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陽国史 一  作者: いちのはじめ
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国中起盛 六

 領海内に馬山国まざんこくが侵入し三日目。政府の会議は混乱の中にあった。行き交う大臣達の思惑、その中で権力の維持に努める須々木(すすぎ)王。そしてついに戦端は開かれた――!


登場人物

 小能中御池このなかみいけ火繰ひくり家によって公安大臣の職に就いた若い議員。

 須々木雅義すすぎまさぎこくの王。

 二井脇昇にいわきのぼる:代王派の法務大臣。

 益栄善治ますえぜんじ:王道派の情報政策大臣。

 国木正二郎くにきしょうじろう:代王派の交通大臣。

 佐復紘一さまたこういち:王道派の外務大臣。

 望月一平もちづきいっぺい:元辰港(たつのみなと)警備隊長。現在は青千院せいせんいん館長。

 南代香北みなみだいかぼく麻金あさかね皇王の側男そばめ。政治的手腕を評価されつつある。

 森國男もりくにお:代王派の総務大臣。


用語

 円黄議会場:青千院せいせんいん内にある政府専用会議場。

 馬山国まざんこく:今年に内戦終結した、大陸の北方にある国の一つ。

 特別陽国海沿岸警備部隊:首都の青警察を主力に、他地方からも予備隊員含め三百人からなる、完全装備の混成部隊。

 青丹あおにうこくの中央北側に位置する港町。

 <守人もりと>:近接戦闘職者。

 レイヤー:眼鏡型の情報端末。

 「今からでも艦船を送るべきです」

 前髪を細く分けて、両側は刈り上げた、たれ目の小能中このなか公安大臣が言う。

 円形で丸く中央に穴の空いたテーブル、二十二の椅子全てに大臣が着席し、それを囲うように一段高い席がある、天井の高い窓のない、円黄議会場にて。

 内閣の全大臣が揃った会議の場、馬山国まざんこくの艦船が来て三日目になるというのに、公安大臣としてできた事は、首都の青警察を割き再編成し、特別陽国海沿岸警備部隊として無理矢理青丹(あおにう)へ送り出したくらいでしかない。

 「事が起きてからでは遅すぎます、相手国を刺激したくないというのであれば、せめて三時間距離の所まででも。責任は自分が取ります、須々木(すすぎ)王」

 そう、一段高い場所で一人座る王に、小能中このなか公安大臣は訴えた。しかし。

 「簡単に責任と云うが、事は国家間問題だ、一大臣の責任云々で済むものではないと考える」

 小柄だが清潔感のある男が、小能中このなか公安大臣に釘をさす。

 「二井脇にいわき法務大臣の言う通りですね、慎重に検討すべきです」

 そう須々木(すすぎ)王が応えるが、二井脇にいわき法務大臣に向ける視線は、何故か冷たいものだった。

 「報告書には、<守人もりと>二名が、特別陽国海沿岸警備部隊へ、警告をして周っているとある」

 いたずらに、危険を煽っている者がいるのも、事実ではないかな、とぼさぼさでくせの強い黒髪に、知的というよりはいやらしい目つきの男が。

 「益栄ますえ情報政策大臣、確かにそうですが、現場の偽りない空気でもあります」

 「空気や雰囲気で、艦船の派遣を決定とはいくまい、危険なのは確かと分かる、確実な情報が欲しいところではある」

 急ぎ赤警察が全力をもって、事に当たるべきかと考える、と禿頭で背筋を真っ直ぐ、見るからに知的で、身なりも洗練された男の言葉に対し。

 「国木くにき交通大臣、仰る事はもっともですが、最悪の事態も想定しておくべきかと」

 小能中このなか公安大臣は自分の感情を、震える拳で握り潰しながら、努めて冷静に対応し続ける。と、本人は思っていたが、佐復さまた外務大臣にいわせれば。

 まだまだ若い。

 口角が緩く上がるのを隠す事もせず、事の成り行きを見守っていた。が、その時。

 「何事だ」

 強くノックし、返事を待たずに開いた扉に、短く七三に分けた青みがかった髪で、横に平らな瞳と大きな口の男。その後ろには、ずっとそこに控えていたであろう、驚く南代みなみだいの姿。

 勢い良く入って来た男は、大臣達の避難がましい視線に臆する事なく。

 「たった今、馬山国まざんこく艦船より、砲撃を受けたとの報告ですっ」

 「!」

 騒然。

 いわんこっちゃない、と思わず両掌で顔を覆い、テーブルに肘をついて小能中このなか公安大臣。

 入って来た男は退出し、各大臣達は口々にいろんな事を言うが、相手が攻撃を仕掛けたのだから、結論は決まっていて、直ちに反撃及び艦船の派遣をするべきなのだ。

 顔を覆う手が拳に変わっていき、我慢の限界、もうどうにでもなれという感情が、小能中このなか公安大臣に湧きあがった瞬間。

 「反撃の許可と艦船の派遣、先ずはそれの決を」

 突然の張りがある声に、一同が固まった。

 神経質そうで、細身の頬に鼻、話す際にも口を殆ど動かさない中年、もり総務大臣の発言だった。

 全員が姿勢を正し、そもそも結論の決まっている内容である、まるですました顔の各大臣達に、佐復さまた外務大臣は笑いをこらえる。

 続けてもり総務大臣。

 「賛成の者は挙手願います」

 全員が手を挙げた。いや、野本のもと財務大臣だけは挙げなかったが、彼ともり総務大臣の関係を皆は知っている為、批判は出なかった。

 立ち上がり須々木(すすぎ)王へ向くと。

 「全大臣二十二名中、二十一名の賛成となりました、どうぞ、ご裁可の程を」

 その態度を、うやうやしいと見るか、ふてぶてしいと見るか、互いの立場を知る者には、後者であったろう。

 須々木(すすぎ)王の視線は、先程の二井脇にいわき法務大臣へ向けたものと同じだった。しかし。

 「大臣達がそう決めたのでしたら、それを良しとしましょう」

 そう言うと、須々木(すすぎ)王はこの円黄議会場を後にした。

 各大臣達もこれにより情勢が変わると、直ちに行動を開始。交戦権の所在や停戦の条件等、誰一人気にする事なく会議は終了した。

 レイヤーをかけ、現場からの情報を確認しようとする小能中このなか公安大臣だったが、青丹あおにうの、特別陽国海沿岸警備部隊との通信は途絶していた。直ちに青丹あおにうにいる他の青警察赤警察に、状況を報告するよう通達を下し議場を出ていく。

 「くそっ」

 小さく呟く。

 こんな事であれば、事前に通常警戒とでもいって、艦船を送り込んでおきべきだった。馬山国まざんこくが砲撃をしたという事は、こちらの武器の範囲外である可能性が高い。

 「……」

 戦争を昔に放棄したこの国にも、かつての戦術兵器が保管してあり、その存在を、小能中このなか公安大臣も知っていた。

 「今すぐにでも」

 使えるようにしておくべきだと。

 「小能中このなか公安大臣」

 突然、呼び止める声に振り返ると。

 「佐復さまた外務大臣、何か?」

 「厄介な事に、この件は今後責任問題になりかねないと思ってね」

 「……っ、責任は取ると言い」

 佐復さまた外務大臣のいった意味に気づいて、反射的に言い返す前に。

 「その気概があるなら保身してはどうかな? いや、言葉が悪いか、政権に残るべきだよ、貴方のような人こそね」

 まあ聞き流してくれていい、とその場を立ち去っていく佐復さまた外務大臣に、素早く深い礼をとる小能中このなか公安大臣。そして顔を上げると、先程より勢い良く歩きだして行った。

 「まだまだ若い」

 それを背中越しに感じながら、佐復さまた外務大臣は呟いた。

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