表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陽国史 一  作者: いちのはじめ
54/137

国中起盛 十

 馬山国まざんこくとの交渉を終える佐復さまた外務大臣。その結果に憤る下赤悟朗しもせきごろう。しかし佐復さまた外務大臣には明確な目標があった! そして徐々に頭角を現す石和希具視せきわきともみ。その勢いは周囲に敵を生み続けていた。


人物紹介

 下赤悟朗しもせきごろう佐復さまた外務大臣補佐官。

 佐復紘一さまたこういち:外務大臣。策略家。

 南代香北みなみだいかぼく:皇王陛下の側男そばめ

 石和希具視せきわきともみ:陰から人々を操ろうする策謀家。

 益栄善治ますえぜんじ:情報政策大臣。性急すぎる時期公安大臣画策をして、石和希具視せきわきともみに足元をすくわれる。

 藍河宗玄あいかわそうげん:代王。与党勢力内で多数派になりつつある代王派を率いる。


用語

 レイヤー:眼鏡型の情報端末。

 太緑国たいりょくこくこくの反対側にある島国。

 馬山国まざんこく:国内の憂いを、外国に敵を作る事で解決しようとしている。

 静秦殿せいしんでん:首都太京の中心に位置する皇王の居住地。

 

 「いいんですか!?」

 目にかかる黒髪を横に流し、くっきりと二重に黒い瞳とレイヤー、整った細い顎の下赤悟朗しもせきごろうが、両手をテーブルについて立ったまま詰め寄る。

 テーブルの上の紅茶をいれたカップが、揺れる。

 やたら豪奢で華美な部屋、の隅っこで笑ったような細い目で、ゆったりとソファーに座ったままの佐復さまた外務大臣が。

 「良いよ、これ以上続けても埒があかないだろう、潮時だよ」

 そんな説明では納得が、そもそも説明ですらない、そんな憤りで下赤しもせきは。

 「っ、しかしこれでは」

 「言ったろう」

 物言いは平易だったが、そのぴしゃりと毅然な態度に口を挟まれた下赤しもせきは、勢いをそがれる。

 「順番が逆ってね」

 何の事だか、しかし直ぐに太緑国たいりょくこく到着直前のやり取りだと思い出す、が。

 「……」

 それが何だというのか。

 「じゃあ外務省の戦争は、どうやって勝つ?」

 「 」

 下赤しもせきがテーブルから手を放し、直立する。

 外務省は、外国と交渉するのが仕事である。一度戦争が始まってしまえば、終戦ないし停戦まで出番はない。それはすなわち外交の失敗である。では? 佐復さまた外務大臣の答えは単純だった。

 「次の戦争で勝つんだよ」

 「次の」

 何の感情もなく、おうむ返しする下赤しもせき。足を組んだ膝先で、両手を組んで佐復さまた外務大臣は続ける。

 「そう、次だ。須々木(すすぎ)王はご立腹なさるだろうが、次だよ。次、馬山国まざんこくが一発でも我が国に撃ち込んだ時に、我々は勝利する、その為に太緑国たいりょくこくに来たんだよ」

 立腹は、野本のもと財務大臣もする事になるのだが。

 「え、……と」

 よく分からない下赤しもせきは、手と視線が空中を泳ぐ。

 馬山国まざんこくは内戦が終わっただけの、ぼろぼろな国家だ。国内問題はそう簡単に解決しない。となれば国内問題から目をそらさせようと、その度に我が国へちょっかいを出すだろう。他の国にちょっかい出すより、債務が減る可能性等。

 「メリットの可能性があるからね」

 でもそれではどれだけ外交交渉したところで、馬山国まざんこくは無視してくる事になり、外務省の立場は意味のない事になる。そう下赤しもせきが言うと。

 「だからだよ」

 足を組み直して佐復さまた外務大臣。

 「馬山国まざんこくが一発でも撃ち込んだら、ってね」

 「……あぁ」

 呆けた声になったが、下赤しもせき佐復さまた外務大臣がいわんとしている事に、何となく気づき始めた。

 すなわちこういう事だろう。どれだけ交渉を上手くこなそうが、馬山国まざんこくは必ず攻めてくる。しかし開戦すれば、終戦なり停戦の交渉は必ず発生する。その時にこそ、開戦するだけ損をする仕組みを作り上げておく、と。

 「だから外遊が大事と仰ったんですね」

 下赤しもせき太緑国たいりょくこく到着直線に、佐復さまた外務大臣がいった言葉を思い出したのだ。

 笑いながら佐復さまた外務大臣は、テーブルの上の紅茶カップを手にとって、香りを嗅ぐ。

 「うん、やはりこの国の紅茶は一級品だね」

 一口飲むと続けて。

 「それにね、この交渉結果で我が国も、旧兵器を使えるようになったんだよ」

 国際的に正式な立場ではないけどね。

 そう言って、殊更笑って見せた佐復さまた外務大臣だったが、これが国際的に影響を及ぼす劇薬である事を、理解していた。


 「いいのですか?」

 濃く長いまつ毛に瞳は黒く大きく、その周囲はうっすらと赤く丸い顔は小さく色白で、まるで令嬢と見まごう青年、南代香北みなみだいかぼく

 「だいぶ言葉遣いもなってきたな」

 目に剣のある表情、伸びた髪は濃い灰色で、口元は常に薄く笑っているような、石和希具視せきわきともみ南代みなみだいの質問には答えず。

 ここは静秦殿せいしんでんの一室、南代みなみだいに皇王陛下が与えられた彼の部屋である。広々とした部屋を暖色系の調度品で揃え、温かく柔らかい優しい雰囲気のする場所であった。

 その部屋の窓寄りに、豪華だが軽い座り心地の椅子に、ゆったりとした服装で南代みなみだいは座り、石和希せきわきは窓の外に咲く小さな柚子の花を、腰に手を当てて眺めている。

 「石和希せきわきさん危険です、最近じゃ俺……私にだって噂が流れてくるんですから」

 「ふん、何をいまさら」

 不敵に笑う。

 「こんな状況がいつまでも続けられるわけがない、いずれ変わる、俺がやらなきゃ誰かがやる」

 「でも」

 腰を浮かして南代みなみだい

 「出る杭ね、それを恐れちゃ何もできないだろう?」

 石和希せきわき自身、周囲から疎まれている事は百も承知なのだ。それに。

 「俺が目指すのはいずれ変わる程度の変化じゃない、大変革だ、止まっている暇なんてないんだよ」

 たかだか益栄ますえ情報政策大臣を落したくらいで。

 「恐れちゃね」

 振り返り余裕の態度で石和希せきわき

 「……」

 南代みなみだいには、慣れてきたとはいえ、まだ政治の話は入り組み過ぎて、よく分からないから何も言えなくなった。

 部屋の奥に進みながら。

 「これでせっかく空いた大臣のポストだ、そこへ代王派をあて込めば、藍河あいかわ代王にも顔向けくらいはできるだろう」

 できるの? と立ち上がり、優雅な仕草で石和季の後ろから抜いて歩く南代みなみだい。右側奥にあるバーカウンターで、薄くそして装飾を施したグラスに水を注ぐ。

 「うん」

 それを受け取り一気に飲み干す石和希せきわき

 「面白い事に、藍河あいかわ代王には三目みつめ家が付いた、これで金にも困らないわけだ、いい追い風が吹いてるよ」

 飲み終えたグラスを受け取り。

 「でも石和希せきわきさんが自由に使えるわけじゃ、ないんでしょう?」

 もちろんだよ、と馬鹿にしたような言い方で、窓際へ戻っていく。

 「八谷やつやが、元副総理だな、奴が政治資金面を管理するらしい」

 代王派が増えるんだ、嫌とは言わんよ。

 南代みなみだいはグラスを水で洗い、布巾で水をふき取った。ここには機械で自動化されたシステムは、殆どなかった。

 「でも、全てが上手くいくわけじゃないでしょう?」

 石和希せきわきの後ろに立つ南代みなみだい。普通はそう考えるが。

 「何を言うのやら、失敗を前提に動きはしない」

 外を見ながら、自然と背筋が伸びていく石和希せきわき

 「でも、もし何か、もし石和希せきわきさんがいなくなったら、お、私は一人です、他に頼れる人は誰も」

 「皇王陛下がいるだろう?」

 振り返り石和希せきわき

 「! そんな……恐れ多い……」

 この態度を見て、石和希せきわきの視線は冷たかったが、決して蔑みだけの感情ではなかった。 「南代みなみだい、困ったら黙っとけ、一言も喋るな、見下す演技でゆっくりその場から帰ればいい、これは奥義だ」

 「あ、はいっ」

 「じゃあ私は戻る」

 「えっもう?」

 思わずでた南代みなみだいの言葉に、思わず足が止まる石和希せきわき。少し目が大きくなった。しかし再び歩き出し。

 「最近道が混むんだよ、あれ以来治安が悪化したんだ」

 あれとは何だろうと、後で、青丹生春防衛戦の事だと気づく南代みなみだいだが。

 「南代みなみだいも外に出る時は気を付けろ」

 「あ、はいっ」

 この日、南代みなみだいは初めて笑顔になった。

 だが石和希せきわきは、そんな自信の足元をすくわれる事となる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ