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陽国史 一  作者: いちのはじめ
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白若竹 十 / 双頭録 七

 馬山国まざんこくが砲撃を開始! その最前線にいる川瀬《川瀬》は? 政継まさつぐはかりは? そこへ偵察に来ていたひざしが動く! とてつもない暴力が吹き荒れる!


登場人物

 赤実陽あかみひざし風間かざま家の<影梁かげはり>。

 黒田量くろだはかり舞雪形まいゆきがたの<守人もりと>。

 空矢政継そらやまさつぐ舞雪形まいゆきがたの<守人もりと>。

 川瀬正二かわせしょうじ:青警察の青年。

 秦巻薫はたまきかおる金剛衆こんごうしゅうの<守人もりと>。

 瀬地幸田せじこうた金剛衆こんごうしゅうの<守人もりと>。


用語

 青丹あおにうこくの中央北側に位置する港町。

 レイヤー:眼鏡型の情報端末。

 電柵でんさく:対飛び道具用の防具。

 電足帯でんそくたい:足の裏に付ける電磁式の移動補助具。

 青警察:重武装した治安部隊。

 馬山国まざんこく:今年に内戦終結した、大陸の北方にある国の一つ。

 赤警察:捜査調査を担当する警察。

 金剛衆こんごうしゅう火繰ひくり家の<守人もりと>衆。

 「あぁ……!」

 青丹あおにうの港町のあちこちで、火と煙が上がっている。

 猫のような丸い顔、長い黒髪と白い肌、濃いまつ毛に瞳にはレイヤーと、尖った鼻先に小さく濃い色の唇、ひざし青丹あおにう駅を降りて見た、最初の光景だった。

 レイヤーを顔に密着させ、地上へ急ぐ陽。着いた時には、上がっている煙の本数が増え、鈍い音と振動が続けざまにやってくる。

 「ん」

 思わず身体に力が入り、しかし、電柵でんさく、そして電足帯でんそくたいの電源を入れる。そして黒のチョーカーに触れると、やや濃いめの灰色にピンク色のラインが入った、動きやすい格好へ切り替わり。

 「ふっ」

 短く息、鋭く海へと滑り出した。

 「 」

 途中、デモ隊の時のように、逃げ出している一般市民がいるかと思いきや、町は極端に静かで、それに直ぐ理解した陽。

 避難済み、……見えたっ。

 浜辺へ。

 「 」

 その光景は、遠距離から一方的に砲撃され逃げ惑う青警察、のものではなく、集まると思いきや散会を繰り返し、相手の砲撃をひたすら交わし続ける青警察達の姿があった。

 「凄い……」

 こく側に艦船への攻撃手段がない為、被害を最小限に抑える唯一の方法だった。


 だがしかし、はかりはただ避けているのではなく、相手の砲弾を消費させるのが本当の目的だった。

 敵艦船から砲撃の煙が上がり、瞬間遅れて、音が響く。そして次には辺りが砂と噴煙、怒号と悲鳴。

 「くそっ、まだか!」

  まとまりない黒髪に上がった眉毛と、挑戦的な黒い瞳の政継まさつぐが叫ぶ。

 十発近い砲撃が繰り返されているのだ。青警察が全員無事という事はないだろうが、全体の状況がつかめなくなっていた。一撃目の着弾で、レイヤーは壊れて使い物にならなくなり、周囲との連携が取れなくなっていた。その為、思った以上に被害は大きいんじゃないかと、政継まさつぐは、心臓が実際い締め付けられる痛みを感じていた。

 「限界だ」

 同じく、短い黒髪と整った細い眉毛、優し気な目じりも今は厳しい表情のはかり

 馬山国まざんこくこくに短時間で勝利宣言をし、なおかつ、債務の帳消しを勝ち取る為には、青警察団の壊滅ないし、それに類する戦果を欲するはずと、はかりは考えていた。

 「物陰へ!」

 はかりが抜いた剣で浜から離れた街中を指し、それと気づいた青警察達が、次々と退却していく。それに気づいて政継まさつぐも同じように続く。

 黒煙、轟音、着弾、爆音、振動、噴煙。

 空が陰ってきただろうか。心なしか風まで強まった気がしてくる青警察達。建物の影から沖合をうかがう。

 「おう、生きてたか」

 汗で前髪の張り付いた状態で、政継まさつぐが。

 「不思議とね」

 おどけて応えるはかり

 周囲に完全装備の青警察に混じり、二人だけ私服の政継まさつぐはかり。だがその事を咎める青警察は誰もいなかった。

 「ああ、いた、良かった」

 そう言ってヘルメットを外したのは、茶色くまとめた癖毛は前で切りそろい、丸い目に凹凸の少ない鼻と口、愛嬌を感じる風貌の青年。

 「川瀬かわせ、無事だったか」

 もう駄目かと思いました、と素直に感想。

 いや実際、他の青警察も同じ気持ちだろう。周囲の視線が、声を掛けた政継まさつぐに集まる。

 「部隊長殿は? 次の行動をとらないと」

 はかりが急かすが。

 「殉職なさいました」

 淡々と答える川瀬かわせ。だが無意識に眉間にしわが寄っていた。

 そばで聞いていた、青警察達が動揺し始める。無理もない、急出来合いの混成部隊である。隊長代理も定めておらず、互いの階級もろくに知らない者同士なのだから。

 政継まさつぐは空を仰ぐが、直ぐに周囲の視線に気づいて、一呼吸。

 「はかり、どうする?」

 沖を見ると、艦船は砲撃を止め、接岸できる東側の港へ接舷しようと、動き出していた。

 「何人残ってる?」

 集団戦を経験していないはかりでは、感覚的にも、青警察がどれくらい残っているのか、見当がつかなかった。レイヤーさえ動いていれば、望遠にして、砂浜に残る死体を確認すればいいだけだが……。

 思わず手のひらで額を小突くはかり

 「多分、 二百八十名、かな?」

 自信なさげに言う川瀬かわせの周りで、ヘルメット被ったまま、他の青警察達も頷いた。彼等が被害を出しつつも、こうしていられるのは、この二人がいた為だと分かっているから、今は皆が彼等を頼っていた。

 「連中は俺達を殺したいんだろ? だったら真っ直ぐこっち来る。迎え撃つ方法は?」

 政継まさつぐに促され、はかりは。

 「後退しながら、二人一組で一人を倒す、無理はしない。下がりまくる」

 そう鋭く言ったはかりだが、それを全員に伝える方法がない。がしかし。

 「伝達」

 隣のヘルメットを叩いて、はかりの言葉を繰り返す川瀬かわせ。それが次々と伝わって行くのを見て、政継まさつぐはかりも感心しつつ、少しだけ、勇気をもらった気がした。


 「上陸した」

 ひざしは、勝手にのぼった人の家の屋根から、身を伏せつつ、馬山国まざんこくの上陸を確認した。

 下では浮足立っていた青警察達が、徐々にその秩序を回復していくのが、その独特の空気で感じ取れた。

 どこもかしこも避難済みで、残っているのは全員、戦闘を行う者達である。

 「この状態なら」

 何か、武器を持ってくるべきだったかもしれないと、そもそも偵察のみ行うつもりだったひざしは、しかし、上陸してきた馬山国まざんこくの兵隊を見て、何故か、自分が汚されたような気持ちになり、好戦的な気分に支配されていくのを感じていた。

 「数は」

 レイヤーで確認する。まだ距離があるが。

 「二百とちょっと」

 真っ直ぐこちらに近づいて来るという事は、青警察を攻撃するつもりだと、ひざしにも理解できた。

 「……」

 さてどうしようか?

 まともに突っ込んでも巻き込まれるだけで、最悪、青警察の攻撃を受ける事もあるかもしれないと、進行してくる敵部隊を眺めつつ。

 「あ」

 敵部隊の動きが素早くなった。

 「重装備」

 とは思えない程素早く動き、動きにくい砂浜を避け、それに沿って伸びる道の下、堤防に隠れて展開した。

 「?」

 ひざしからは丸見えだし、あまりいい位置に着いた用には思えない。

 「」

 足元の様子をうかがうと、青警察が、見た事のない長い銃を取り出していた。敵を狙うには、角度が足りない。

 返して、再び敵を見ると、青警察の銃より、もっとごつい物を用意しているのが見えた。

 「やばい」

 ひざしは本能的にそう感じ、敵の視界に入らない程、東へと移動していった。


 「……」

 川瀬かわせ達青警察が、物陰から銃を構える。ここにいる誰もが、この銃を人へ向けて撃った事がない。普段の鎮圧用短銃とは違い、ずしりとくる重さ。

 「……」

 剣を握り直す政継まさつぐ。いつもなら感じない柄の凹凸が、今はやけに手のひらに響き、繰り返し握り直す。

 「ふぅ」

 ゆっくりと、しかしその息は震えているはかり。抜いた剣は、その切っ先を下げたまま。

 政継まさつぐはかりも、それなりに腕に自信はある。幾度となく他流試合を経験し、とっさの戦いにだって対応できると思っているし、実際そうだった。事実、太京たいきょう駅武市ビル<守人もりと>騒動の時だって、できた。しかし。

 他国の侵略者が相手。

 それは今までとまるで違う状況であり、捕える方法がない場合、相手を殺す以外の選択肢が無い事を意味していた。

 全員、口の中が、からからに渇いていた。

 「ふうっ、ふうっ」

 誰ともなく、いや、誰もが、浅く速い呼吸。波の音。

 物陰からそこにいるであろう、敵兵に向けて構える青警察。静かな時間。不安。呼吸のし過ぎで、眉間と後頭部が熱くなる。じっとしているのが辛くなる。不安。思考が巡る。人に向けて撃てるのか。いや撃てる。当たるのか。当ててみせる。通じるのか。……通じるのか?

 そもそもちゃんと弾は出るのか? 弾は入ってたか? 味方は一緒に戦ってくれるのか? 勝手に逃げたりしないか? 怪我をしたら? 捕虜になるのか? 捕虜になったとして無事でいられるのか? 拷問は? 死ぬ事もできない責め苦を受けるのか?

 「はあっ……」

 過呼吸、その時!

 爆発!

 「なっ!?」

 それも上で!

 何が起きたのか、政継まさつぐはかりも混乱した。

 「!」

 しかし気づいた時には。

 「正面撃てぇっ!」

 政継まさつぐの声も、爆音で麻痺した青警察の鼓膜には届かない。

 重装備した馬山国まざんこく兵の正面突撃。狙いも定めず撃ちまくってくる。

 やられた。

 はかりはそう思った。

 「うっ」

 しかも敵の銃は、建物を貫通する威力。電柵でんさくの通常出力では全く役に立たない!

 「引けーっ!」

 全身全霊で叫ぶ政継まさつぐ

 もはや戦いにすらなっていなかった。混乱したまま、個々の青警察が反撃をするが、戦闘に関する経験値が違い過ぎていた。効力の薄い射撃は、徹底された反撃で一つずつ消し潰され、退却も、その中央に集中攻撃を受けまとまる事もできず、分断させられ散り散りとなり、気がつけば、町の中心部へ押し込められてしまっていた。

 銃撃が止んだ。

 「くそっ」

 染み出すように声が漏れる政継まさつぐ。その横では方で大きく息をしている、ヘルメットを被ったままの川瀬かわせ、他三名。

 どうする? どうすればいい? はかりはどこだ? 無事下がれたのか?

 勝手に入り込んだ建物の中、しかし相手の銃の前には、紙も同然。むしろ破片となった壁自体が凶器となる。

 「……」

 もう一度、青警察達を見回す。

 「……」

 剣をしまう政継まさつぐ

 電足帯でんそくたいは。

 「ああ、まだ動くな」

 レイヤーが壊れた為、残り電力が分からないが。

 「川瀬かわせ、俺が囮になる、その間にできる限り逃げろ」

 疲れ以上に、脳の電気信号が流れ乱れっぱなしで、川瀬かわせ政継まさつぐの言っている言葉が理解できなかった。が、他の青警察がその言葉を受け、屈んだまま敬礼をした。

 「よし」

 外の様子を伺おうと、政継まさつぐが窓のある部屋に移動し、視線を外へ向けると。

 「!」

 敵兵のヘルメット!

 互いに飛びのく。

 敵が構える。

 振り返る政継まさつぐ

 他の敵兵も一斉に構える。

 電足帯でんそくたいが光る。

 銃声。

 飛び散る肉片、血が窓に当たりひびを入れる!

 「!?」

 だがそれは政継まさつぐのものではなかった!

 「よしっ」

 狭い道に一直線で並んでいた敵を、その敵の銃で撃ちぬいたのは、ひざしだった。

 直ぐ異常に気づく敵。銃を捨てて瞬間その場から消えるひざし

 敵の進行する速度が遅くなる。

 「何だ?」

 それと気づいてはかり。同じく八名の青警察と一緒に、物陰に隠れて。

 「うっ」

 敵の銃声。崩れる建物の音と煙。また銃声。しかし敵兵の進行が完全に止まった。

 何が起きてる?

 四名一組で行動する敵が、曲がり角に差し掛かった時、その一番後ろの敵を、ひざしが強襲。頭部への鋭い打撃、しかしそれでは重武装の敵を倒せない。だからよろける相手の勢いで銃を奪い、そのまま敵を盾にして、三人をしとめ、最後に倒れた敵にとどめを刺す。

 飛び出す。打撃。奪う。銃声。銃声。銃声。銃声。飛び去る。

 道が狭い事が幸いして、敵に捉えられる事なく次から次へと、敵を撃ち倒していく。しかし、所詮は一人である。

 「おっ」

 飛び出そうとして、ひざしは大きく下がった。

 「あっぶな」

 敵の警戒が、全方位に切り替わっていた。その為、死角から打撃を行う戦法がとれなくなったのだ。

 すると敵兵は突撃力こそ失うが、被害が収まったと理解し、再び前進を開始。

 そんな中。

 「政継まさつぐ

 「はかり、良かった無事か」

 でもなく右肩を痛めていた。がその程度の怪我、今は気にしている場合ではない。

 港から内陸側へ進んだ住宅街。港側と違い、綺麗に区画整理されている為道も広く、これより後ろは青丹あおにう駅であり、繁華街である。

 駅の破壊は、国としては何としても避けたいところだろうし、そんな義務はないのだが、政継まさつぐはかりにしても、また青警察達も、同じ思いだった。

 「ここにいる青警察は、現在百八十名になります」

 もはや、全くの部外者である政継まさつぐはかりが、まるで、この部隊の隊長だった。

 素早く周囲を見渡し、皆、満身創痍だが不思議と秩序は保たれて、整列をする青警察。

 「……」

 残った顔ぶれの中に、川瀬かわせがいないと、深すぎるため息一つ、しかし今は現状をどう切り抜けるか、無理矢理意識を切り替える政継まさつぐ

 「さて、どうするか?」

 肩が痛くて腕が組めないはかり、暫く考え、こうしている間ももったいなくすぎる時間。

 開けた場所で撃ち合えば、こちらが負ける。だが今からまた、狭い町の中へ入るのは、無謀だろう。それに連絡手段がない。小部隊に分ければ各個撃破される恐れがある。

 はかりは後ろを振り返り。

 「あれを利用するか」


 「はあ、はあっ」

 誰かの家の物置に、川瀬かわせは座り込んだ。元々人は住んでいないのか、荒れ放題の庭は深く雑草が生い茂り、物置も海風に錆びて穴だらけだった。

 「ん」

 直撃は免れたが、攻撃を受けた衝撃がヘルメットの左半分を破壊し、ひびだらけにしていた為、川瀬かわせはそれを脱いだ。

 「皆は……」

 無事だろうか? 空矢そらやさんや黒田くろださんは?

 退却に次ぐ退却を繰り返し、その何度目かに皆とはぐれ、おそらく、今は敵兵の後ろに取り残された状態だと、川瀬かわせは思っていた。

 そして不思議と、取り残された恐怖を感じる事がなかった。

 これは極度の緊張状態による精神的疲労と、急激な肉体疲労による一種の麻痺状態で、その為、一切警戒する気持ちを持てない状態だった。

 その時。

 「おい大丈夫か?」

 黒い制服姿の、赤警察がそこに立っていた。


 「さて、どうする」

 速度の鈍った敵は、防御力を上げている。こうなるともう、攻撃は不可能だが。

 「んー……」

 ひざしは目的を切り替えた。敵を倒すのではなく、足止めをする事にしたのだ。まだ二百人はいる敵を、たった一人で。

 今まで来た道を、効率よく戻り、捨ててきた銃を拾うと。

 「重っ」

 幾つかを器用に抱えて、敵背後へ戻っていく。だがこんなものを抱えたままでは、自慢の速度が出せず、逃げる事もできなくなる。だから。

 「よ」

 屋根の平らな家や建物に、それ等を置いていき、だいたい配置し終えると。

 構え、銃の照準を覗き込む。すると、銃のシステムが目標を確認し距離を測り、風や天候を処理すると、目標に当てる為のポイントを、照準の中に赤い点で表示した。

 引き金を引く。銃声。

 直ぐに反応されて、集中反撃にあうひざし。だが、既にそこにはおらず、大きく移動して別の屋上。同じく繰り返し、引き金、銃声。反撃。

 「凄い」

 敵の反撃速度が上がっていく。これはそう繰り返せないなと、心で舌打ちするひざし

 散発的に、敵が平らな屋根に銃撃をくわえ始めた。そして更に進みは遅くなるが、敵は前進を開始する。

 敵の進む先は区画整理された町となり、道も広く、そこへ行かれれば、ひざしではもう止められない。そして事実、止める事はできなかった。


 「射撃用意」

 敵兵は遂に、青丹あおにう駅の下へたどり着いてしまった。広い駅前では遮蔽物はなく、敵兵は固まって互いの防御を高めながら、上の駅へと狙いを定めた。

 駅の中からは少数の青警察が、ばらばらに敵兵の様子を窺っている。

 町のアイコンである駅の破壊もしくは占領は、明確な敗北を意味するだけではなく、これからの戦意にも関わる重要な意味を持つ。

 だからこそ青警察含め政継まさつぐはかりは、駅をとられまいと考えたのだ。

 だが、その駅が、今まさに、破壊される瞬間!

 「撃てっ!」

 その号令を下したのは政継まさつぐだった!

 敵兵が固まっている、その斜め後ろ両側建物から二部隊に別れて現れ、互いの銃撃が交差し、最も火力が集中するようにし、残りの弾丸を全て、この攻撃に叩きつけるかのように!

 文字通り、敵兵がばたばたと倒れていく。もはや青警察達に、人を殺すおぞましさも、恐怖も、不安も感じていなかった。異常な程の興奮が、倒れる度に湧きあがり、次から次へ、更に、更に!

 いける。

 そう駅左手の部隊にいたはかりが思った時、再び事態は動いた。

 そう、敵兵は、馬山国まざんこく兵士は、彼等はずっと内乱を生き残ってきた、つわものなのだっ。

 青丹あおにう駅の攻撃を諦め、味方の死体を抱えると。

 「何!?」

 驚く政継まさつぐ

 それを盾代わりに、駅右手の部隊、政継まさつぐのいる方へ突進してきたのだっ。

 死体を投げ捨てる敵兵。

 数で劣る政継まさつぐ達は、その強硬突破を止められず、近距離の敵兵銃剣に、次々と倒されていく。

 政継まさつぐは構えた剣で抜けていく敵兵を、その重装備の隙間に難なく差し込む。

 ずぶり、と筋っぽい筋繊維を切り裂く感触が、手のひらに、そして理解する脳みその表面に、べったりと張り付いた。

 無意識に見開く目。

 そして瞬間、熱く湧きあがる脳、停止。

 最初の敵兵から剣を抜き、次の敵兵へ。

 ずぶり。

 そしてまた次の敵兵へ。

 ずぶり。

 そして。

 がきぃんっ!

 次の敵兵は、政継の剣を銃剣で受け止めた。

 「!」

 その瞬間、止まっていた脳の理性が再起動した。

 囲まれてる!

 数で劣り、技量で劣り、勇気で劣り、そして狂気で劣る青警察は、あっという間に壊滅へ。

 「突撃!」

 混戦した味方事撃てず、はかりは直ぐに突撃を開始。

 近接戦闘では敵兵に負けない政継まさつぐはかりに引っ張られ、青警察達は無茶苦茶な戦い方で、劣勢を押し返す。

 かに思えたが、やはり技量が違い過ぎた。最初の突撃を受けた時点で、部隊の半数を失い、その数的劣勢を覆す手段は、もう二人には残されていなかったのだ。

 爆発。

 劣勢の青警察へ、駄目押しの一撃。そのまま、為すすべなく、すりつぶされていく青警察は壊滅した。と観念するその時。

 「突撃ー!」

 爆発音で麻痺した耳に、辛うじて振動として感じる、猛々しい声が周囲に響いた。

 その怒号に、戦場が一瞬止まる。そして、今度は敵兵が慌てる番だった。

 やってきたのは百名近い<守人もりと>。近距離戦闘をしていた為、直ぐに射撃へ切り替えるが、<守人もりと>全力の電足帯でんそくたいがその時間を与えない。一気になだれ込み混戦となった。

 それでも数の上ではまだ敵兵が有利であったが、肝心の銃がこれでは使えず、近接戦闘で驚異的な攻撃力を見せる<守人もりと>衆に、次々追い込まれていく。

 「どこの……」

 衆だ? と息が切れて言いきれない政継まさつぐ。その衆は同じ制服で統一され、濃い赤を基調にした、しかし派手になり過ぎない、背中に昇り火の模様。

 「金剛衆こんごうしゅうっ」

 ふらつきながらはかりが気づいた。

 しかし、これで勝ったと思った、その時。

 爆発。

 立て続けに。しかも混戦しているその中心で!

 このままでは全滅とふんだ敵兵は、残りの味方を逃がす為に、数人が自爆攻撃を仕掛けたのだ!

 爆風をもろに受けるはかり。そのまま吹っ飛ぶ。とっさにしゃがんだ政継まさつぐも、破片を浴びて倒れる。

 「何だと!?」

 まさかそのような行動をするとは予想外の行動で、完全に浮足立つ金剛衆こんごうしゅうを見て、目にかかる前髪と、左でとめた長い黒髪。丸い目の瞳は薄青く、高い鼻に厚い唇の顔立ちは少し幼く見えるが、小さな顔はモデルのようでもある、秦巻はたまきが。

 敵兵はこの混乱を逃がさなかった。全速力でその場から後退し始める。もう一切戦おうとはしなかった。銃を撃ちはするが、ただ威嚇する為で、それは見事な逃げっぷりであった。

 「追うなっ」

 野太い声が響く。

 楕円形輪郭は引き絞られて、きつくまとめられた黒い髪に、険しい目つき。口は不機嫌を絵に描いたようなへの字口で、高い背はその風格と相まって、まるで塔のようである。

 「瀬地せじさん、最後の爆発でこちらにも被害が出ました」

 そう秦巻はたまきが告げると、まるで睨むかのような視線を刺し、しかし直ぐに。

 「現状維持、赤警察に連絡、それと救急手配」

 はい、と凛とした返事を返す秦巻だが、既に連絡済みで、これにより何人かは助かり、何人かはそれでも間に合わなかった。

 後に、青丹春防衛戦あおにうはるこうぼうせんと呼ばれる戦いはこれで終結した。これもまた、のちに続く、激動の時代への狼煙となる。


挿絵(By みてみん)

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