白若竹 十ニ
馬山国との争いで群を作る事に決めた陽の国。その国の中で怪しく動く<守人>の集団があった。
登場人物
赤実陽:風間福児の<影梁>。
多々良真琴:火繰家から独立した<掛り>技師。
用語
大笹凡筒:かつて人口減少を食い止める為に作られた、人造装置。今は使われていない、竹筒明星社の建物。
レイヤー:竹筒明星社によって作られた、眼鏡型情報端末。
<影梁>:諜報活動を専門に扱う者。
<守人>:近接戦闘職者。
電柵:対飛び道具用の防具。
電足帯:足の裏に付ける電磁式の移動補助具。
「うん?」
細く小さなリビングで、左手一面硝子からは、朝の光と眼下に広がる街並み。その中でひときわ大きく高い、緑色に輝く円柱状の巨大建造物、大笹凡筒、通称メガシリンダーが見えている。
野生の猫を思わせる丸い顔に、短い黒髪と白い肌、濃いまつ毛の周りはうっすら赤く、瞳にはレイヤーの陽がメガシリンダーを見て、何か違和感を感じた。
朝食用に買っておいた、ハムとチーズと玉子のサンドイッチを皿に戻すと、窓際へ行きレイヤーを使って最大望遠に。
「んー……」
別に、メガシリンダーは全くいつも通りで何の変化もなかったが。
「ん」
その周囲。
「屋上に」
それを囲う建物の上に、何人かの人影が見えていた。そこが何の建物で、ここからでは何をしているのか分からないが、いつもとは違う事は、確かだった。
まさか<影梁>じゃないよね。
<影梁>であれば、この距離からそれと気にされるような行動はとらない。しかし陽は一度怪我をして以来、慎重に考えるようになっていた。
テーブルに戻り、朝食を再開する陽。バターの程よい香りと、ハムとチーズの塩味で増した食欲に任せ一気に食べ終えると、わざわざ買い付けてる水を、コップ一杯飲み干して。
「ごちそうさま」
上の階に戻り、何やら持ち出して手のひらサイズの小さなバッグに放り込み。
「よし、出かけよう」
今日に限っては、正しい外出方法で外に出ると、工業地帯を北へ進み、先程の人影のあった建物近くへ。
時々鼻歌まじりに、ご機嫌な様子で歩く陽。しかし勿論、ただ散歩しているわけではない。それと気づかれない動作で、先程持ち出してきた道具、小指の爪程の小型カメラを設置して歩いていていたのだ。もっと小型の物もあるが、小さすぎて見つけづらい為、陽はこの大きさを好んで使っていた。
朝の出勤者達に紛れて、工場地帯には似合わない剣を下げた<守人>達が、ちらほら周囲を歩いている。
「ふーん」
特にこそこそしているわけでもなく、しかし何かを調べているようだったが、陽には見当がつかなかった。
「」
見上げるとメガシリンダーがそびえ立ち、上まで見ようとすると首が痛くなった。
「ま、いっか」
その場を離れた。
「赤実君やったよ!」
短くまあるい茶色の髪に、眠そうな茶色の瞳には大きなレイヤーの、多々良が搬入口で興奮していた。
何やら報告があるからと、午前中も早い時間、空に雲がかかる前に、陽は呼び出されて来たのだ。
「レイヤー変えたんだ」
まず目についた事を口にする陽。
「そうなんだっ、これも契約がとれたからなんだよっ」
嬉しそうに奥の作業場へ、足早に歩く。
見れば、今日の多々良は汚れていないし、作業服も着ていない。いつもなら朝食後には、もう指先が黒ずみ始めているのに、と気づきつつ。
「契約?」
「うんっ」
何でも、陽の依頼で作った新型電柵と、それを元にして作った新型電足帯の、大量注文を取りつけたというのだ。
「いやぁ、これも赤実君のおかげだよ、一番最初に聞いてほしかったんだ!」
新型の電柵と電足帯を、手に取りながら。
「! 凄い、おめでとうっ」
多々良はしゃぐ姿は、陽にとっても嬉しいものだった。
「じゃあこれからは、沢山作らないとね、いつまでに用意するの?」
「九月までに十万組」
「じゅ……!」
流石の陽も驚き、それ見て感動を新たに多々良、電柵と電足帯をそっと作業台に置きながら。
「赤実君にも、きちんとしたお給料が出せるようになるから」
「それも勿論いい事だけど」
十万組何て作れるの?
流石に陽では手伝おうにも、役に立たない話だから、しかし得意げな笑顔で振り返り多々良。
「ここは元々企業が使ってた工場だから、機材を入れれば十分対応できるよ」
その設計を今朝までしてたんだ。
それで汚れていないのか、と納得する陽。
今日業者にその設計を渡し一週間後には機材を搬入、その後二週間程度で自動化製造作業プログラムの組み込みと調整、更に一週間の実働調整を終えれば。
「来月からでも製造は可能だね」
<掛り>技師についての知識は、まだそんなにないから、そんなもんなのかと妙に感心した陽。
「でも、まあ、実際には作った電柵とかが、設計通り動くのかの試験の方が、重要なんだけどね」
「はー……、陽にできる事があったら言ってね」
何にもできないとは思いつつ陽。
「ありがとう」
元気よく切り返す多々良。
「ん? でもどこからそんな量の注文がきたの?」
それだけの数がいる衆は存在しない。そもそもこの国にそんな集団があったかな? と首をかしげる陽に。
手を広げて興奮気味に。
「国だよ」
「!」
言われて気づいた陽。
そういえば軍隊を作るとかって、会議で決定したとか。
「そう、か……」
軍隊は十万の軍勢になるという事か、想像もできない規模だった。
人口が減ったこの世界において、十万という組織は、世界でも最大規模となる。
左の指を唇にあてて想像する陽。
「僕はね赤実君、人を守る道具を作りたい」
「」
午前中も早い時間、空に雲がかかり始める時間。多々良は自分の道を、見つけたような気がしていた。




