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陽国史 一  作者: いちのはじめ
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三目家伝 八

 三目みつめ家本家とは異なる行動を密かに進める、風間福児かざまふくじ竹野中竜兵衛たけのなかりゅうへえ。そんな中、治安の悪化は風間が経営する流通会社にも影響を及ぼしていた。そしてその治安悪化の一因でもある外交の失敗。しかし竹野中たけのなかはその佐復さまた外務大臣の考えを正確に見抜いていた。


登場人物

 風間福児かざまふくじ風間かざま家の当主。徐々に本家である三目みつめ家と距離をとりはじめる。

 竹野中竜兵衛たけのなかりゅうへえ風間かざま家の参謀。病弱。

 「ぁあー……」

 短い清潔感のある黒髪に、優しいながらもどこか冷たく感じる瞳は黒で、細身の顔の風間福児かざまふくじが変な声を出してベッドへ倒れ込んだ。

 ふわりと受け止められる。

 すると弾んた拍子に全身から波紋が広がり、爽やかな香りをふりまく。床は深い青色の水のようで、天井は有るのか否か、まるで空の上、至る所に植物が浮き、さながら空の楽園のようであった。

 「お疲れ様です風間かざま様」

 青白い肌に薄茶色の短髪、灰色の瞳にレイヤーと細い鼻と色の薄い唇で、彼のジャケットを腕にかけたまま竹野中竜兵衛たけのなかりゅうへえ

 何だってあんな面倒なんだと、倒れたまま何やら愚痴を言い始める風間かざまに。

 「シャワーを浴びられますか?」

 冷静な声で尋ねるも。

 「もうちょい楽な方法はないのかな?」

 くぐもった風間かざまの声。

 「これ見よがしに会社組織を変更となれば、光芽守靖様に気づかれその目的も知られましょう」

 会社を風間かざま様個人の所有物から、風間かざま家へ移管するには。

 「それなりの理由と期間が必要になります」

 その為に、風間かざまは状況づくりや打ち合わせや書類、会社の中から外までここしばらく駆けずり回り、今日、ようやくひと段落したのだった。

 持っていたジャケットの首元に触れると、一瞬で腕輪のようになり、空中に浮いている水の塊に触れると、そこにぽっかりと穴が開き、リングを収納する竹野中たけのなか。すると。

 「一杯欲しいな」

 竹野中たけのなかが振り向くと、上半身裸で下半身もラフな格好になった、風間かざまが軽く伸びをしながら言った。

 「かしこまりました」

 一礼し、ベッドの対角線上にある部屋の隅へ行くと、何もない所からカウンターが伸び、頭上にはグラスの棚が現れた。

 「まったく、何もこんな忙しい時に強奪なんかしやがって、余計な手間を増やしてくれるよ」

 草平衆くさひらしゅうの行為は、風間かざま家の主たる流通業務にも、影響を及ぼしていた。五月三十一日国家管理装備品強奪事件によって、あらゆるものに対し赤警察の監視が強化され、その為、全ての流通品にも検査期間が設けられた事から、時間とコストが一気に跳ね上がったのだ。

 そして当初の予定通り、軍備品関連の流通もここへ加わり、休みもない状況だった。

 「通報しとくべきだったかぁ」

 両手で顔を覆いながら風間かざま、カウンターへ。

 丁度出来上がったドライマティーニとクラッカーを差し出す竹野中たけのなか。ありがとうと言って、一気に飲み干し、中のオリーブと、その後味を楽しむ風間かざま

 「もう一杯頼む」

 かしこまりましたと、今度はドライじゃないものを用意する。

 カウンターに椅子を出して、腰かける風間かざま。微かに彼の体臭が汗と混じり、それを竹野中たけのなかは感じた。

 「あれかな、外交がもうちょいうまくいってれば、国内も治まってたのかな、地方も酷いって聞くし」

 風間かざま様。

 マティーニを差し出しながら、竹野中たけのなかは続けて。

 「ありがとう」

 「佐復さまた外務大臣は最初から、馬山国まざんこくの謝罪や賠償金、今後の協議等、目的としておりません」

 口の端に笑みを浮かべて風間かざまが、何故? と。

 「以前、旧兵器の軍備について、風間かざま様が国際法をご懸念されました折に、その為の外交交渉と、答えさせていただきました」

 そういえば、そうだった。

 佐復さまた外務大臣は軍務省が、形だけのはりぼてになる事を最初から予想し、であれば当然、装備も直ぐに整うわけもない。となると既存のもので用意できるのは、旧兵器だけとなる。

 「だから国際法に引っかかるって言ったんだよな」

 しかしこくとして、馬山国まざんこくより謝罪も賠償金も受け取っていないのだから、旧兵器の使用を能動的に認めないまでも、使用拒否とはしない立場となったのだ。

 「……いいのかな?」

 マティーニのグラスを持って風間かざま

 「旧兵器を使い馬山国まざんこくと戦争をすれば、国際法の形骸化を招き、事実上の使用解禁となるでしょう」

 口の中にジンの強い風味と、その周囲にベルモットの香りが広がり、美味しいと一言、続けて風間かざま

 「それを承知で?」

 「佐復さまた外務大臣はそういう人物です」

 有能というよりはむしろその逆で、彼の評価は正直悪いものだ。理由は外務大臣就任以来、他国からの債務返済が滞りはじめた事にある。

 その事を風間かざまが指摘すると。

 「そもそも債務の返済は国同士の取り決めです、本来大臣一人が代わる事で変更はありません」

 普通なら、であればこそ、佐復さまた外務大臣はそれだけ無能であるとの証明と考えそうなものだが、竹野中たけのなかは。

 「佐復さまた外務大臣はわざと債務の返済を遅らせているのです」

 風間かざまはマティーニを置いて、組んだ腕に顎をのせ。

 「それで?」

 佐復さまた外務大臣は、債務に金額以上の価値を持たされられると考えているのです。

 「なる程、債務を大目に見てやるから、いう事を聞けってね」

 須々木(すすぎ)王は経済に強いが、外交は事なかれ主義等と揶揄されている。それをうまく利用しているわけだ。

 すると。

 「佐復さまた外務大臣の評価は、大きく変わるな、竹野中たけのなかは最初から評価してたかい?」

 マティーニを持ち。

 外務大臣になってから。

 「評価を変えました」

 その言葉に風間かざまはおどけてみせたが、竹野中たけのなかの洞察力に、またもや感嘆していた。

 「ん……、さて、じゃあ汗でも流すかな」

 「準備できております」

 飲み干したグラスを戻しながら、ありがとうと席を立ち、止まって。

 それに気づく竹野中たけのなか

 風間かざまが振り返って。

 「背中を流してもらおうかな」

 街の灯りが、延び始めた夕日を追いやるようにして、きらきらと拡がっていく。頭上には超高架道路層と更に上空に、自動軌道機の層が見えている、大きなガラス張りのバスルーム。

 外からの光は通すが、中からの光を遮断する、特殊偏光硝子で覆われていた。

 これは何も景観を楽しむばかりではなく、防犯も考慮されたもので、名家ともなると、最も油断するバスルームと寝室には、細心の注意を払うものなのだ。

 「いいね、ありがとう」

 風間かざまがそう言うと、背中を洗っていた竹野中たけのなかは一礼して下がる。そしてゆっくり湯船に浸かると、弛緩した表情で、心から癒されているようだった。

 「体調の方はどうだ?」

 不意に尋ねられ、僅かな間で竹野中たけのなか

 「 お気遣いいただきありがとうございます、おかげさまで問題ありません」

 「そうか、無理はするな……、力が弱くなってた」

 ためらいがちな風間かざまのその言葉に、思わず目を大きくした竹野中たけのなか。しかし直ぐに閉じて。

 「恐れ入ります……風間かざま様にご迷惑がかからぬよう、自己の体調管理に一層努めてまいります」

 その言葉を聞いて、風間かざまは少し安心した。竹野中たけのなかは言ったからには、必ず守るからだ。

 「またか、どんどん酷くなるな」

 街中で騒ぎが起きたのか、青警察が集まりだしていた。そしてそれ以外。

 「金剛衆こんごうしゅうもいるようです」

 レイヤーでそれと分かり、竹野中たけのなか。へえ、と感心している風間かざまに。

 「金剛衆こんごうしゅうといえば火繰ひくり家の件ですが」

 あぁ守靖もりやすがどう対処するのか決まったか? と風間かざまが尋ねると。

 「東亜藍潮計画とうああおしおけいかくに参加している小規模企業に対し、三目みつめ家へつくように工作する方針のようです」

 「なる程ねぇ、札束でひっぱたいて、こっちに靡かせるのか、そう上手くいくかねぇ」

 「東亜藍潮計画とうああおしおけいかくの小規模企業は」

 辰港たつのみなと事故による追加出資に今あえいでいます。治安の悪化で株価も下がる一方ですので。

 「個々の立場に関わらず、効果は大きいでしょう」

 「……どんどんばらばらになっていくな」

 眼下を見下ろしながら、風間かざまは呟いた。

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