守人列記 四
徐々に追い詰められていく草平衆。しかし全く揺らぐ事のない影松桐蔭。しかし焦りは衆の者達に押し寄せ、強烈な個性は固い結束力をもたらすが、精神的疲れにより脆くも分裂の兆しを見せ始めた!
人物紹介
杉谷伴都:草平衆の<守人>。六月十四日の赤警察強襲によって逮捕される。太京に残った連絡係。後に大規模な反乱軍に身を投じる。
藤井博人:草平衆の一人。衆では目立たないが後に政治家となる。
影松桐蔭:草平衆の<守人>であり、衆を作った本人。
朱巻智也:草平衆の若い<守人>。後に大規模な反乱軍に身を投じる。
八津坂幸之助:草平衆の<守人>見習い。六月十四日の赤警察強襲によって逮捕され重傷を負う。
火野雅章:草平衆の<守人>。<影梁>的な才能を持つ。衆の中では年嵩で冷静。後に大規模な反乱軍に身を投じる。
蒲原興三郎:草平衆の<守人>。後に大規模な反乱軍に身を投じる。
林戸孝認:草平衆の一人。大規模な反乱軍に身を投じるが、後に政治家へと転身する。
用語
太京:陽の国の首都。
野上野:太京のすぐ北側にある中型の繁華街。
レイヤー:眼鏡型の情報端末。
草平衆:影舘桐蔭が作った<守人>衆。誰でも受け入れている。
イ十二式装具:装備の状態を表す。イ式装具=攻撃装具、ロ式装具=防具。
赤警察:捜査調査を担当する警察。
「やはり捕まった者で、杉谷伴都だけは無事のようです、他二名は……、後は情報がないところ見ると、脱出できたかと」
太京の北に位置する野上野、その北部県境。
商店街と呼ぶには活気がなく、しかしいくつもの町工場や問屋が立ち並び、人の行き交いだけは頻繁な、せわしない空気の街。
今にも降り出しそうな重い雲に、まだ昼前だというのに街灯が所々、ぼんやりと湿気ににじんでいた。
そんな窓の外背景に、簡単な仕切りをいくつも設置された、元は何かの事務所のような部屋にて、黒い地味なレイヤーと、左の鼻の付け根にあるほくろが特徴的な背の低い男が、焦りを隠さず身振りを交えて言った。それに対し。
「藤井君、彼等はやるべき事をやったのだ、その結果である、後悔はしていない」
細く面長で、顔の作りもまた細く、茶色い瞳は神経質そうで、その上細身のレイヤーがなおの事、そうした雰囲気を作り上げている、影松桐蔭は言い放った。
「だとしても捕まってからもう一週間になります、ここも危険です、場所を変えましょう」
そう説得にかかる、薄茶色でふわりとした短髪に、特徴的な怒り眉とくっきりした黒い瞳、青いレイヤーの青年、朱巻智也。
「朱巻君、無用な心配です、既に私の思想は草平衆として根付いたもの、私が倒れても他の者が引き継ぐのです、何の迷いがあろうかっ」
ありまくりだと朱巻は思うのだが、この場にいる他の人の手前、困惑しつつもどうにか自分の感情を抑える。
「それに重傷者は八津坂幸之助のようです、治療を受けているとすれば程度にもよりますが、そろそろ回復し始めている筈です。彼では拷問を受けた際、耐える事はできないでしょう」
ぼさぼさの黒髪に困り眉毛、黒い瞳に縁の厚いレイヤーをかけた火野雅章が、低くことさら落ち着いた声で報告した。
「万が一に備えて彼等はそこを死地にと定めたのだ、自分も同じであるっ。いざとなれば政治家の言うお国ではなく、真に国の為、戦い死す覚悟、捨て石もいとわない、皆で誓った通りだ」
美しい姿勢で座ったまま、陰りもなく言い放つ影松。
「それに旧兵器がこちらにはあります、イ十二式装具の<守人>相手でも問題ないでしょう、ましてや赤警察ごとき」
そう、巨漢で髪の毛は短く刈り上げており、堀の深い顔立ちで豪快な口の蒲原興三郎が、相変わらずの自信で言ってのける。
火野は抑える事なく、深いため息をついた。それに朱巻が気づいて、彼の顔を見ると、疲労。
「蒲原君、いけません。旧兵器は己の為に奪ったものにあらずっ、あくまで国の為に使うべきもの」
影松のその言葉に恥じ入り、蒲原は直ぐに頭を下げる。
「ともかく手をこまねいていては、成すことを成してはいません、今、軍務省は赤青問わず、警察に兵隊の勧誘を仕掛けております、このままではいずれ国は分裂するでしょう、動かなくては」
早口に割って入った、少し背の低い、平らな瞼には薄いレイヤーをかけた男が言った。
「林戸君の言う通りっ、さあ、国をこの危機から救いましょうっ」
商店街と呼ぶには活気がなく、しかしいくつもの町工場や問屋が立ち並び、人の行き交いだけは頻繁な、せわしない空気の街。
降り出した空と、昼だというのに街灯が雨で霞んでいる。
そんな窓の外背景に、簡単な仕切りをいくつも設置された、元は何かの事務所のような部屋に、朱巻と火野だけが残っていた。
「火野さんは今の草平衆を、どうお考えなんですか?」
レイヤーを外して朱巻が。それに対して。
「外国には責められ、その交渉は失敗、治安も悪化するばかりだ、何かをしなくちゃならない」
そりゃあ確かだよ。
と腰に手を当て窓の方へ歩き、外を眺める火野。
「僕は……納得していません、他にもっといい方法があると思います」
「例えば?」
「……」
切り替えされ、とっさに次の言葉が継げない朱巻。
わずかな沈黙の後、くるりと振り返り、窓際で腰をもたれかけると、火野は。
「そうだな、決して最高の方法じゃない、恐らく口には出さないが、林戸もそうだろう」
「じゃあ皆で影松先生を説得しましょう」
思わず前のめりの朱巻。に、対して冷静なまま。
「だが方法が思いつかない限り、今が最も最良の選択かもしれない」
それが覆らない限り、と言いながら首だけ外を向いて。
「先生は止まらないだろう」
「 」
「これの所為で、俺達の一生は、犯罪者として終わるかもしれない」
「!」
再び朱巻に向き直り。
「それを怖がっているだけかもしれない」
そう言った火野に、真正面から。
「僕は違います」
きっぱりと言い切る。
「金や名誉はいらない?」
いきなり何を言い出すのか、火野に対し。
「僕はお金の為ではありません、確かに、最初は名誉欲もあったかもしれないけど……」
「犯罪者でかまわない?」
火野の問いかけに、答えられない朱巻。窓から離れて、火野が続ける。
「桐蔭先生は名誉も必要ない方だ、名にこだわるのは公ではなく私だとね」
それこそが影松という人物の強さであり、同時に過激さを支える原動力でもある。しかし一般的な人であれば、それゆえ、ついていく事がしばしば困難になるのだが。
「火野さんは、どう、なんですか?」
火野は衝立に手をかけながら。
「 ここも早く引き払った方がいいな」
「……」
「革命ってのは、この世を一番理解していると思ってる奴がやるんだ、信念を持って」
「……影松先生は、理解していると、思います」
「そう、俺らよりはな、けどこの国だけで六千万人、世界ではいわんや、その中で、どうして一番だといえる?」
「じゃあ、やっぱりどうにかして他の方法を……」
火野の横から、顔を無理やり視界に入れ込みながら朱巻は言うが。
「ずっと考えてる、だが桐蔭先生程には、強い信念の持てるものが思いつかない」
「今が、一番いい状態……」
うなだれる朱巻の肩を軽く小突いて。
「まあ考えよう、時間はあまりないが」
そう言って歩き出す火野の跡を、ついていく朱巻の、どのくらいなんですか? との質問に対し。
「一、二ヶ月、精一杯逃げまくれてもこのあたりが限界だろうな」




