表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陽国史 一  作者: いちのはじめ
82/137

国中起盛 十四

 公安省の内部改革が始まった。しかしそれを行っているのは宍和田絹男ししわだきぬお公安大臣ではなく、何故か暮里竜星くれさとりゅうせいであった。そしてその執務能力に驚いたのは、宍和田絹男ししわだきぬお公安大臣だけではなく、島海義弘しまうみよしひろ軍務大臣も同じであった。


人物紹介

 島海義弘しまうみよしひろ:王道派。新設された軍務省の初代大臣。

 宍和田絹男ししわだきぬお:代王派。公安大臣。野心をもって大臣となったが、大きな事件や、それを解決する為の強引な手法などで、追い詰められている。

 暮里竜星くれさとりゅうせい:王道派。火繰家により取り立てられている。情報政策大臣代理。非常に優秀。

 大窪透おおくぼとおる:王道派。火繰家により取り立てられている。情報政策大臣代理補佐。非常に優秀。

 祖茂田洋二そもだようじ:新改革派。押土おしど超高架道路爆破事件で現場の確認をしていた人物。赤実陽あかみひざしによって追い詰められ、自分で公安に連絡し逮捕された。


用語

 レイヤー:眼鏡型の情報端末。

 太京たいきょうこくの首都。

 青千院せいせんいん太京たいきょうにある政治の中心地。

 新改革派:政治関連では野党を意味し、在野にあっては国の現状に異を唱える人々を指して言う。

 草平衆くさひらしゅう:国の旧兵器を強奪し、本部を公安に襲撃されている。しかし中心の影松桐蔭かげまつとういんは行方知れず。

 押土おしど超高架道路爆破事件:六月三日に押土で起きた爆発事件。

 聖翼会せいよくかい:新改革派系の過激集団。太京たいきょう周辺と、常若とこわかに分散して活動している。常若とこわか並比良和司なみひらかずしによって、中心人物である、女十亀康二めときやすじが捕らえられている。

 「時事情報局では大々的に取り扱われている様子」

 黒い髪を全て後ろに流し、如何にもいかつい武人然とした堀の深い風貌に、レイヤーをかけた島海しまうみ軍務大臣。

 太京たいきょう青千院せいせんいんから東に見える、公安本部内の大臣応接室。

 足元は分厚くえんじ色の絨毯に、壁は上部が白で下部が木の板、その一方には秩序の書が掲げられており、天井は全くの白一色で、部屋の中央には、柔らかく千歳緑の色の応接用椅子が四脚向かい合わせに置かれ、その中央にはそれ程大きくはないが、一本の木からできた分厚いテーブルが置いてあった。

 島海しまうみ軍務大臣は入り口から右側の椅子に座って。

 「今更それを受けてどうこうもありませんな」

 向かい合い、眉間の皺が残ったような表情で、堀が深く、地味なレイヤーが逆にそれを際立たせている、宍和田ししわだ公安大臣。

 先日より始まった公安省内部の一大改革は、現在進行形で成果はあるものの、今までのやり過ぎ行き過ぎとした批判の方が話題としては残りやすく、その印象を引きずってか、良いとらえ方より、そこまで悪い状況だったのかと、批判的な情報として広まっていた。

 宍和田ししわだ公安大臣にいわせれば、内部粛正は、前任者の失態を回復しているだけで、武器強奪事件にしたって、就任当日の出来事なのだから、事前にその情報をつかんでいなかった前任者にこそ、責任があると思っていた。

 「まあ島海しまうみ軍務大臣には感謝しています、最後の大仕事を、これで終える事ができますからね」

 だがそう言う表情に、笑顔は一切なかった。

 「ん?」

 密度の高そうな木の扉を叩く音。

 電子化されていない程、高級で格調高い場合が多いのは、伝統という名の束縛だと思いつつ宍和田ししわだ公安大臣は。

 「入りたまえ」

 と声をかけた。

 耳障りの良いドアノブを回す滑らかな音で、扉が開いた先には、大柄で、大きな瞳は眼光も鋭くレイヤーをかけ、太い眉毛と大きな口は、意志の強さを表している暮里竜星くれさとりゅうせい

 「失礼いたします」

 一礼して顔を上げた先には、宍和田ししわだ公安大臣以外の人物に気づき、再び一礼。

 島海しまうみ軍務大臣も立ち上がり一礼する。そして視線を宍和田ししわだ公安大臣に移し、何故、情報政策大臣代理がここにいるのかと、座りながらその態度で尋ねる。

 「暮里くれさと君は若く優秀ですよ、今回の内部粛正についても協力しているのです」

 そう紹介されて、再び一礼する暮里くれさと

 「……」

 島海しまうみ軍務大臣は初めて会ったこの若者が、何故か、いわれるまでもなく優秀である事に気づいていた。

 「宍和田ししわだ公安大臣、公安全職員の同意確認が取れましたので、そのご報告に参りました」

 「……早いな、もう終わったのか」

 目を見開きながら宍和田ししわだ公安大臣が。

 その態度から、何の確認同意で、どれだけの人数かいるのか分からないが、絶句しかける程の事をやってのけたのだと、島海しまうみ軍務大臣は理解した。

 「お打ち合わせにありました通り、辞職、取り調べ、逮捕の三段階でそれぞれ、二十一名、三十二名、八名となっております」

 どういう関係で、暮里くれさとが公安の改革を手伝う事になったのかまるで分らないが、これではまるで公安の現場責任者だと、島海しまうみ軍務大臣。それに、これでは粛正の手柄は彼のものになるだろうと思った。が。

 いや、違う。

 これが終われば宍和田ししわだ公安大臣は、その地位を辞任する事が決まっているのだ。であれば、誰の手柄であろうと、自分は手をかける事無く、滞りなく進むのが一番なのだろうと、考え直した。

 これには、後ろで大窪透おおくぼとおるの立ち回りがあればこその状況だったが、島海しまうみ軍務大臣はもちろん知らない事である。

 批判の声の強まりで、立場が弱くなっていった宍和田ししわだ公安大臣に、形だけでも手を差し伸べたのは大窪透おおくぼとおるで、本来であれば、そんな議員席の末席に座っているような者を相手にしても、何の利益もないのだが、精神的に追い詰められていた事から、思わずその手を握ったのだった。これは全く、あの時、大窪透おおくぼとおるの言った通りの出来事だった。

 「多かったか、まあいい、これで終わりだ」

 どことなく力の抜けた表情で宍和田ししわだ公安大臣。しかし。

 「これは権限外の事ですので、意見ではありますが」

 暮里くれさとの言葉に対し、急にめんどくさそうな表情で、視線を戻す宍和田ししわだ公安大臣。一礼して続ける暮里くれさと

 「新改革派の一部が、草平衆くさひらしゅう残党と結託し、近日中に行動を起こすという」

 噂が広まっておりました。

 に対し、一瞬遠慮したのだが、眉間に皺を寄せて頭を抱える宍和田ししわだ公安大臣を見て、島海しまうみ軍務大臣は。

 「詳しく聞きたい」

 ゆっくりとした口調で。

 暮里くれさと宍和田ししわだ公安大臣を見ると、それに気づいて手を振る。一礼して暮里くれさと

 「はっ、今年六月に起きました押土おしど超高架道路爆破事件にて、収容中の祖茂田洋二そもだようじの話として出てきたものです、ですが」

 彼が捕まる前に聖翼会せいよくかいと接触した形跡がない事、また彼が捕まる前では聖翼会せいよくかいの勢力は強く、誰かと組む必要がなかった事を。

 「鑑みますと、信ぴょう性に疑問があります」

 「では何故気にした?」

 いらいらした表情を隠そうともせず、宍和田ししわだ公安大臣が言う。

 「現場が気にしておりましたので」

 「」

 声こそ出さなかったが、島海しまうみ軍務大臣は暮里くれさとに感心した。

 そうなのだ。現状を最もよく知るのは現場である。決定権こそ足を使わない上層部だが、それゆえ肌でしか感じられないものを知るのは現場であると、島海しまうみ軍務大臣は常日頃から自分に言い聞かせているのだ。

 だがこれは、深刻な問題が提起されたという事でもあった。何故なら今回、公安省内部を綱紀粛正したのだが、それが間に合わず、既に、収監中の者が外部の者と連絡を行っていたという、状況証拠になるからだ。事実であれば。しかし。

 「その男、何故今になってそんな話をしたんだ」

 という宍和田ししわだ公安大臣のもっともな疑問。

 「そもそもその話自体が嘘かもしれんぞ、似たような話なら他の誰かもしているだろうに、君は収監中の全調書を見たわけじゃあるまい?」

 莫大過ぎる量になるから、当然一週間ちょっとでは不可能なのだ。

 「大窪おおくぼが、テロ及び政治犯に類する者に限り、全て確認いたしました」

 「 」

 あんぐりと、口が開いたままになる宍和田ししわだ公安大臣。

 それだって莫大な量には違いないのだ。凡人なら、リストの確認だけでこの期間は手一杯であろう。

 「……」

 島海しまうみ軍務大臣は右手で顎をさすりながら、その男にも関心を寄せていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ