安維持活動をする、公安警察別室調査部特別合同部隊へ、配属となる。
スマートで、短い黒髪に大きな瞳にはレイヤー、どこから見てもモデル顔の昇が、かちっとした敬礼をし。
「拝命いたしますっ」
と応え、再び直立。自分のレイヤーにその情報が記録される。
真新しく非常に機能的な収納を備えているが、狭く松葉色の部屋で、窓の外ではあちらこちらで建物を建設しているようだった。
そして、落ち着いた雰囲気で、黒いレイヤーをかけ、鍛えられた身体に似合う、精悍な顔つきの男は、目の前に立ったまま続けて。
「なお、情報解析員は個人で小隊とみなす為、少尉相当扱いとなる」
再び敬礼で応える昇。
そこに階級章を着けてやる男。
「ん、これで通達は終了だ、楽にしろ」
そう言われ腕を後ろにやり、両足を軽く開くと、やや上向きに顔を上げる。
「昇、お前は優秀だし、赤警察時代の評判もいい」
男は外を見ながら。
「今回の任命は、原井統帥本部大佐から、直々のご指名によるものだ」
思わず驚いた表情になる昇。
お前であれば、赤警察がどのような捜査をするのか解ろうし、問題を起こす事なく。
「公安と共同の諜報活動ができよう」
「ご期待に添えるよう、粉骨砕身、務めます」
公安は俺達の古巣でもあるが、それゆえの親しみもあれば、同じく反発も起こり得る。
「細心の注意をはらえ、俺からは以上だ、何か質問は?」
男は昇に向き直ると。
「柱大尉に質問があります」
「何だ?」
「期間については、定めがあるのでしょうか?」
「 」
柱はその言葉に、深めのため息。再び窓の外に目をやりながら。
「定めはない」
やや早口に。
軍の任務はその細部に至るまで、どれ程長い期間であろうが延長する事になろうが途中切り上げが行われようが、必ず最初に通達されるのが決まりで、それは効率の面もあるが、人員の集中管理という意味も持っている。
守秘義務が全ての行動について回る軍において、人員の管理は必須である。それぞれの友好関係や、日ごろの行動範囲に至るまで、その全てが国家防衛に繋がっているのだ。ゆえに人員把握は非常に重要で、わずかな齟齬や管理ミスも、敵につけ入る隙を与えるものとなる。
昇は、正直に驚いた顔をした。その顔を見ながら柱。
「……まあ、そうだな、ふん、驚くのも無理はない」
今度は身体ごと窓の外を見ながら。
「多分に政治的な力が、動いた結果だろう」
そもそも、公安との合同作戦そのものが、政治的駆け引きの結果だろう。
もちろんそれは昇も理解している事だが、であっても、とりあえず期間は定めて後で延長するなりで、いくらでも対応は可能なのだ。
「他に質問は?」
「ありません」
最後に目の覚めるような敬礼をし、昇は部屋を出た。
先程の部屋と同じく、松葉色の廊下は、間隔を狭くして丈夫な柱が奥まで続いており、その窓側から見える工事風景の音を、全て遮断する程の防音と防御力を備えている。
そこを歩きながら。
何故期間を決めない?
必ず理由がある筈と。
……後で期間の変更では意味がない? だとすれば、期間が定まってない状態が、必要という事?
「……」
定まってない状態……! であれば。
「その状態を見せる必要があるのか」
そう、その見せる相手が誰か、昇では分からないが、これは軍務省からのメッセージなのだ。
二階のホールに着き、そこで自動歩行者補助昇降機は使わず階段を降りる昇。一階の守衛に挨拶をして正面玄関を出た。
「……ふぅ」
これは思っている以上に、厄介な任務かもしれない、と昇は一人ため息をついていた。
「なる程、そんな経緯があったんだね」
笑ったような細い目に、レイヤーをかけた佐復外務大臣が、ソファーに腰かけ感心したように頷いた。
青千院内の外務大臣執務室にて。
向かいのソファーに座っているのは、痩せてふわりとした髪型に、どこか眠そうにも見える目にはレイヤー、細い唇になで肩の大窪透。
「ええ、我々としても公安、軍と両大臣のお役に立て、良い経験を積ませてもらいました」
その態度は、末席の議員のそれではなく、足を広げ前傾姿勢、へりくだりのない話し方は、ベテランのようであった。
なる程、この男は自分の見せ方を知ってるな、と全く態度には出さず。
「では君は、公安内部の調書を見たんだね、それは私も見れるものなのかい?」
少し笑ったような表情のまま、大窪は。
「いえ、見れません。ご希望でしたら私から取り計らえますが?」
それに自分の価値の高め方も、知っていると、火繰家が送り込んでくるだけの事はある。
そう佐復外務大臣は思うも、口では。
「いや結構、私が見ても役には立たないだろうしね」
それをフォローするでもなく、作り笑いで返す大窪。
そもそも情報政策大臣代理とその補佐が、何故、公安の綱紀粛正を手伝う事になったのか、きっかけはこうである。
情報政策省はいずれなくなる省であるが、その前に、情報の整理を行っていたところ、いくつかの不明な情報が出てきたという。もちろん具体的な内容は、佐復外務大臣に伝える類のものではないが、不明情報には共通点があり、その確認の為、公安省が持っているであろう、情報の確認を行ったのだという。
この事がきっかけとなり、交流を深め、しかも、大窪も暮里も正式な大臣ではない為、他者からは権力や派閥的な問題視をされず、自由に動けた。
そして、その二人が揃って優秀で、後は去るのみの宍和田公安大臣からすれば、それを利用しない手はなかった、という事らしい。
「まあこちらの省はたたむ準備を終え暇ですので、何かご用命がありましたら手伝わせて頂きますよ」
最後に自信たっぷりな笑顔を見せ、大窪はその部屋を後にした。
すると。
「ひどく自信家でしたね」
目にかかる黒髪を横に流し、くっきりと二重に黒い瞳とレイヤー、整った細い顎の下赤悟朗が、代わりで入ってきた。
「少し下手に出れば増長して、後は石和希の時のようになりかねない感じです」
彼が入ってきて、それと同時に情報をレイヤーで受け取る佐復外務大臣。執務机に戻りながら。
「そうだねぇ、こちらが丁寧である程、上からの視線だったねぇ」
下赤は佐復外務大臣が、わざとそうした態度を取って、相手を量っているの理解していたので、先程の台詞。
佐復外務大臣は、椅子を左右に緩く回転させながら、首を持たれかけて。
「しかし彼は、自分の見せ方を知っているようだね」
「え?」
思わず声が出る、下赤。
どのような姿勢で座り、どうした手振りで、どんな言葉遣いで話すのか。
「彼は自分の演出方法を、知ってるんだろうね」
「!」
自信があるのは実際そうだろうし、能力も十分ある。そうした若手は彼以外にもごまんといるが、それを他者に理解させる事のできる、プロデュース能力まで併せ持った者は、ほとんどいないだろう。
「もしかしたら、こちらが向こうを量ったんじゃなく、向こうがこちらを量ったのかもしれないね」
「そんな……」
下赤にはにわかに信じられなかった。
相手はまだ経験も殆どない、若輩者でしかなく、対して佐復外務大臣は、経験豊かな熟達議員で、現在の議員達の中にあっても、特に曲者中の曲者だと思っていたからだ。
「まあ、私としては小能中君の時とは違い、流石火繰家、といった印象かな」
「……」
下赤は思わず絶句した。
「さて、これが彼らの職務記録だね?」
先程レイヤーで受け取った情報を、壁に映しだした。
大窪透と暮里竜星の、全議員職務記録であった。
こうしてみると、地方議員の時から大窪が動き回り、暮里が実務を回すといった二人三脚のようだった。
「新人議員の時から、これだけの記録があるとは、驚きです」
下赤は、既に確認している情報であったが、自分より経験年数が低いにもかかわらず、改めて、舌を巻く実績であった。
「あぁ、まあこれなら納得というところかな、次の公安大臣は」
下赤が、その言葉に素早く視線を向け。
「宍和田公安大臣の、後任人事ですか!?」
「そうだね」
いくら優秀とはいえ、特例で地方から引っ張ってきた議員で、経歴も浅い彼等が、いきなり大臣になるとは、下赤でなくとも驚いて然りだろう。
だがもちろん、これには理由がある。
「既に次期王選が始まっているからね、そうなれば、大臣は全て選任し直しだからね」
これならば火繰家の顔もたつし、王道派としても勢力は維持したままとなるので、短期のつなぎとしては、理想的であったのだ。
佐復外務大臣としては、引き続き、彼等とは親睦を深めた方が、色々良いかもしれないと、考えていた。しかし今は。
「彼のくれた情報には、目を通したかな?」
背もたれに、力を抜いて佐復外務大臣が尋ねる。
「はい、新改革派の今後の行動についてですね」
今度は下赤がその情報を、壁に映しだした。
その内容は、新改革派がいつごろ蜂起するのかという予測で、その理由まで記された、細かく信頼に足る情報であった。
「んー、これを見る限り、今すぐじゃないが、って感じだね」
まるで、引き絞られた弓のようだと、佐復外務大臣。
彼の立場で考えると。
「馬山国の動きが気になります」
と下赤が言う。
頷く佐復外務大臣。
内政が混乱するとなれば、それこそ馬山国としては好機であり、攻める切っ掛けにもなるだろう。もちろん、既にそうなった時に備え、外交的手段は行っておいたが、国内での犠牲者は無い方がいいのだ。
「んー下赤君、島海軍務大臣に会議依頼をお願いできるかね」
「 はっ、どのような内容をお伝えいたしますか?」
ぴしっと姿勢を正して、下赤が確認すると、佐復外務大臣は、再び椅子を左右に回しながら。
「我が国軍の軍備状況に関する相談だね、ま、早い話、軍備の充実を世界に喧伝したいとね」
これで馬山国が、ひるむなり行動が遅延でもしてくれれば儲けものだが、佐復外務大臣自身、それ程期待してはいなかった。
「さて、にぎやかだが、新しい時代となるか……」




