三目家伝 七
陽の国と馬山国の外交交渉結果を、正確に予想して見せる竹野中竜兵衛。そして怪しい動きを見せる草平衆の目的とは!?
登場人物
赤実陽:風間家の<影梁>。
風間福児:風間家の当主。
竹野中竜兵衛:風間家の参謀。
用語
レイヤー:眼鏡型の情報端末。
三目家:古代から存続する名家。あらゆる分野に企業を持つ。
火繰家:鉄鋼事業で財を成なした、古代より続く名家。
メガシリンダー:かつて人口減少を食い止める為に作られた、人造装置。
<守人>:近接戦闘職者。
竹筒明星社:大笹凡筒やレイヤーを作った会社。
金剛衆:火繰家の<守人>衆。
草平衆:急激に拡大している新しい衆。
馬山国:内戦を終えたばかりの大陸の国の一つ。
「何でそんな危ない事するの!」
丸く童顔の猫顔、レイヤーをかけた陽が激高して叫ぶ。
「いや、危ないってね、いや、これが一番……」
どんどん説明がしどろもどろになる、清潔感のある黒髪に、どこか冷たい雰囲気のある福児。座ったまま、身体が小さくなっていく。
「駄目っ、絶対駄目!」
福児に最後までしゃべらせない、凄い剣幕で圧迫してくる陽。
さっきまで可愛く笑顔だったのに、あまりの落差に面食らう。
「陽は許さないからねっ」
こりゃどうにもならないと、困った顔のままの福児に。
「そんな顔しても駄目だから!」
語気を強めるが、顔を赤らめてそっぽを向く陽に、この機会を逃すまいと福児。
「あー……、決まっちゃったんだよね」
「!」
その言葉に怒りと驚きと困惑とが入り交じり、何とも表現したがい形をしたかと思うと、次の瞬間。
「福児の馬鹿っ!」
渾身の力で叫ぶと、波紋を残し部屋から出ていった。
「あぁ、あぁ……」
嵐をやり過ごしたのか、緊張から解放されたのか、それともただ困っているのか、福児は呻いているだけだった。
「お待ちしておりました風間様」
夜の明かりでは、より一層血色の悪く見える竹野中が、自動磁気式車の中で風間を迎えた。
「……遅れてすまない」
どんよりした空気に、すぐそれと気づいて。
「伝えたのですか?」
彼にしては珍しい口調で。
「ん、ああ、……おかげで怒られた」
座席に座ると首までもたれかけて、全身から力が抜けたようにだらしなく風間。
「こんなに怒ったのは初めてだな……いや、一度だけあったか」
目を閉じて、回想する風間。
レイヤーで、自動磁気式車に出発の合図をだす竹野中。
「今回の三目家会議はあれか、例の三目家外しの対策についてか?」
回想を終えたのか、風間が目を閉じたまま尋ねる。
それもあるでしょうが、と竹野中の物言いに目を開ける風間。
「光芽守靖様は、既に対抗手段を決めておられるでしょう」
むしろ今回の会議招集は。
「政権に関する事柄となりましょう」
「! ……そうか」
再び目を閉じる風間。
夜の街並みを下に、自動磁気式車は進む。
「風間様、わたくしがたびたび光芽守靖様と会っている事はご存知でしょうか?」
「うん、知ってる」
「その要件についてはいかがでしょうか?」
「いや、知らない」
そう言って伸びをする風間。目を開けて、眼下に流れる夜景を眺めながら。
「結果や必要があれば説明するんだろう? それまでは自由にやっていていい」
風間家だけの事じゃない、と続けて。
三目本家や対政権、火繰家の対応もそうだし各衆への対応も含めてね。
「竹野中に任せるよ」
うやうやしく頭を下げる竹野中。
「風間様、赤実とは例の話以外には何かありましたでしょうか?」
急に話が変わり、しかも陽に関するものだったので、露骨に眉をひそめる風間。
「いや……」
それではわたくしが代りにと、メガシリンダー周辺で、よく<守人>を見かけるようになったと、赤実が録画した情報をレイヤーに表示しながら、報告した。
「何なんだ、これ?」
メガシリンダーは超巨大企業、竹筒明星社の建物である。しかし二千年の長きにわたる企業ではあるが、現在となっては過去の資産と権力をひたすら保持利用し続ける、熱量のない仮死状態とされている。
勿論、ここにしか存在しない技術や、ここでのみ許可されている権利等、数々の貴重なものが存在しているのも事実で、レイヤー等もそういった技術の一つであった。
「元金剛衆の<守人>が、何名か含まれていました」
「と、いう事は?」
「草平衆です」
では何故草平衆が、今更メガシリンダーを監視しだしたのか。
「人工子宮はもう何年も動いてないだろう、何が目的だ?」
陽の国の人口低下を、まがりなりにも踏みとどめたのがメガシリンダーである。かつて程ではないにせよ、人口の増加が、自然生殖で賄われるようになってからは、特殊な場合を除いて、メガシリンダーは首都圏におけるただのアイコンとなって久しい。すなわち、表立っては、百年単位でその活動を行ってない事になっていたのだ。
まさか、草平衆の頭数を増やすとか。
「ないだろうな」
竹野中はこの件について、最初、草平衆を調べたのだが成果を上げられなかった。というのも、堅固な秘密主義によって行動を秘匿するのではなく、様々な雑音を無数に用意する事で、調べきれなくする方法をとっていたのだ。
調べたのは陽なのだが。
だから竹野中は。
「竹筒明星社を調べましたところ」
旧兵器を管理している事が分かりました。
「!」
風間は身体を起こして。
「一企業が国家単位の兵器を所有してるのか?」
「数百年前の記録になりますが、そのようです」
公式の記録に残されている為、秘密というわけでありません。
「ただ」
「ただ?」
「保管場所の記録は非公開です」
なる程ね、と再び背中をもたれかけて風間。そういう事なら、まずは一番目立つメガシリンダーに狙いを付けるのは、当然だろうと思った。
「馬山国との交渉が本日より行われています、恐らく月末までずれこむでしょう」
それが終わると軍務省の創設と大臣の任命、その後に。
「軍備の話がでます、直ぐに用意できるものではありませんので、旧兵器を持ち出す事になるでしょう」
「国際法は?」
どんな兵器が保管されているか風間は知らないが、おそらくその殆どが使用禁止兵器だと思っていた。
「その為の外交交渉です」
きっぱりと言い切る竹野中。
馬山国は、自らした違法行為への非難は百も承知で、であればこちらがどれ程非難したところで、何か効果をあらわす事はなく、しかし陽の国もそれを認めないとしながらも、追求を途中で止め、その代わりに自らの旧兵器による軍備拡張も、うやむやにする事を目指していると、竹野中は説明した。
「……輸送量が、増えるかな?」
竹野中の完璧な予測を受け、風間が、軍備の急激な拡張による輸送量の増加につながると踏む。
事実、竹野中の予測は当たり、軍備拡張につられ、軍関連以外も輸送量は増える事になるのだった。




