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陽国史 一  作者: いちのはじめ
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白若竹 十六

 馬山国まざんこくが再び軍備を増強しているという噂から、青丹あおにうへ偵察しに来た赤実陽あかみひざし。そして哭腑衆こくふしゅうとの対面で、青丹春防衛戦あおにうはるぼうえいせんでの行動に、関心を持たれている事を知る。


人物紹介

 赤実陽あかみひざし風間かざま家の<影梁かげはり>。

 多々良真琴たたらまこと:<かかり>技師。若く柔軟なものづくりで、新設された軍務省へ電柵でんさく電足帯でんそくたいを納品している。

 島海義弘しまうみよしひろ:軍務省初代大臣。

 柊楓ひいらぎかえで赤実陽あかみひざしの変装。

 竹野中竜兵衛たけのなかりゅうへえ風間かざま家の参謀。

 宍和田絹男ししわだきぬお:代王派の公安大臣。強引な捜査を進め失脚寸前。

 川瀬正二かわせしょうじ:元青警察の青年。

 原井円生はらいえんしょう:元公安大臣。今は議員を辞職し軍務省へ入っている。

 一之谷伍政いちのたにごせい哭腑衆こくふしゅうの<影梁かげはり>。

 女十亀康二めときやすじ:会の中心人物。周囲からは「先生」と呼ばれている。並比良和司なみひらかずしによって捕らえられた。

 風間福児かざまふくじ風間かざま家の当主。

 鈴木敬すずきけい哭腑衆こくふしゅうの人格者。

 影松桐蔭かげまつとういん草平衆くさひらしゅうの創立者。実行主義。

 秦巻薫はたまきかおる金剛衆こんごうしゅうの<守人もりと>。辰港たつのみなと事故の現場にいた一人。


用語

 青丹あおにうこくのほぼ中央より、北側の港町。

 レイヤー:眼鏡型の情報端末。

 馬山国まざんこく:大陸の国の一つ。こくに戦争を仕掛けた。

 鉄塔柵てっとうさく:電柵の地域防御版。強力な為、街中で使うと悪影響を及ぼす。

 電柵でんさく:対飛び道具用の防具。

 青警察:重武装した治安部隊。

 電足帯でんそくたい:足の裏に付ける電磁式の移動補助具。

 メガシリンダー:別名、大笹凡筒(おおささなみのつつ。かつて人口減少を食い止める為に作られた、竹筒明星社たけつみょうじょうしゃの人造装置。

 四月十二日暴動:この日に起きた新改革派による政権批判デモが、テロ行動に取って代わられた事件。

 <守人もりと>:近接戦闘職者。

 太京たいきょうこくの首都。

 草平衆くさひらしゅう:影舘桐蔭が作った衆。国がメガシリンダーに保管していた旧兵器を、そこから運送時を狙って強奪した。

 哭腑衆こくふしゅう太京たいきょうに昔からある衆。実践主義。

 <影梁かげはり>:諜報活動を専門に扱う者。

 火繰ひくり家:鉄鋼事業で財を成なした、古代より続く名家。王道派。

 金剛衆こんごうしゅう:火繰家が囲っている衆。背中に昇り火の模様が衣装の特徴。

 聖翼会せいよくかい:新改革派系の過激集団。太京たいきょう周辺と、常若とこわかに分散して活動している。

 青丹春防衛戦あおにうはるぼうえいせん青丹あおにう四月十六日、沿岸へ馬山国まざんこく巡洋艦が砲撃を開始して、その後、敵兵が上陸した戦争。

 

 「誰もいない……」

 青丹あおにうの駅前に立つ、猫のような丸い童顔で、黒く短い髪と白い肌、目の周りはうっすら赤く、レイヤーをかけてつんと尖った鼻先に小さいが色の濃い唇を持った、赤実陽あかみひざし

 日々流れてくる馬山国まざんこく関連の情報は、最初相手国内の粛清という、凄惨だが海の向こうの出来事とたかをくくっていたところ、軍備の強化という内容が伝わり、再び戦場になるという恐怖心から、市民は一斉に逃げ出していたのだった。

 前回の爪痕は三ヶ月も前だった事もあって、今ではきれいさっぱり、新しい街並みとなっている。

 直ぐに馬山国まざんこくが攻めてくるかな、来たとしてもひざしとしては、必ず青丹あおにうとは限らないと思ってるし。

 「まあ状況次第かなぁ」

 晴れて気持ちの良い青空の下、浜辺へ向かうと、以前にはなかった光景が広がっていた。

 「あー」

 浜辺と街境の間には高い堤防があり、そこを乗り越えると、美しかった砂浜は、所々に網のようなものが敷かれており、これでは全力で走れない仕掛けに、そして浅瀬には、鉄の柱があちらこちらに低く刺さって、沖には何の仕掛けなのか、細く背の高い銀の柱が、等間隔に建てられていた。

 「何だろうあれ?」

 沿岸からの大砲を止める為の装置なのだが、ひざしは初めて見たし、レイヤーも反応しなかった。

 「……多々良(たたら)さん? 今いい? あれ見える?」

 レイヤー越しに多々良(たたら)へ突然の連絡で、相手は面食らいつつも、鉄塔柵てっとうさくだと言い、電柵でんさくの街版だと。

 「どれくらい威力あるの?」

 質量の大きすぎる物はまず防げないが、ロケットやミサイル等、起爆装置が付いている物であれば、強制起爆させる事もできるという。

 そんな物があれば、海からの直接攻撃をかなり防げるし、前回のような、青警察達の犠牲も少なくて住むと思った。が。

 恐らくこの見えている範囲だけだろうね。

 と多々良(たたら)の声に、ひざし電足帯でんそくたいを使って一気に飛び上がり、海を眼下にとらえると。

 「本当だ」

 政府が場当たり的な対処をした事が、よくわかった。かといって、国の海岸線全部に設置できるわけもないか、と一人納得して、ふわりと着地。

 「多々良(たたら)さん、何か他に馬山国まざんこく関連で知ってる事ってなーい?」

 『そうだね、特には……』

 んー、と唸りつつ、国内で粛清とか、不死身の人間? とか他の国からも警戒。

 『とか噂も嘘もごっちゃだね、あっ』

 流石に馬山国まざんこくまで行く気のないひざしは、これ以上は調べられないか、と残念そうに呟くが、多々良(たたら)は。

 『あ、ごめん赤実あかみ君、ちょっと仕事が入っちゃった』

 「うん、ありがと」

 このところ多々良(たたら)は忙しい事が多く、メガシリンダーへの納品も、ひざし一人で行く事が多くなっていた。

 「人を雇うとか言ってたから、そろそろ会社にするのかなぁ、……ん?」

 今何か気になる事を言ってたような。

 軽く聞き流してしまった為、レイヤーで今の場面をもう一度再生すると。

 粛清とか、不死身の――。

 「不死身……」

 ひざしは直ぐに四月十二日暴動を思い出した。あの時、木満水きだまりで起きた、つぶれた筈の死体の事を。

 「……」

 左の指を唇に当てて考える、と。

 「おっと」

 後ろの方から物々しい気配が来た事に気づいて、目立たないように、街中の以前より増えている監視カメラにも映らないよう、物陰へ移動した。

 青丹あおにう駅から降りて来たのは、立派なスーツを来た男達で、<守人もりと>が幾人か護衛をもしているので、お偉いさんだと分かる。

 ひざしが誰なのか、レイヤーで被写界深度を合わせると。

 「島海義弘しまうみよしひろ?」

 創設された軍務省の大臣だとレイヤーが表示。如何にもいかつい顔つきだが、どういうわけか、ひざしには実直で真面目な人柄に思えた。年の割には若干老け顔、苦労の跡なのか皺も深く刻まれ、その所為か目は垂れ下がり気味だが鋭く。

 「おっきい」

 身体が、ではなく陽はそう感じた。

 「……」

 しかしそれ以上眺める余裕はなく、鋭い目つきの<守人もりと>達が思いの他鋭く。

 「あ」

 この状況で、レイヤーがタイマーで次の予定を告げたので。

 退散退散。

 そう心で思って、この場を緊急離脱した。

 「 」

 海辺へ向かう一団の中、刈り上げてこざっぱりとした中肉中背で、穏やかそうな見た目だが、辺りを警戒するレイヤー越しの眼光は鋭く、それでいてそれ程目立たない<守人もりと>が、視線を止めた。

 しかしその物陰には、何ら気配は無かった。


 青丹あおにう太京たいきょうはそれなりに離れているが、自動軌道機に乗れば、二十分程度で到着できる。

 窓から見える青い空には、白い雲が前よりも高く積み上がり、自然と入ってくる風の冷たさが心地よく、これから訪れる季節の到来を告げていた。

 太京たいきょう駅に降りた時には、ひざしは、柊楓ひいらぎかえでの恰好になっており、いつもより大人びた雰囲気になっていた。そして。

 「お待たせいたしました」

 声の調子も落ち着いて、挨拶した先には、血色の悪い肌に薄茶色の短髪、大きい二重で瞳の色は灰色そしてレイヤーの、竹野中竜兵衛たけのなかりゅうへえ

 小さくうなずくと、竹野中たけのなかはさっさと歩きはじめる。その後ろを付いていくひざし、いや、今は柊楓ひいらぎかえで

 「青丹あおにうは?」

 歩きながら前を見たまま、竹野中たけのなか

 「はい、とりあえずの防護策と、市民の批難を確認しました」

 「有効か?」

 「限定的に、それと……」

 柊楓ひいらぎかえでから、竹野中たけのなかのレイヤーに情報がとぶ。

 軍務大臣島海義弘(しまうみよしひろ)の視察映像だったが、公開されている情報なので、これ自体には価値はない。

 「気づいた点は?」

 大臣の器の大きさと、護衛<守人もりと>の手練れさだと簡潔に答える柊楓ひいらぎかえで

 話しながら超高架道路まで下がり、自動磁気式車に二人は乗り込んだ。

 「青丹あおにう以外、何か気付いた事は?」

 んー、と先程とは変わってひざしの素のまま。

 「草平衆くさひらしゅうの本部に赤警察が行ったんでしょ? その割には続報がないよね?」

 新改革派も何かおとなしいしい。

 「ちょっと小康状態?」

 四日程前に、草平衆くさひらしゅうの隠れ家を襲撃したという情報が流れた。しかし、続く結果はいつまでたっても流れては来ず、昨日あたりから世間では、失敗しただの失態だの、そもそも草平衆くさひらしゅうではなかっただの、それぞれが好き勝手に噂しあってた。

 「今朝政府に対し野党から宍和田ししわだ公安大臣辞任求める意見がでた」

 「あー」

 草平衆くさひらしゅうの逮捕に、失敗したという事なんだなぁ、と漠然とした感想のひざし。だが。

 「他に理由がある」

 「え?」

 「宍和田ししわだ公安大臣が強引に進めたのは犯罪者の逮捕だけじゃない、公安内部の正常化だ」

 「……」

 ひざし川瀬正二かわせしょうじを直ぐに思い出す。青警察を辞めた時期が怪しいというだけで、監視対象になっていた事、そして話の中で、捕らえられた者の中に死者がいた事を。

 「内部の正常化によりそれが失態となって表に出てくる、その時宍和田(ししわだ)公安大臣は引責辞任となる」

 即ち、どうせ辞任するのであれば、旧弊も失態も何もかも彼一人に背負わせてしまおうという、奇しくも、原井円生はらいえんしょうの時と同じ状況なのだ。

 それらが片付くまでは。

 「大きな動きはない」

 自動磁気式車の外では景色が変わり、高い都会的風景から、やや低めの新興開発地域に入っていく。やがてゆっくり止まると自動磁気式車を降りて二人、地上階層へと向かう。その途中、自動歩行者補助昇降機で降りていると、湿気で霞んでいるのか、メガシリンダーが青い空にとけかかっているのが見えた。太京たいきょう駅からいくらも離れていないが、そういう季節になりつつあった。

 地上につくと、直ぐ近くのやや古びた建物へと。

 「 」

 雑居ビルでもないのに、防犯対策は特になされておらず、勝手に進んでいく竹野中たけのなかに付き従っていくと。

 「!」

 中庭のようなところに出た。その先には商業用のビルと、その横に低い建物、そのさらに奥には、細長い飾りっ気のない高い建物があった。

 「……」

 非常に気になるが、柊楓ひいらぎかえでは黙っていた。そして低い建物の中へ。

 不用心なのか、その必要がないという自信の表れなのか、何処も鍵はかかっておらず、勝手知ったるとばかりに、たどり着いた部屋。

 そこは、こじんまりとした、しかし洗練された色彩と調度品、そして椅子と机が完璧な調和で一体感を持った哭腑衆こくふしゅうの応接室、驥尾きびの間。

 そして目の前には、前髪の長い、たれ目に銀のレイヤー、神経質そうで全体的に線の細い一之谷伍政いちのたにごせい

 彼は立ち上がり。

 「お疲れ様です」

 その警戒するでもなく友好的過ぎもせず、しかし非常に自然な振る舞いに、柊楓ひいらぎかえでは感心した。そして。

 <影梁かげはり>だ。

 直ぐにそれと気づく。びりびりと肌に突き刺さる、あの感覚。

 勿論、相手も柊楓ひいらぎかえでの事をそうだと気づいた。

 今日は定期的に行っている、哭腑衆こくふしゅうとの的情報交換会議で、次回以降、竹野中たけのなかひざしに任せる為、今日は紹介がてら同席させたのだ。

 勿論、以前に哭腑衆こくふしゅうの<影梁かげはり>と戦っているの事は、百も承知である。目の前にいるのが、その時の相手かもしれないのだ。

 だが当の赤実あかみ、いや柊楓ひいらぎかえでは全くそんなそぶりを見せず、それだけの大胆さと豪胆さを、竹野中たけのなかは理解していた。

 「お疲れ様です一之谷いちのたにさん、こちらは今後わたくしの代わりに情報交換を務めます、柊楓ひいらぎかえでです」

 「柊楓ひいらぎかえでです、よろしくお願いします」

 「一之谷伍政いちのたにごせいです、よろしくお願いします」

 大人びた雰囲気の女性だが、一之谷いちのたにはそれをそのまま信じる程、単純ではなかった。

 それを感じてか、柊楓ひいらぎかえではびりびりと肌に突き刺さる、あの感覚が少し強くなったと思った。

 互いに席に着き、柊楓ひいらぎかえでも促されて席に着く。直接部屋の周囲を見まわしたりはしないが、レイヤーのカメラ機能を最大限使って確認するも。

 監視カメラはないのか。

 電気的なノイズからも、そういった監視の類が一切ない事に、少々驚いた。

 哭腑衆こくふしゅうは実践主義って聞くけど違うのか、それともよっぽどの自信があるのか。

 「まずはこちらから」

 と最初に竹野中たけのなかが。

 衆の活躍により治安は回復傾向を見せているが、景気の下落が止まらない事で、内閣の支持率が落ちているとし、次期王選が早まる可能性があると。

 「どのくらいでしょう?」

 尋ねる一之谷いちのたにだが、変動要素が多く不確実な為、現時点で予測は難しいと竹野中たけのなか

 また火繰ひくり家の資金繰りが改善された為、金剛衆こんごうしゅうは装備の面で、充実が図られるだろうとの事。

 これについては、直接金剛衆(こんごうしゅう)とはやりあっていないが、現場の情報から聞いている話と一致していた。

 「少しずつですが、金剛衆こんごうしゅうの対処も早くなってきていますね」

 一之谷いちのたにの言い方から、哭腑衆こくふしゅうとしては、金剛衆こんごうしゅうを一段下に見ていると柊楓ひいらぎかえでは分かった。

 「それと、聖翼会せいよくかいの残党が活発に動いているようです」

 「ほう」

 それはひざし竹野中たけのなかに言われて、金剛衆こんごうしゅうと会う前、草平衆くさひらしゅうについて色々調べている中で、つかんだ情報だった。

 新改革派の中でも過激派である聖翼会せいよくかいは、他から疎まれる傾向にあったが、赤警察の草平衆くさひらしゅう検挙行動のあおりを受けて、新改革派全体が勢力を弱めている事で、団結する事になったらしい。

 「その噂は、ちらとは聞きましたが……」

 一之谷いちのたにがそう続けて。

 「中心人物だった女十亀康二めときやすじの逮捕が、大分影響していそうですね」

 竹野中たけのなかは頷いたが、別の意味での影響だと考えていた。過激派とは、手続きを省略して権力を握りたい者の集まりであって、であれば、中心人物の不在は、次なる権力欲者の出現のきっかけでしかない。そして弱まりつつある過激派は、その影響力を誇示する為、より一層過激な手段に出る……。

 「恐らく新改革派の次の行動が、内乱の引き金になる可能性があります」

 「!」

 一之谷いちのたにはその意見に眉を上げたが、柊楓ひいらぎかえでは表情には出さず、ひどく驚いた。

 竹野中たけのなかさんのこの言い方、断定だ。

 相手が福児ふくじであれば、断定系で言い切っていたと分かった。

 「そう、ですか……では哭腑こくふとしても、その心構えでいましょう」

 にわかに信じられないといった風だが、竹野中たけのなかは気にしない。判断をするのは、この男の裏にいる、鈴木敬すずきけいだからだ。

 彼が竹野中たけのなかを信用しているように、竹野中たけのなかもまた、彼を信用しているのだった。

 「しかしその分ですと、草平衆くさひらしゅうについてはいかがでしょうか、何か情報をお持ちでしょうか?」

 三日前に、どうやら赤警察だけで本拠地を襲撃したらしい事までは、彼も知っていたが、それ以上はまだ調べられていなかった為、尋ねる一之谷いちのたにに。

 「影松桐蔭かげまつとういんは逃げたようです」

 「ほうっ、いや<守人もりと>の頭目だけあって、腕もあると、そういう事ですか」

 そう言って作り笑いをする一之谷いちのたにに、愛想笑いを返す柊楓ひいらぎかえで

 「今日あたり草平衆くさひらしゅう本部襲撃について、宍和田ししわだ公安大臣から発表があるでしょう、しかしそこに影松桐蔭かげまつとういんに関する情報は無いでしょう」

 これが単なる取り逃がしであれば、宍和田ししわだ公安大臣は、野党からの批難を受けるくらいで済んでいただろう。しかし、その強引な手法によって、治安を安定させるどころか、悪化を招いたとすれば、市民からの避難も相まって、より一層厳しいものになる。そうなれば与党内からの批難も出る。

 「なる程、発表を先延ばしにして、もろもろ終わってから始末をつける、そんなところですかね」

 一之谷いちのたにの言葉に特に答えず竹野中たけのなかは。

 「まあ……、それと軍務省の動きが活発化する可能性もでてまいりました」

 「」

 これも本来なら断定した物言いになると、頭の中だけで思う柊楓ひいらぎかえで

 「元公安大臣の原井円生はらいえんしょうが、軍務省に入ったのは知ってます、それの事ですか?」

 はい、と頷きを返して続ける竹野中たけのなか

 「彼は彼の理論で動くでしょう、そこには国も正義もなく、利己的なものしかないと思われます」

 竹野中たけのなかの言葉に少し考えて。

 「……四月十二日暴動については自分も調べていた事があります」

 あの時のデモが暴動になったのは、原井円生はらいえんしょうが仕掛けた事ではないか。

 「と、そう思える節が、まああったような気がします」

 流石哭腑衆(こくふしゅう)といったところかな、そう関心のそぶりも見せず、柊楓ひいらぎかえでは相槌で頷き返す。

 「それを火繰ひくり家が利用した、までは以前教えていただいた内容でしたね」

 ゆっくり頷く竹野中たけのなか

 いつもより少しずつゆっくり動いている竹野中たけのなかを、柊楓ひいらぎかえでは少し新鮮に感じていた。

 「ではこちらからも」

 そう言うと一之谷いちのたには、椅子ごと机に近づいて座り直し、咳ばらいを一つ。

 まず太京たいきょうにあった草平衆くさひらしゅうの支部を襲撃し、それを成功させたと。その際に、一人だけ捕縛できたが、残りは。

 「金剛衆こんごうしゅうによって殺されました」

 「 」

 柊楓ひいらぎかえでには意外に思えた。金剛衆こんごうしゅうについては、青丹春防衛戦あおにうはるぼうえいせんの時に遠目に見たのと、直接会った秦巻薫はたまきかおるという<守人もりと>でしか知らないが、そう何でもかんでも殺戮するような衆だと、思えなかったからだ。

 「まあ捕まえたといっても下っ端なのか、ひどく怯えて、言ってる事は要領を得ませんでしたけどね」

 またもや愛想笑いを返す柊楓ひいらぎかえで

 少し前の、取り調べの厳しい時期であれば、直ぐにでも新しい情報が分かったでしょうが。

 「正常になったらしい今では、はてさて」

 それは十三日前の出来事だというから、シニカルな言い方はともかく、確かにその通りかもしれないけど、柊楓ひいらぎかえでの感情はそれを否定していた。ひどく怯えていた川瀬正二かわせしょうじを思い出しながら。

 「三日前にも金剛衆こんごうしゅうとニアミスがありましてね」

 ニアミスの単語に、柊楓ひいらぎかえでのレイヤーが反応して、航空機同士の接触しそうな程の接近、と表示される。

 「哭腑こくふとしては特に気にしてないんですが、どうも、あちらさんはこちらを敵視しているようで、何とも」

 一之谷いちのたにの言っている事は、嘘ではないだろうけど、やはり秦巻薫はたまきかおるから受けた印象とはだいぶ違うと、一人周囲に気づかせず考える柊楓ひいらぎかえで

 つまり、一枚岩じゃない?

 「あぁそれと、これは知っているようでしたら聞きたいのですが」

 一之谷いちのたにの抑揚が変わり、それで意識がこの場に戻る柊楓ひいらぎかえで

 「青丹春防衛戦あおにうはるぼうえいせんで活躍した、<影梁かげはり>の事をご存知ですか?」

 !

 少なくとも表面上は、柊楓ひいらぎかえで竹野中たけのなかも特別な反応はせず。

 「噂では」

 とだけ答える竹野中たけのなかの横で、特にしゃべらないで柊楓ひいらぎかえでは、答えた彼に軽く視線を向けて、今日自分は、話す役目じゃないと意思表示。

 柊楓ひいらぎかえでは、あの時の自分の行動が、こんなに長く影響を与えるとは、思っていなかったから、正直驚いていた。この分では、恐らく金剛衆こんごうしゅうや他の衆からも。

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