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陽国史 一  作者: いちのはじめ
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双頭録 一

 若き<守人もりと>二人の物語。これより実力で栄達を望む。


登場人物

 空矢政継そらやまさつぐ:若い<守人もりと>。

 黒田量くろだはかり:若い<守人もりと>。


用語

 レイヤー:眼鏡型の情報端末。

 <守人もりと>:近接戦闘職者。

 <墓守はかもり>:<守人はかもり>の中でも特に優れた者につけられる称号。

 「何だ、爆発?」

 丘の上の安宿、錆びついてきしむベランダから例の港工事現場が光るのに気づいた。そして遅れてぬるい振動と響く重低音、複数回。

 短い黒髪と整った細い眉毛、優し気な目じりに細い鼻と小さな口は、すっきりとした輪郭と合わせて知性を感じさせる青年だった。

 何が起きたのか夜の海を、レイヤーで拡大してみるが、距離があり過ぎた。

 「……」

 ここからでは詳しくは分からないが、工事現場の明かりの中に、煙があがっているようだった。

 「はかり、何だよ今の音」

 そう言って奥から、あまりまとまってない黒髪に、上がり気味の眉毛と挑戦的な黒い瞳、そして引き締まった逆三角形の顔には、しっかりした鼻と自信のある口元の、裸の青年。

 「爆発だよ、政継まさつぐ

 断定してみせるはかり、言いながら振り返ると。

 「……そんな恰好で出てくるなよ」

 タオルをふんどしのように腰に巻き付けただけの政継まさつぐに、呆れてはかり。返して政継まさつぐ、鍛錬中だったんだからしょうがないだろうと、ぶっとい振り棒を回しつつ、はかりの肩に腕をもたれかけて外を見る、が遠くてよく分からない。

 軽くため息をしてはかりが。

 「内戦が起こるかもね、本当に」

 目を細めながら呟いた。

 「内戦? あれ爆発? 事故じゃなくて?」

 政継まさつぐの腕を振り払いながら、事故なわけないだろうと。

 「あの港工事は本来ならこくにおける国家事業なんだよ。権利利権入り乱れて複数の企業や、名家の合同って事にはなってるけどね」

 「それが?」

 はかりの言葉を受けて政継まさつぐ、夜風に身体から立ち上る熱気を冷ましながら、続きを促す。港の方へ振り向いてはかり

 「そんな事業であんな派手な爆発事故が起こるもんか。そもそもあそこまで爆発するような物が工事現場にあるわけないのさ」

 そんなん分かんないじゃんと、とりあえず思った事を口にする政継まさつぐへ、腕を振り払い言い含めるようにはかりが。

 「この爆発で誰が損をして誰が得をするのか」

 それを望む者がいて、防げない者がいた結果なのだと。だから。

 「この後そうした企業なり名家なりが動き出す、権利の拡大、奪回を目的にね。すぐに分かる、見てなって」

 はあん、としたり顔で左の口の端が上がって政継まさつぐ

 「見えてきたよ、そういう事ね。俺達の腕を高く売り込む機会がやってきた、と」

 腕を組んで窓に寄りかかりつつ、何処に売りつけようかと。

 「まあ普通に考えれば王、体制側だろうね」

 ベランダから部屋に戻るはかり

 港工事を決定したのは今の須々木(すすぎ)王で、彼は。

 「国の象徴たる麻金あさかね皇王を擁しておられるからな」

 続けて後ろ手に窓を閉めつつ、わざとらしいはかりのもの言いに、じゃあ決まったじゃん俺等売り込み先、と政継まさつぐ

 ソファーに座るはかり。壁が明るくなり、それは時事情報の速報で、たった今起きた港の爆発についてだった。

 「そう簡単でもないぜ」

 何せ予想通りなら、その対抗馬は藍河宗玄あいかわそうげんだろうからな、の言葉に。

 「誰だそれ?」

 映像を通り過ぎて、汲んだ水をあおった政継まさつぐ。その言葉に肩と目元が下がるはかり。眠そうにぬけた表情を政継まさつぐに向けて。

 「数年前まで代王をしてたろう」

 そんな昔の事は覚えてねえなと、うそぶく政継まさつぐ。そのまま廊下にあった扉を開いて中へ入ると、超音波式洗浄装置で汗を流し始めた。柔らかい水の布で覆われたようで、とても気がいい。

 「本来であれば自分が王になるべきと考えていたのさ彼は、優秀だと自負してるし実際そうだったからな。しかしそうならなかった権力者が考える事は、どれも同じだぜ」

 はかりの話を聞いていたのかどうか、タオルで身体を拭きながら出てくる政継まさつぐ

 「難しい事ぁいいさ、要は無理矢理って事だろ? なら義は王にある。俺達は王に付くさ」

 相変わらず単純明快である。だがそこが気持ちのいい奴だと、はかりは口に出さず口で笑って見せた。しかし出した言葉は。

 「藍河宗玄あいかわそうげんが有利になったら?」

 はっ、と息を吐き捨て。

 「俺達<守人もりと>は義で動いてなんぼだろうよ、強くなれば問題ねぇ」

 その言葉に眉毛を八の字にして、じゃせめて<墓守はかもり>の称号くらい手にしないとな、と嘲笑してみせるはかりに、自分の胸を右親指で突きながら。

 「するさそれくらい、<墓守はかもり>の中で一番になるさ」

 頼もしいと思いつつ、しかしはかりは違う言葉で呆れてみせた。

 「いいから服着ろよ」

 政継まさつぐは右腕のリストバンドに触れると、一瞬で服に着替える。

 他国とは違い、永く太平を続けてきたこの国が、変わる時が近づいてきていると、そうはかりは時事情報を見ながら実感していた。

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