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陽国史 一  作者: いちのはじめ
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国中起盛 十五

 政府内にて優勢に立つ代王派。有効な政策は全て南代香北みなみだいかぼくがたてた事となり、評価と勢いを得ていく。焦る王道派はついになりふり構わない行動へ!

 次期王選を正確に予測する為、那美樫奉斎なみがしほうさいを調べる八谷忠元やつやちゅうげん。そこには噂となっていた<影梁かげはり>の姿が……!


人物紹介

 那美樫奉斎なみがしほうさい須々木雅義(すすぎまさぎ)に指名された次期王だが、そうはさせまいと藍河宗玄あいかわそうげん南代香北みなみだいかぼくを次期王に据えようとして、国家を二分する戦いとなる。

 須々木雅義すすぎまさぎこくの王。平時には優秀で経済が得意な王として評価を得ていた。

 南代香北みなみだいかぼく側男そばめとして皇王に仕える。藍河宗玄あいかわそうげんによって次期王に推挙される。本来であれば誰も相手にしない試みだが、皇王に気に入れられた為、国を二分する勢力の一方の中心となる。

 森國男もりくにお:代王派の政府内における中心人物。総務大臣。冷静かつ知的であるが、相手を見下す傾向がある。

 藍河宗玄あいかわそうげん:代王。本人に権力欲は少なく、それよりも本気で国の安定を望んでいる節がある。

 八谷忠元やつやちゅうげん:代王派。元副大臣。藍河宗玄あいかわそうげんの腹心の部下として動く。用心深く、竹野中竜兵衛たけのなかりゅうへえをして、その才能を評価される人物。

 望月一平もちづきいっぺい:辰港の建設中初期、警備主任をしていた。現在は青千院せいせんいん館長。

 塩永敬善しおながけいぜん月帝つきみかど家の交渉担当。

 金井正道かねいまさみち三目みつめ家の財務を担当している。

 知野陽音ちのよういん火繰ひくり家の参謀。河智聖子かわちしょうこの教育係でもある。

 蘇与内克己よそうちかつみ那美樫奉斎なみがしほうさいが雇った<影梁かげはり>。元金剛衆(こんごうしゅう)


用語

 レイヤー:眼鏡型の情報端末。

 青千院せいせんいん太京たいきょうにある政治の中心地。この広大な敷地中に、様々な政治機構がおさまっている。

 <影梁かげはり>:諜報活動を専門に扱う者。

 火繰ひくり家:鉄鋼事業で財を成なした、古代より続く名家。王道派。次期王選を迎え、岐路に立つ。

 三目みつめ家:古代から存続する名家。あらゆる分野に企業を持つ。今の代になって、初めて政治的な権力へ積極的に近づき始めた。

 月帝つきみかど家:政治家や経営者を数多く輩出している、古代より続く名家。近年、その影響力が非常に低下している。

 奥義衆おくぎしゅう三目みつめ家に仕える衆。その性質上、諜報活動が得意。

 風間かざま家:三目みつめ家の分家。本家から離れようと画策している。

 「祭り、ですか?」

 綺麗に七三分けの灰色がかった短髪で、四角い目に濃く深い藍色の瞳とレイヤーの、那美樫奉斎なみがしほうさいが立ったまま。

 「そうだ」

 四角く平面的な顔にしっかりとした眉と優しく細い瞳にレイヤーをかけた、須々木(すすぎ)王が。

 黒鳥の間と呼ばれる青千院せいせんいんの一角にて。そこは横に広く、素朴だが洗練された古木で作られた執務机が一つと、向かいの壁一面ガラス窓の外には向日葵、ベージュ一色の大きな絨毯に、机左手の壁に掛けられた絵には、黒い鳥。

 会議を終えて戻ってくるなり椅子に座り、「祭りだ」と言われても何の事だか、那美樫なみがしにはさっぱりである。まあ、時節柄話題になっていてもおかしくない話ではあるが。

 「 」

 すると那美樫なみがしのレイヤーに、須々木(すすぎ)王からの情報が表示された。

 「これは」

 各自治体や企業が恒例としている、祭りで発生する経済効果の表であった。

 これによれば、今年の経済効果は近況の治安悪化もあり、前年の六割程と試算されていた。国にとっては暗い夏である。

 「ん」

 しかし資料に続きがあり、それを確認すると。

 「各祭りの認可を容易にする、補助金を出す等をした場合の経済効果だ」

 去年を大幅に超えるまでとはいかないまでも、ほぼそれと同等で、さらに大幅な補助金を出すか、人手を国側が出す事で、それを上回るという指標でもあった。

 予算なら、公安省が使わせてほしいと、しかし断った政府内予備費が残っている。もちろん、本来の目的とは違う使い方にはなるが。

 人手は難しいだろうが、これもある程度、金で解決できるだろう。であれば次期王選を睨んで、ここで経済の回復が狙えるのであれば、多少強引な手法であっても、これを使わない手はない。

 「この内容でしたら、今からでも急ぎ対処が可能です。ご命令いただければ直ぐにでも」

 と、やや早口で言う那美樫なみがしだが、しかし。

 「それを出したのは南代みなみだいだ」

 「!」

 会議で直接提案したのはもり総務大臣だったが、発案者は南代みなみだいだと、他の大臣達にも伝わるように裏で動いたのだ。

 思わず険しい表情で那美樫なみがし

 「では」

 「そうだ奴の手柄となる」

 成功すれば手柄は南代みなみだいのもので、失敗すれば政府の責任者たる、須々木(すすぎ)王が責任をとる事になる。しかし、経済に対する政策なので、基本失敗は厳禁なのだ。経済に強い王としての評価を、ここで見せておかねばならない。

 「……」

 那美樫なみがしからすれば、これ以上ないくらい、嫌な状況であった。

 須々木(すすぎ)王は経済の為には治安回復が第一と考えており、その為の公安内部改革であった。那美樫なみがしは<影梁かげはり>を使って相手の足を引っ張ろうとしていたのだが、それ以上に南代みなみだいが手柄を立ててしまえば、無意味といってよかった。

 冷静な那美樫なみがしとしては、珍しく苛立ちが、立ちの姿勢に表れていた。

 「今後代王派の政策提案は、全て奴が提案した事になる」

 となればこちらも、常に対抗処置をしていかなくてはならないという事だった。

 那美樫なみがしは心の中で舌打ちをした。これでは野党のやっている事と変わらないではないか、と。だが、苛ついてばかりもいられない。打てる手段は、全て、打つ必要に迫られたという事なのだ。

 「」

 彼の頭の中で、黒いものが一斉に動き始めた。

 相手を陥れる謀略を、こうも真剣に考えるとは、呆れた王になるな。

 しかしそう思いつつも、思考止まらなかった。

 須々木(すすぎ)王はこの状況を作り出したであろう、藍河あいかわに対し、何か手は打てないものかと、考えをめぐらす。

 彼を影の首魁とみているのだ。

 政治的に表に、権力への欲望が無いなら代王の位を返上すべきであるのに、それをせずしかし政治的影響力は保持たまま。いやらしい男である。

 「……」

 そうか、それならいっそ、一般に、奴を影の支配者として認識させてしまうのは? 陰謀論好きな大衆に受ける話であるし、奴が何をしてもうがった見方になるだろう。

 醜聞や攻撃をするよりも、よっぽど簡単な事だった。


 「無難だな……」

 横に流した黒髪と、四角い輪郭に小さい目と線のような鼻、それに横に平べったい口という、特徴的な顔立ちでレイヤーをかけている八谷忠元やつやちゅうげんが。

 青千院せいせんいんの中庭には、季節の花として向日葵が咲き始めており、半個室が並ぶ形となっている電子記録書庫は、そこへ続く扉が放たれて、爽やかな風が流れていた。

 電子記録を自分のレイヤーに表示して、それを確認していた。

 その内容は、那美樫奉斎なみがしほうさいに関するもので、議員になったきっかけも、いや、それ以前から須々木(すすぎ)王の側近として、常に一緒におり、議員になった後は、王道派の連絡役として、常に方々へ顔を出し人脈を広げ、その地位を確立してきていた。

 要するに、何にも面白みがないのである。わざわざ国会電子記録書庫で調べなくても、彼自身の公開経歴にある通りなのだ。だが。

 「本人以外はどうか……」

 彼の経歴に出てくる人物達は、必ずしもそうではないだろう。

 須々木(すすぎ)王が次期王にと育ててきた人材なら、可能な限り、探られて困るような行動は、他の者にやらせている筈である。

 八谷やつやは経歴に出てきた登場人物を、片っ端から、レイヤーを通じて国会電子記録書庫から調べてあげていく。

 「ふぅ」

 すると明示はされていないが、地方への講演行う際、移動の途中で事故にあっており、その責任を取って講演の責任者が、刑事罰を受けていた。

 「その後議員に、か」

 出所後、勿論、那美樫なみがしに取り立てられて議員となっていた。

 その他にも、那美樫なみがしの側近だった男が、独立して輸入業で成功を収めていたり、金融証券の会社を経営していたりと、大分周囲が華やかで派手はでしかった。

 「まあ」

 しかしこうした内容も、次期王に選出されるような人物であれば、むしろ普通であり、やはり。

 「無難か」

 という感想しか出てこなかった。

 那美樫なみがし自身の、須々木(すすぎ)王側近後の経歴も地味だが堅実で、それゆえに華もなければ記憶にもないものばかりである。

 「んー……」

 一般に対してであれば、南代香北みなみだいかぼくも同じようなもので、経歴が浅い分、内容も少ないのだが、それが政府内にもたらした効果は、王の会議参加等、非常に大きいもので、八谷やつやからみても、南代みなみだいが有利と思える状況であった。

 王道派は何か華やかな目に見える成果が、そうだなぁ、やっぱり経済や治安で手柄が必要だろうな、まあ。

 「難しい、か」

 八谷やつやはかつて藍河あいかわ代王の参謀役として、副大臣という地位にいた事がある。それは自分の政策や考えを行動に移す場所ではなくて、上の意見を上手に、反対意見が起きないよう実行に移すという所であった。

 その経験から、如何に那美樫なみがしが才能豊かであっても、必ずしも自由に能力を発揮できるわけではないと、やや同情気味に思っていた。

 「まあこんなところか」

 だが那美樫奉斎なみがしほうさいを調べるという事は、火繰ひくり家を調べるという事でもある。

 既に権力者間では次期王選は始まっており、王道派の火繰ひくり家対、代王派の三目みつめ家という構図も出来上がっているのだ。

 「ふぅ」

 試合開始の合図が上がって、現在どちらがどれだけ点数を得ているのか分かれば、対応していくのも簡単なのだが。

 「……とりあえず」

 八谷やつや青千院せいせんいんの入館記録を調査し始めた。情報へ接続すると、安全管理システムが接続者の身元を確認し、身元確認が取れ問題のない人物と判定されると、青千院せいせんいんの館長である望月一平もちづきいっぺいへ連絡が行き、彼が許可を出して、入館情報へ接続が出来た。

 犯罪の影に女と金、とはよく聞くが、それは権力争いにもいえる事で、しかし女に対して得意ではない八谷やつやとしては、金の流れを調べる事になる。そして金の流れはそう簡単ではない事も承知しているので、金を動かす人の流れを調べるのだ。

 誰が何時入館してきて、何処を移動して、何時退館したのか、ここ二ヶ月分の情報をレイヤーでまとめ分析していく。すると。

 「塩永敬善しおながけいぜん……月帝つきみかど家か」

 目立って多く、青千院せいせんいんを訪れているという記録が目についた。勿論、金井正道かねいまさみちや自分も増えてきていたが、月帝つきみかど家はそれをはっきり超えていた。

 「ふむ」

 この様子では二ヶ月以前から、こうした動きをしているだろうと、増え始めを、過去をさかのぼり検索していくと。

 「……四月の時点で」

 正確にはその中旬以降、月帝つきみかど家が青千院せいせんいんへ頻繁に通うようになっていた。そのうちの何回かは金井正道かないまさみちや当主自身も来ている。

 時間は、早朝ともいえる程早い時間ばかりで、当然退館も議員が大勢揃う前に行っていた。

 「んー……」

 八谷やつやは眉毛を互い違いにして、机に右ひじを付きながら、頭の中を整理する。

 月帝つきみかど家は多くの王を輩出してきた、名家中の名家である。しかしここ数代にわたり、自身の影響範囲から王を出せていない。それは月帝つきみかど家に、影響力を支える資金力がないからだ。

 「人脈だけじゃぁ」

 かつては豊富な人脈こそ、資金力と同じ価値と影響力を持てたが、こくの長い平安と繁栄は、それらを価値のないものへと、徐々に衰退させていたのだ。

 しかし次期王選が動き始めたのは先月末で、まだ二週間と経っていない。

 「んー……」

 肘を机から離し、再び他を調べ始める。予断で間違った判断はしたくないので、これは単なる事実として、記録にとどめておく事にしたのだ。

 「ん」

 すると今月に入り、知野陽音ちのよういんが一日だけだが、かなり長い事、青千院せいせんいんにいた事が分かった。そして他にも。

 「蘇与内克己よそうちかつみ?」

 議員ではなく、特殊警護要員という名目でここを出入りしている男との情報だが、その行き先が。

 「那美樫なみがし――そうか」

 この男が雇われた<影梁かげはり>か。

 だがもちろん入館記録からは、個人情報までは分からないので、これは噂を基にした推測だが、合っているだろうと。

 「んー……」

 出来ればこの、蘇与内克己よそうちかつみを調べたいが、<影梁かげはり>相手では八谷やつやの手に余る。

 「そうか」

 こういう時こそ、三目みつめ家の奥義衆おくぎしゅうを頼ればいいと、ひらめく八谷やつや。しかし、いまいち彼自身が相手を信用していない。向こうが隠し事をしていたのだから、そう思うもの無理ないだろう。

 それに情報の一元化は、強い偏りを生む危険性がある。

 「できれば」

 風間かざま家からも欲しいところだな。

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