白狼 五
徐々に国内が不安定になっていく陽の国。哭腑衆においてもその変化は感じられていたが、そこへ国の旧兵器が草平衆に奪われるという大事件が知らされた。一体その目的は何なのか!?
登場人物
雲丘貴善:哭腑衆の<守人>。<墓守>の称号を持つ。
一之谷伍政:哭腑衆の<影梁>。
園野覚知:哭腑衆の<守人>。実戦経験が豊富。
鈴木敬:哭腑衆の<守人>。<墓守>の称号を持つ。
用語
草平衆:影松桐蔭が作った衆。様々な人材を抱える大規模で新しい衆。
レイヤー:眼鏡型の情報端末。
<守人>:近接戦闘職者。
メガシリンダー:正式名称、大笹凡筒。竹筒明星社の作り出した人造装置。
赤警察:捜査調査を担当する警察。
三目家:古代から存続する名家。あらゆる分野に企業を持つ。
四月十二日暴動:新改革派による政権批判デモが、テロ行動に取って代わられた事件。
「強奪?」
目を見開いて、長い黒髪に白い肌と鋭い顔つき、目の周りはうっすらと赤く、雲丘貴善が言った。
何に使う部屋なのか広く、縦横無尽の骨組みは三メートルの天井にまで届き、その骨組みが一部開けた壁際に集まっていた。
「そう、強奪。草平衆はあの時から旧兵器の場所を探ってたんだ」
前髪が長く、たれ目に銀のレイヤーをかけた、一之谷伍政が。
それであの頃から、政府関連の所でうろうろしていたのかと、他の<守人>も納得した。
「おいおい、洒落になってないだろぅそれ、だって、今日からじゃなかったか確か? 軍務省って」
髪を刈上げ細い目にはレイヤーと高い鼻、しっかりと大きな口に、短く顎鬚の逞しい園野覚知が、信じられないと落ち着かなく手と頭を動かしながら。
壁にもたれ腕を組んみ、そのやり取りを聞いている、大柄で鍛え抜かれた、精悍で灰色の瞳にレイヤーと、短くしなやかな黒髪の鈴木敬は黙したまま。
「そうですよ、この後十三時だったかな? には政府より発表がありますね」
あーあ、そりゃやばいわ、と骨組みの所までふらふらと下がり、そこへ腰かける園野。
「装備もないのに発表するもんなの?」
どこか声に楽しそうな抑揚の雲丘が。
「ずさんだよ」
旧兵器の一部はメガシリンダーに保管さててね、状態の把握もできてないもんだから。
「運び出す装備がちぐはぐだったのだから、そこに草平衆が大挙して人力で運び去ったんだと」
一之谷は眉をひそませながら言うと。
「全部?」
口をとがらせて、感心した表情で雲丘が。
「いや、そうでもない、むしろそんなに持ってかれなかったらしいね」
運びやすいものでもなし、しかし。
「ミサイルやロケット、威力高めの物を奪ったと」
そこまで一之谷の説明を聞いた鈴木は。
「その目的は?」
肩をすくめて一之谷。
「まだそこまでは」
でも何にせよ頭目の影松桐蔭は過激思想ですからね。
「何をしでかしても不思議じゃないですね」
園野が後を続けて。
「しでかすったって、当然赤警察が捕まえに行くだろ?」
園野の言う通り、政府としては恥もいいところで、即座に赤警察は動くべきだったのだが、そうはならなかった。
小能中公安大臣は五月末をもって大臣を辞任、後を引き継いだ宍和田公安大臣に、命令権が移譲する間隙を突かれた形となったのだ。
普通の犯罪ならいざ知らず、現場での強権発動という手も取れただろうが、奪われたのは兵器であっても、そこには利権や派閥という名の落とせない垢が、びっしりこびりついているのだ。下手な動きをすれば結果いかんにかかわらず、恐ろしい敵を作り出しかねない。
その状況を一之谷が説明し終えると。
「こりゃ長くないよ……」
と言った園野。それは政府の事なのか国の事なのか。
「影松桐蔭は過激思想と言ったな、そもそも衆の目的は?」
鈴木が一之谷に。
「国を守る」
端的に答えた。
「憂国の<守人>、か」
鈴木が眉間にしわを寄せた。
「あ、いいねかっこいい、憂国の<守人>」
「笑い事じゃないぞ雲丘、草平衆は最早<守人>衆ではないと思え、あれら自身が武器だ」
鈴木の物言いに、表情を引き締めた園野と一之谷だが、分かっているのか、雲丘はそれは怖いね、とにやついた。
「そうですね、外交の失敗で地方じゃテロ行為が激化してますし、それらを抑えて国を思うというなら……より過激になるでしょうね」
鈴木の言葉を継いで一之谷が、さすがに深刻そうに言った。
それに反応して、園野がうんざりしたように、両手で頭を抱える。地方に引っ込んでりゃ良かった、と。
「ふむ、よし一之谷、今度俺と来い、情報を共有しておく」
はあ、と不意を突かれたのか、気のない返事を返す一之谷。
「俺が以前来客で席を外した事があったな、あれは三目家の分家と会っていた」
「!」
雲丘、園野、一之谷の全員、表情が変った。
それで? と雲丘の表情が直ぐに笑みに変わり、続きを促す。
鈴木は皆の前に進み出て。
「我々の持ちえない情報を貰える事となった、その情報の連絡役を一之谷にやってもらう」
得た情報は速やかに全員へ共有しろ。
「全部ですか?」
取り扱いの繊細な情報も含まれると感じて、伝達情報の取捨選択は必要ではないかと、暗に言ったのだが。
「構わん、先方が既に取捨選択を済ませたものしか言わん。情報の有無が、今後哭腑の状況を左右する。隠し立ては無用だ」
その時、鈴木がレイヤーに反応したのに気づいて、園野と一之谷が情報をレイヤーで確認する。雲丘もレイヤーをかけ確認。
連絡してきた相手は殿岡で、その内容は。
「治安維持の依頼?」
声を出して園野が驚く。
外交の失敗による、新改革派デモの過激化、テロの激化、旧兵器強奪による情勢不安の助長など、これ以上地方から青警察の徴集も難しく、各<守人>衆へ協力の依頼となったのだが、代王派である哭腑衆の応援まで必要とは。
「よっぽど切羽詰まった感じですね」
一之谷が鈴木に。そう簡単に頼める事じゃないですからね、と続けるが。
「本来はそうだが、前回の活躍もある。それが、依頼のしやすさに繋がっているだろうな」
四月十二日暴動における、活躍の事を鈴木は指摘したのだ。
しかしこうした<守人>達の活躍によって、街に武器が溢れ出す事になる。




