カミツレ 九
聖翼会のアジトの一つに侵入した並比良和司。しかしそこには三十人からなる会の者が向かっていた!
登場人物
並比良和司:左腕が義手の<守人>。
用語
レイヤー:眼鏡型の情報端末。
聖翼会:過激な新改革派の一つ。
電柵:対飛び道具用の防具。
霜雫の剣:通常より細く長い剣。
「了解」
それだけを言うと通信を素早く終える、黒い長髪に綺麗な楕円の黒い瞳にレイヤー、シャープで角ばった輪郭の並比良和司。
聖翼会の隠れ家にて潜入したものの、おり悪くそこへ、三十人に及ぶ人数がやってきているという。
逃げるのは簡単だが、窓硝子を壊しての潜入である。潜入した証拠だけ残して去ったのでは、次は警戒されるし、悪くすれば次自体が無くなると。
「やるか」
レイヤーを顔に沿わせ、電柵を起動させる並比良。鋭い顔つきに。
先ず二人だけいた、二階の部屋を攻めると決め、躊躇いなく廊下に飛び出し、その部屋の扉にたどり着き。
かちゃり
開けてそのまま中へ入ると扉を閉めた。怪訝な顔つきで並比良を見返す部屋の二人だが、警戒はしていない。そのまま慌てるでもなく、二人の真ん中に何食わぬ顔で進むと。
一閃。
甲高い音と共に抜かれた霜雫の剣! 二人の顎下を正確に捉え、声も出せず、絶命。
振りぬいた勢いで前へ飛びでた並比良は、互いに噴き出す返り血を浴びない。
絨毯に染み込んでいく血を避けて、部屋を出る並比良。
残るはレストランの四人。
下への階段まできた時。
「!」
誰か上がってくるっ。どうする? 斬るか? いやそれしかないっ。だが何人? 一人なのかもしくは……。
迷っている時間はなかった。しゃがんで上に見る手すりの陰から、人の頭!
全身の筋肉がうなりを上げる、全てがゆっくりと動く、身体が重たくなる。左腕だけが時間の重さ無視して、相手の頸へと切っ先を運ぶ。
ぱんっ
そう、音がした、気がした。
何が起きたのか、全く分かっていない様子の斬られた男が、後ろへゆっくり倒れていく。血を吹きながら。
渾身の力で階段の前へ飛び出す並比良。
もう一人、倒れ行く男を両手で押しのけるように避け、しかし慌てて上を向くその視線の先に、並比良を見つけ。
「 !」
叫び声を上げるその刹那、剣が首ごと声をはね飛ばした。しかし!
「っ!」
男の手に何か、それがかちりと音を立て。
爆発。
「くっ」
どうにか上に飛びのいたが、衝撃波が肺と耳を直撃して、呼吸がおかしくなる。いや、それ以上に耳が聞こえないのはまずかった。
「……」
失敗である。気疲れずに聖翼会の中心人物、女十亀康二を捕える事はこれで不可能となった。加えて追加の三十名も静かな山の中、今の爆発音に気づいただろう。
引くしかない。
素早く最初に侵入した部屋に戻る。
「」
最初につけた自分の足跡が、残っていることに気づいて、それを踏み荒らすと、並比良はそのまま山の中へと走り去った。




