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陽国史 一  作者: いちのはじめ
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三目家伝 九

 風間かざま家にて竹野中竜兵衛たけのなかりゅうへえが現状を読み解く。そして風間福児かざまふくじの懸念に対して、次なる手を打ち、さらに先を予見する!


人物紹介

 風間福児かざまふくじ風間かざま家の当主。三目みつめ家の三男。

 赤実陽あかみひざし風間かざま家の<影梁かげはり>。

 竹野中竜兵衛たけのなかりゅうへえ風間かざま家の参謀。

 金井正道かねいまさみち三目みつめ家の財務担当。

 光芽守靖みつめもりやす三目みつめ家の当主。

 宍和田絹男ししわだきぬお:代王派の公安大臣。三目みつめ家の資金と石和希具視せきわきともみの策略によって公安大臣となった人物。

 小能中御池このなかみいけ:前公安大臣。火繰ひくり家によって公安大臣になったが、馬山国まざんこくとの戦争による被害の責任を取って、大臣を辞任した。

 原井円生はらいえんしょう:王道派の議員だった。辰港たつのみなと事故の時に公安大臣だったが、その自己の責任を取って大臣辞任に追い込まれた。


用語

 東亜藍潮計画とうああおしおけいかくこくに、一帯で最大の港を作る計画。

 火繰ひくり家:鉄鋼事業で財を成なした、古代より続く名家。

 三目みつめ家:古代から存続する名家。あらゆる分野に企業を持つ。

 辰港たつのみなと事故:世界最大級の港建設中に起きた事件。しかし世間では事故という事になっている。

 赤警察:捜査調査を担当する警察。

 馬山国まざんこく:大陸の国の一つ。こくに戦争を仕掛けた。

 草平衆くさひらしゅう影舘桐蔭かげまつとういんが作った<守人もりと>衆。

 山都やまと:首都太京(たいきょう)より、西へ四百六十キロの位置にある太古に首都だった地域。

 金剛衆こんごうしゅう火繰ひくり家が抱える<守人もりと>衆。

 

「半分成功といったところか」

 短い清潔感のある黒髪に、優しいながらもどこか冷たく感じる瞳は黒で、細身の顔の風間かざまが立派な椅子に座って言った。

 そしてその風間かざまに、何故か乗っかって顔を胸に当てている丸く童顔の猫顔で赤い瞳のひざし。そのまんま猫のようである。

 そのわきに立つ、青白い肌に薄茶色の短髪、灰色の瞳にレイヤーと細い鼻と色の薄い唇で、竹野中竜兵衛たけのなかりゅうへえが。

 「時間が足りませんでした、また金井正道かねいまさみち様お一人では、東亜藍潮計画とうああおしおけいかくに参加している多くの企業を回ることはできません」

 長方形の居間で、クリーム色の絨毯にこげ茶色の家具、壁は薄い灰色で落ち着いた色調の部屋で、大きな窓の外には菖蒲。

 ひざしの頭をなでながら風間かざま

 「じゃあ半分だけでもこちらに付かせたのは、大したものっていうとこなのかな」

 「はい」

 頷く竹野中たけのなかに、皮肉っぽい笑みを浮かべた風間かざま

 東亜藍潮計画とうああおしおけいかくの会議は予定通り行われたのだが、火繰ひくり家の計画通り三目みつめ家は関連企業を含めて、一切参加できなかった。

 しかし、光芽守靖みつめもりやすは参加する企業を、資金力で味方につけ、会議への影響力を保とうとし、あわよくば、こちらの思いのままに導こうとさえしたのだった。

 「まあそれだけ金に困っているところが多いって、事なんだろうね」

 辰港たつのみなと事故により、計画は一年遅延となり、参加企業や名家は、更なる追加の出資を余儀なくされていたのだ。

 「はい、しかし会議では東亜藍潮計画とうああおしおけいかくの期間見直しが行われたようです」

 他の細かな変更等は全て三目みつめ家に有利な内容ですが、期間短縮の変更だけは。

 「火繰ひくり家の提案通りという事です」

 「短縮? できるのか?」

 首を竹野中たけのなかに向けて風間かざまが。それに顔を近づけて竹野中たけのなか

 「具体的な内容はこれからのようですが、恐らくは港の部分開港という事になると予想します」

 驚いたな、と大して驚く風でもなく、風間かざまは言った。

 辰港たつのみなと事故は、そもそも開港を遅らせる為に仕組んだ事であり、その為に、もっとも嫌なタイミングで大きな損失を与えていたのだ。そしてそれを行った本人は今、風間かざまの胸の中である。

 しかしその損害を乗り越えて、期間を短縮するというのだから、その目標は。

 「予定通りの開港を目指す、か」

 ひざしの頭をなでながら風間かざま

 「ひざし、駄目だった?」

 ひょいと顔を上げて福児ふくじの顔を見上げる。

 いや、それはないよ、と優しく答える福児ふくじ

 損害を与えているからこそ、各企業等の追加出資が必要であり、それを利用して三目みつめ家の工作が可能になっているのだから。

 「さすがは火繰ひくり家といったところか」

 風間かざまは感心したが、そうもばかりいってられないのだ。

 何故なら風間さざま家の将来がかかっている計画において、火繰ひくり家は重要なのだから。激しい対立になる前に、手を打っておく必要がある。

 そう思う風間かざまの心中を察したのか、竹野中たけのなかが。

 「風間かざま家として早めに手を打ちます」

 その言葉に心から安堵する風間かざま。一つこなしては、また新たな問題が起こる今日において。

 「助かる」

 心からそう思った。

 ふう、と一息ついてあとは雑談とばかり、ひざしの頭をなで繰り回しながら。

 「そういえば夕べあたりから、今日もか? やたら赤警察が目立つな」

 「あ、それひざしも気づいた」

 そんなひざしの頭の匂いを嗅ぎながら福児ふくじ

 「新しい公安大臣について何かあるかな?」

 その問いに、いつの間にか風間かざまの斜め前に移動した竹野中たけのなかは頭を下げ。

 「申し訳ありません、人物像を調査中です」

 風間かざまは興味本位で訊いただけなので、別にいいよと軽い返しをしたが、むしろ既に調査中だった事に感心した程だった。しかし竹野中たけのなかは続けて。

 「公安大臣につきましては一点、懸念がございます」

 そんな返しがくると思っておらず、風間かざまは目を丸くする。

 「以前に特別措置として出されました事前治安維持権ですが、恐らく終了されていない状態かと思われます」

 全ての情報が国民に開示されているとは限らない為、調査中ではありますが。

 「馬山国まざんこくとの件から続く」

 治安の悪化もあり、意図的に終了処理をしていない可能性もあります。

 風間かざまは聞きながら、そうなんじゃないのか、くらいに思えそう言ったが。

 「しかし本来、大臣の交代が行われた場合、特別権限は一度終了させ、再発行するのが通例でございます」

 福児ふくじひざしをなでる手が止まる。

 「その宍和田ししわだ公安大臣ですが、やる気と野望を持った人物であった場合、一時的とはいえ今日の状況もあり、影響力は大変大きくなります」

 そこへ事前治安維持権のような、更なる権限強化となれば。

 説明しつつ、壁に時事情報局を映し出した竹野中たけのなか

 「過度な行動に出るかもしれません」

 映像には赤警察が、どこそこの施設へ強制捜査だの、誰それを検挙しただの、関連情報で溢れかえっている。

 「……しかし前任者はそんな事もなかったようだが」

 画面から目をそらさず、風間かざまが。

 「小能中御池このなかみいけ議員は若く経験もありません」

 権力をふるうという発想自体がなかったでしょう、またそのような人物を。

 「火繰ひくり家は選んだと思われます」

 ある映像では、赤警察と建物から出てきた人達でもみあいになり、他にも幾つかで暴力沙汰になっているようだった。

 「また……」

 それを首を上げて見て、眉間に皺を寄せたひざし

 そんな彼を、優しく自分の胸にあてがい直すと。

 「既に暴走してると思うか?」

 と風間かざまの問いに。

 表向きは通常法権限内です、しかしわずかな期間で感覚は麻痺します。

 「表であっても暴走、粛清という事になりかねません」

 と答える竹野中たけのなか

 彼にしては珍しく、口調が強く感じられた。しかしそう感じとれるのは、長年連れ添っているから。

 「なる程」

 それに対し、口の端では笑って見せる風間かざま、目は時事情報局の映像を鋭く見据えたまま。

 「嫌な予想だな」

 と、そのため息をはき終わるのに合わせて竹野中たけのなかが。

 「これにつきましては、一つご提案がございます」

 不意の言葉に、思わず顔を向ける風間かざまひざし

 「この状況を火繰ひくり家も良しとはしません、そこで先程のご懸念解消も含めこれを機に」

 火繰ひくり家との繋がりを作るのは如何かと考える次第です。

 !

 思わず風間かざまひざしが顔を見合わせる。そして風間かざまはため息と共に椅子にもたれかかり、天井を仰ぎ見た。

 勿論、彼の才能がとびぬけて豊かである事は知っていたが、いやはや、これ程とは。

 きっと竹野中竜兵衛たけのなかりゅうへえの頭の中では、日々の出来事が全て逐次整理されており、どれをどれと繋げればいいのか、常に考え、把握しているのだろう。

 「ねえ福児ふくじ、今の公安大臣をやっつけちゃえばいいんじゃないの?」

 ひざしが思いついて口をはさんだ。

 確かにその通りだが、宍和田ししわだ公安大臣は三目みつめ家の資金によって、代王派として大臣になったのだ。それを身内の風間かざま家が妨害となれば、三目みつめ家全体の信用に関わり、当然風間(かざま)家の評価も下がる。

 しかも竹野中たけのなかの提案であれば、現状がそのまま機会となるのだ。これを選ばない手はない。

 「いや、ひざし竹野中たけのなかの提案の方がいい、竹野中たけのなか

 呼ばれて、はいと頭を下げる。

 「ぜひそれでいこう」

 今度は楽しそうに笑いながら、風間かざまは言った。

 「では風間かざま様、赤実あかみをお借りしたいのですが」

 ひざし福児ふくじの上で身体を起こし、自分を指さす。

 「ああ、お願いできるかな? ひざし

 「いいよ、福児ふくじっ」

 勢いよく応えるひざし竹野中たけのなかが、レイヤーをかけるようにいうと、福児ふくじの身体をべたべた触りながら降りて、机の上に置いてある赤いレイヤーをかける。するとひざしの瞳の色が、黒に変わった。そして。

 「この内容の通りに、段取りは私が行っておく」

 「うん、分かった」

 何かやり取りしているらしい、了解をすると、小走りに福児ふくじに駆け寄り、身体にタッチして。

 「行ってくる!」

 「気を付けるんだよ」

 飛び出すひざしに声をかけ、福児ふくじは送り出した。んで。

 「何処へ行ったんだ?」

 「草平衆くさひらしゅうへの動向を探るのと、山都やまとへ向かわせました」

 「草平衆くさひらしゅう? まあそうか、いやそれより山都やまとって、いきなり行って会えるものなのか?」

 風間かざまの言葉に振り返り竹野中たけのなかは。

 「直接火繰(ひくり)家は無理ですので、金剛衆こんごうしゅうからあたらせます」

 なる程、衆であれば<影梁かげはり>もおり、名家の諜報機関的役割もあるから、確かに接触しやすいだろう。

 「うん、任せる」

 笑顔で風間かざまは言った。

 「それともう一つですが」

 まだあるのかと、困り眉毛で椅子にもたれかけた身体を、重たそうに起こした風間かざま

 「原井円生はらいえんしょうが議員を辞職いたしました」

 元公安大臣が議員を辞めようが、別に大した問題じゃないと、力を抜いて再び背をもたれるが。

 「原井円生はらいえんしょうは権力欲の強い人物です、その人物が」

 次期王が決まれば、再び大臣になれるかもしれない機会を。

 「自ら捨てたのです」

 「まさか、最近の赤警察の動きに関係しているとか、言い出すんじゃないだろうな」

 いくら何でもと風間かざま

 「これは予想となりますが、今の状況を利用するかもしれません」

 竹野中たけのなかの予想は、風間にとって、もはや予言に近かった。だから姿勢を正す。

 「権力を蹴った以上、それ以上の何か、より実の高いものを得られると踏んでの行動となります、具体的には」

 新設している軍の役職等が考えられます。

 しかし風間かざまは、いまいちぴんとこなかった。権力というなら、やはり議員の方が上だからだ。すると。

 「彼は辰港たつのみなと事故が事件であると主張している人物です」

 「! ……問題は、無くならないもんだなぁ」

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