国中起盛 七
青丹春防衛戦で大量の死者を出した陽の国。初めての状況にそれぞれの思惑が入り乱れ、責任問題を利用するものや、これを機に取り入ろうとするものなど、国の危機にあって尚政争に明け暮れる!
登場人物
小能中御池:公安大臣。
須々木雅義:陽の国国王。
野本信士:財務大臣。
佐復紘一:外務大臣。
二井脇昇:法務大臣。
森國男:総務大臣。
益栄善治:情報政策大臣。
田端秀男:農林水産大臣。
国木正二郎:交通大臣。
用語
青丹春防衛戦:陽の国の青丹で起きた馬山国との戦い。
青警察:重武装した治安部隊。
馬山国:内戦が終結した大陸の国の一つ。政治情勢が不安定。
天聖国:陽の国の東にある、友好関係にある国。
亜鎌国:陽の国の近くの島国。武術の盛んな国。
太緑国:遠くにある島国。
レイヤー:眼鏡型の情報端末。
「二日後の二十日正午に合同葬儀となります。以上が、青丹春防衛戦の最終報告です」
前髪を細く分けて、両側は刈り上げた、たれ目の小能中公安大臣が静かに言った。
円形で丸く中央に穴の空いたテーブル、二十二の椅子全てに大臣が着席し、それを囲うように一段高い席には須々木王。天井の高い窓のない、円黄議会場にて。
理由はどうあれ在任中に、八十二名の青警察を一度に失ったのだ。昨日から野党は責任問題を追求し続け、議会は空転。連日の報道は中立性を保っているが、一般的な意見は、政府の対応のまずさを糾弾するもので溢れていた。
誰が何を言うでもなく、小能中公安大臣の引責辞任で一旦の幕引きをと、考えている。後は誰がその口火を切るのか、いつもなら野本財務大臣辺りなのだが、艦船の派遣に反対した手前、いつものように中立かつ正しい立場、とはいかないのだろう。黙ったまま。
「誰も発言しないようなので」
一々余計な事を言いつつ、穏やかで笑ったような細い目の、佐復外務大臣が。
「馬山国の大使館は当日閉館となりましたが、局長間での連絡は残してありました。四月十七日十三時頃、私の名前で正式に抗議し、先の戦争行為について釈明及び謝罪要求を通達致しました」
ここでようやく、各大臣達の頭が動き始めざわついた。
「それで、馬山国からの返答はどのような?」
小柄だが清潔感のある男、二井脇法務大臣が案の定、最初に質問する。
「まだ返答はありません。私はこの会議で、馬山国の返答に対し、どのような方向性で臨むのか、それを議題にしたいと考えます」
円形で丸く中央に穴の空いたテーブル、二十二の椅子全てに大臣が着席し、それを囲うように一段高い席がある、天井の高い窓のない、円黄議会場にて、喧々諤々、互いの派閥や個人の立場など入り乱れ、時間が経過していく。
その間、小能中公安大臣は一切口を開かなかった。
この結果、陽の国は青丹春防衛戦にて馬山国艦船を撃退、勝利した事を国内外に喧伝する事。馬山国に責任者の処罰、賠償金の請求を行う事。これらを方針と決めた。
「こんなところか」
神経質そうで、細身の頬に鼻、話す際にも口を殆ど動かさない中年、森総務大臣が。続けて佐復外務大臣。
「まあ、実際には次善の策、という事になりましょうが」
そうなのだ。国としては当然強い態度で臨むのだが、それは相手も同じ事。そもそも話し合いにすらならない。だから次善の策として。
「仲介する第三国をどこにする、か」
ぼさぼさでくせの強い黒髪に、知的というよりはいやらしい目つきで益栄情報政策大臣が言った。
本日の方針を、直ぐにでも国として発表するが、馬山国も同じように対抗してくるだろう。もしかしたら、先に馬山国の発表があるかもしれないが。その状況から交渉に持っていく為には、どうしても中立となる第三国の仲介が必要となる。勿論、陽の国にとって都合のいい中立であるが。
「天聖国辺りが、本来はよろしいでしょうが、難しいですね」
首が太く大柄だが、とても感じの優しい男。が。
「田端農林水産大臣のいう通りでしょうが、であれば亜鎌国での交渉をしてみてはと、提案します」
と森総務大臣の提案に。
「亜鎌国は我が国に寄り過ぎている、馬山国が」
その交渉に来るとは考えにくい、それに亜鎌国は我が国に多額の債務がある、仲介を理由に。
「それの減額を要求されかねない」
いかにも堅物そうな野本財務大臣が、間髪入れず反論した。
両者の間に険悪な空気が流れ、再びそれぞれの思いをめぐって意見が飛び交うが。
「では太緑国では?」
急に離れた地域の国名が言われ、会議の視線が国木交通大臣に集まった。何故? という疑問で。
「我が国や馬山国とも等しく貿易の相手であるし」
何より、我が国に対する債務が少ない。
その国木交通大臣の提案で仲介国は決まり、佐復外務大臣は早速部下へ連絡をつけるよう、レイヤーをかけて指示する。
さて、これでいよいよ、小能中公安大臣の責任問題にうつると思いきや。
「さて小能中公安大臣、大臣の立場から国の防衛に関する意見を聞きたいのだが」
益栄情報政策大臣がおもむろに切り出した。
不意を突かれて、しばしきょとんとするが。
「あ、はい、先ずは国内からの反動分子を抑える為、事前治安維持権の有効的な発動と」
佐復外務大臣は、益栄情報政策大臣を横目で見る。
「急ぎ、軍務省を創設すべきと考えます」
「!」
議会がざわついた。須々木王の表情も変わったが、誰もそちらには気をおいておらず。
「それは公安大臣の権限を広げる形かね?」
野本財務大臣が鋭い視線で、小能中公安大臣に詰め寄るが。
「いいえ、国内治安と国の防衛は切り分けるべきです」
そもそも公安大臣の権限は強力で、だからこそ厳格な性格の野本財務大臣に短期的な兼任を、という話しだったのだから、そのやり取りを知らない小能中公安大臣にしたって、常識の範囲内でそう考えていたのだ。いや、若造だからこそ。
「新しい椅子、だね」
半笑いで佐復外務大臣が顎をこすりながら。
新しい椅子!
それは権力、派閥の変化をもたらす重大要素である。
「決の必要はありませんな、時間も惜しい」
そう森総務大臣が一同を見回し、野本財務大臣ですら反対せず。
森総務大臣が立ち上がり、須々木王へ向くと。
「全大臣二十二名中、二十二名の賛成となりました、どうぞ、ご裁可の程を」
「大臣達がそう決めたのでしたら、それを良しとしましょう、ですが」
事は急を要します、卯月内には必要書類を全て揃え、翌皐月には省創設の運びとなるよう指示いたします。
「以上です」
須々木王も焦っていると、森総務大臣は一礼しつつ思い席に着いた。
内閣の評価は、そのまま王としての評価につながる。そして青丹春防衛戦により、評価は急下降しているのだから、一刻も早くその責任を小能中公安大臣に背負ってもらい、辞任と考えていただろう。しかし。
森総務大臣が佐復外務大臣を一瞥する。
順番としては、辞任させた後だと森総務大臣は考えていた為、この状況に少々不満だった。
「軍務省を創ると言っても言葉だけでは意味がない、装備を今から作るのでは遅すぎる、この際、過去の兵器についても検討するべきではないかと考える」
そう国木交通大臣。
その言葉に思わず顔を上げる、小能中公安大臣。
「……そんなものが」
あるのか、と。




