双頭録 九
治安悪化と強奪された旧兵器の解決の為、徐々に暴走していく赤警察。川瀬正二もその標的となった!
登場人物
空矢政継:舞雪形の<守人>。
黒田量:舞雪形の<守人>。
川瀬正二:元青警察。青丹春防衛戦の経験から、争いを恐れるようになった。
用語
レイヤー:眼鏡型の情報端末。
青警察:重武装した治安部隊。
赤警察:捜査調査を担当する警察。
太京:陽の国の首都。
青丹春防衛戦:突如攻めてきた馬山国との争い。陽の国は甚大な被害を受けた。
草平衆:影舘桐蔭が作った様々な人材が集まった衆。旧兵器を竹筒明星社から強奪した。
「川瀬?」
レインコートのフードを開け、薄暗い廃工場に、雑な黒髪に、上がり気味の眉毛と挑戦的な黒い瞳にレイヤーの、空矢政継。剣を下げて。
「……」
続けて入ってきた、短い黒髪と整った細い眉毛、優し気な目じりにレイヤーをかけ、剣を下げた黒田量。中の様子をうかがう。
「あ」
政継と量が同時に反応した。
所々雨漏りする廃工場の奥に、人影。それは暗いがレイヤー上に、川瀬正二の情報が表示され、二人は近づいて。
「っ……どうした川瀬?」
その余りのに雰囲気が違う事に、驚くというより恐怖に近いのけ反り。
そこにいたのは間違いなく川瀬正二であったが、茶色い癖毛は伸びて、丸かった目は暗くよどみレイヤーをかけ、愛嬌のあった雰囲気は消え去った、やつれた男がそこにはいた。
二人が近づくとそわそわと落ち着かない様子で、二人の肩越しに入口の方をやたらと気にするしぐさ。
雨の音が放置された屋根を叩き、時折聞きなれない雫の音と、頻繁に聞きなれた雨粒の音が鳴り続けている。
明かりは穴の開いた雨雲からと、三人がかけているレイヤーの照明機能だけ。周囲は何か細く高い、ガス缶のようなものに囲まれている。
「何があったんだ?」
川瀬より深く屈み、できる限り抑揚を抑え、眉間に軽い皺をよせて空矢が尋ねる。量は川瀬を落ち着かせる為、通路の端に立ち外を警戒してみせる。状況はつかめていないが、追われており、それに怯えていると気づいたからだ。
「……」
雨音と雫が跳ねる甲高い音が続いたが、ようやく川瀬は話始める。
青警察を辞めた後、勿論その事は二人とも知っているが、直ぐに赤警察から呼び出しをもらい、太京の赤警察本部へ出向いたのだという。
特に呼ばれる心当たりもないし、万が一勧誘だとしてもその気はないので断ろう、その程度の気持ちで、いざ行くと、簡単な挨拶から始まり、和やかな雰囲気で川瀬の短い経歴の確認になり、ああこの流れは勧誘かな、と思っているところへ。
「何故今青警察を辞めたのか? そんな事の確認で呼ばれたのか?」
ここまでの話では、全く怯える要素が見当たらない空矢が、思わず、それでも抑揚を抑えて言った。
それでも周囲へ声が漏れるのを気にして、缶の隙間から外を確認する川瀬。そして微動だにしない黒田の背中を見て、話をつづけた。
川瀬は正直に、戦うのが怖くなったからと、青丹春防衛戦での体験を語ったが、話している最中に、これが勧誘ではない事に気づき始めたのだ。
正面に一人が座り、その後ろの出口には二人の立ったままの男と、自分の背後と窓の間に立ったままの男が一人。
この配置の意味に気づいた瞬間、川瀬はまさに冷や汗を流したのだ。これは尋問の為の配置であると!
そして尋問官はこう尋ねてきたのだ。
「青丹春防衛戦が怖かったのなら、その後直ぐに辞めなかったのは、何故なのかなぁ?」
そのくらいから川瀬の記憶は恐怖であいまいとなり、具体的に何を話したのかまるで覚えていなかったが、目の前に座る尋問官の顔だけ覚えていた。
「彼は、終始笑ってました……」
その日はそのまま返されたが、次の日から尾行らしき気配を感じ始めたと川瀬。
「……」
気の所為だなどととても言える雰囲気ではなく、しかしそれが事実かどうか政継には分からない。
「それで昨日ついに……」
青警察の元先輩から、赤警察本部内で事故死があったと知らせを受けて。
「じ、自分は……」
そう言うと身体をきつく抱えて、川瀬は震えだした。思わずそれを抱きかかえてやる政継。その眉間には先程より、きつく深く皺がよった。
「草平衆のシンパと疑われたと、そういうわけか」
量が立ったまま。
「いや、そりゃねえだろ、川瀬は青警察だったろうが」
思わず反射的に返した政継に。
「赤でも青でも関係ないさ、むしろ」
スパイとさえ思われてる。
「なっ!?」
「じゃなけりゃ証拠もなくそんな事しないさ、旧兵器強奪後に辞めた事でそう思われたんだ、疑わしきは見徹底的に、ってね」
その量の言葉に顔をゆがめて、かがんだままの政継が。
「それじゃあ何か、赤警察は本当に拷問してるってのか? それを事故死だと?」
自分で説明しておいて、言葉を返され、量も顔が険しくなる。思いは同じなのだ。
「よし川瀬、俺が守ってやる、今日から俺と一緒に行動しろ」
力強い空矢の言葉に、顔を向けた川瀬の表情は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
そうきたか。
声にはせず量は思った。そして。
「政継がついてりゃ理不尽な事は、大概回避できるだろ、罪を犯してるわけじゃないから、向こうもそれ以上強引な方法もとれないし」
とりあえず街へ戻って、川瀬の部屋へ行こうと促す。ずっと行動を共にするなら、色々準備が必要だろうと量。
「あ、そうか」
量の言葉で、ようやく自分の言った事を実感する政継。
三人一緒に暮らすという事に。




