白若竹 十四
かつて陽の国を人口減少から救った竹筒明星社。色々な疑問がある中で、その象徴たるメガシリンダーへ向かう陽。
登場人物
赤実陽:風間家の<影梁>。
多々良真琴:<掛り>技師。
「問題なし」
猫のような丸い顔に短い黒髪と白い肌、目の周囲は赤く、レイヤーをかけた陽が言った。
「ありがとう赤実君」
短くまあるい茶色の髪に、眠そうな茶色い瞳、レイヤーをかけ、色艶の良い肌に童顔の頬の多々良真琴が、上のグレーチング通路へ向かって明るく応えた。
まだ周囲の音は静かで、薄青い空は快晴の中、多々良の工房にて。
小さな箱が山と積み上げられた、新品の電柵と電足帯。その中からいくつかを無作為に選び、動作試験をしているところだった。
以前は無かった大型の機材もあって、あんなに広々としていた工房が、今は機材をよけて歩く程となっていた。
「試験はこんなところでいいと思う」
多々良の言葉に、上から飛び降りてくる陽。ふわりと着地するのは、新しい電足帯によるものだった。
「うん、いい感じだと思うよ」
多々良の横に立って、出来上がった箱の山を眺める陽。
これで日に千五百ずつ、電柵と電足帯を作れるようになったよ。
「だけど問題があってね」
それだけの数をおいておける場所がないんだよ。
と言い、腕を組んで上を見上げる多々良。思いの他機材は大きく、近場で倉庫も借りられなくて困っていたのだ。
「だから出来上がり次第、納品させてもらえるように頼んで、今日が最初だったんだ」
「それで急いで試験してほしかったんだ、場所は?」
「竹筒明星社、メガシリンダーだよ」
「!」
おもわず、いいの!? と声を出してしまう陽だが、無理もない、一週間前にそこから旧兵器が強奪されたのだから、民間人が簡単に出入りできないと思うのが普通だろう。たとえ、搬出時を狙われた結果であったとしてもだ。
「僕もどうかと思うけど、先方がそう言うんだから仕方がないよ」
「……」
竹筒明星社は民間企業だし、社に過失がなかったにしても、軍需品奪われているのだ。
左の指を唇にあてて考える陽。
草平衆がメガシリンダーを調べていたのは、保管会社の竹筒明星社が、兵器を預かる契約を国と取り決めていたからだけど、あんな事があったばかりなのに。
「二度目はないって思ってるのかな?」
「どうだろう、二度目を起こさせない、じゃないかな」
思わず呟いた陽の言葉に、多々良はそう応えた。
「だって色んな衆が太京の治安維持を手伝ってるんだから、二度目は難しいんじゃないのかな」
なる程、これが一般の考えなんだ、と陽は妙に納得した。しかし口には出さなかったが、こうも思っていた。
襲撃したのは、その衆だけど、と。
とはいえ竹野中さんいわく、哭腑衆が情報を強化して動いているから、当面は大丈夫だろうとも言っていたが。
「そっか」
気のない返事で返した陽、に。
「赤実君、今日の夕方時間あるかな?」
多々良が陽に向き直って、遠慮がちに切り出す。
十七時くらいなんだけど、の多々良の言葉に首をかしげて続きを促す。
「実はその時間に、メガシリンダーへ納品しに行くんだけど」
「行くっ」
多々良の言葉にかぶせるようにして、陽は元気よく答えた。
これはいい機会だと思ったのだ。陽は一度、メガシリンダーの中を見てみたいと思っていたから。
「厳重」
伸びてきた日中の光は、この時間でも外に赤い光を残している。
メガシリンダー正面入り口から右手に周り、複数の赤警察と青警察が守る通用路を、磁気浮遊式貨物箱を運びながら抜け、更に進むと持ち物を非破壊検査するゲートを通り、ようやく、業務用通用口へたどり着いた陽。
その目の前で多々良は、レイヤーでの書類チェックをしていて。
「ありがとうございます」
レイヤー越しに挨拶をすると。
いよいよだ。
メガシリンダー内へ進んでいく二人。
外から中は見えなかったが、中から外は見える仕組みで、壁の素材は硝子ではないが、それゆえ閉塞感は一切なく、ベランダやバルコニーを歩いているようだった。しかも内壁同士も所々、薄く曇っているが、奥が見えるようになっているのだ。
「 」
しかしそういった構造は、新鮮だが状況把握がひどく困難だと陽は感じていた。しかも。
新しい。
どこもかしこも綺麗で、まるで新築の構造物のようのだ。
「管理が行き届いてるんだ」
多々良が感心する。
これで匂いまでそうなら、陽も同じ感想だったろうが。
埃っぽい……ような、イオン臭のような。
状況と情報が一致しない感覚に、気持ち悪さを感じていた。
まったく無人の内部を、レイヤーの指示通り進んでいくと、行き止まりに、物々しいゲートが見えてきた。
そのゲートに磁気浮遊式貨物箱を押し付けると、自動的にその奥へと取り込まれていく。何やら音がするのは、先程も行った非破壊検査だろう。
「!」
そして陽は気づいた。わずかだが磁気浮遊式貨物箱が取り込まれた瞬間、自分の身体が浮いたような気がしたのだ。
重量計。
それと分かった。
恐らく、最初の入口にも有って万が一、重量数値が違った場合、保安機能に引っかかる仕組みなのだろうと。
厳重だなぁ。
機械的なビープ音がすると、空っぽの磁気浮遊式貨物箱がゲートから戻ってきて。
「ご苦労様です」
ここにはいない誰かに向かって、多々良がお辞儀をするので、陽も続いた。そして。
「終わり?」
「うん、終わったあ」
緊張していたのだろう、安堵のため息とともに言うと、一息。
「じゃあ戻ろうか、良ければ今日は僕が夕食をごちそうするよ」
眠そうな顔が、更にふにゃりととろけて、それがひどく可愛いと、陽は感じて。
「うんっ」
満面の笑顔で応えた。
陽は今は知らない事だが、この後何度かメガシリンダーに行く事になり、その最後は、人類存亡をかけた戦いとなる。
……いや、どちらが勝っても負けても。




