白若竹 三 / カミツレ 二
建設中の辰港で、陽が行動を開始する。守るは大勢の警備員と三人の<守人>。
登場人物
赤身陽:
並比良和司:三人いる<守人>の主任。
若智覚:一番若い<守人>。
秦巻薫:モデルのような<守人>。
用語
電足帯:足の裏に付ける電磁式の移動補助具。
<守人>:近接戦闘職者。
「警戒されてるなぁ」
黒一色となった陽が、にわかにあわただしくなってきた周囲の動きに気づいて、建設資材の影から、その様子をうかがう。警備員達が二人一組で割り当てられたであろう持ち場を、棒とライトを使って慎重にそれぞれに調べていくのが見えた。
ここにいてもいずれ見つかると、それなら下見も十分じゃないけど。
「やるか」
動き続ける無人工作機の影に隠れつつ、一番外側の岸壁へと急いだ。普通の人間より明らかに素早い。足裏に装備した電足帯が、ごくわずかな光を放ちつつ、強力な反動で勢い良く陽を移動させる。明るい現場で黒い服が目立つと、走りながら首元を触ると、全身が灰色に。無人機を伝いながら、素早く高い建築中の骨組みの一番上へ移動し、下を見る。
「よしよし」
気づかれていないと満足げにし、その場にあったロープを仮組の柱に結ぶと同時に、何かを仕掛けた。そしてもう一方のロープの端を、反対側にあった重たそうな鉄骨資材に括り付け、半分近く外へ滑り出させる。落ちているネジやらリベットやらをいくつか拾って。
「よっ」
行きかう無人機の一つに素早く投げかけた。それはまるで散弾銃のような威力で、哀れ無人機、運んでいた資材もろとも落ちていった。
『不具合発生、不具合発生』
途端に現場一帯へ警報が鳴り響く。無人工作機が、空中のものはその場で静止、地上物はその場で停止し、全てが赤いランプを点灯させ、辺り一帯が赤く染まる。その赤い場所めがけて、警備員達が口々に叫びながらわらわらと押し寄せてくるのが見えた。
「来た来た」
それを陽は慌てるでもなく眺め、しかし見つけたいのは彼らではなく。
「うわやっぱりいたか」
警備員とは比べものにならない程の速度で、一気に駆け寄ってくる。
「<守人>」
それも三人。
まあ陽ならいけるね。
と軽口を思うが、彼自身は剣も銃も持っていなかった。さっきむすんだ、建物からせり出した鉄骨に左足で乗り、右足で鉄骨を挟むようにしてバランスをとって立つ。時折強い海風が陽の身体を揺らした。
ばんっ
その時、仮設階段を駆け上ってきた三人の<守人>が、勢い良く飛び出てきた。
やみくもに突っ込んでくるなんて無防備だなぁと思う陽。
空気を切り裂く程鋭く一閃、剣を抜き構え、微動だにしない切先。
「動くな、抵抗すれば斬る」
並比良が型どおりの文言ですごむ。彼の前に立ち、秦巻と若智も剣を抜いて構える。
視線の強さが、びりびりと肌に突き刺さる。しかし陽は両腕を頭の後ろで組んで、おどけるように身体をくねらせる。
「こいつっ」
その様子にものの見事、こめかみに青筋立てた若智が一歩踏み込み、それを挑発だと気づいた秦巻が、止めようと動いたその時っ。
「!」
彼らの後ろで、光り、風圧、音圧! 瞬間無音、ここから全てが急激にゆっくりと動き出して感じ、並比良は風圧に押されつつ、相手を見る。陽は落ちる鉄骨の勢いで誰よりも早く下へ引っ張られる。秦巻は横向きで踏ん張れずに飛ばされ建物の外へ。若智は低い構えから反射的に踏ん張るが、どうにもならない。最も爆発に近い並比良は爆発に抵抗せず、その勢いでそのまま真っ先に建物の外へと吹っ飛ぶ。
爆発。
崩れる建物、飛び散る破片と無尽工作機、土砂崩れのように岸壁を削り、巻き込まれてガントリークレーンはレールから外れ、基礎部分を削りながら海へと落ちていき、その基礎に乗った他の構造物も、次々海へと落ちていく。警備員達の怒号と悲鳴は、凄まじい轟音にかき消され、無秩序の連鎖反応と広がっていった。
これが後に、辰港事故(事件)と呼ばれるようになる、その現場での出来事であった。