守人列記 一
草平衆は他の衆に比べ、格下に見られる事が多いが、その思想は徹頭徹尾国に仕え国の為というものであった。金剛衆の人員整理によってあふれた<守人>達を吸収し膨れ上がる草平衆が動き始める!
登場人物
影松桐蔭:草平衆の創立者。
朱巻智也:若い<守人>。
用語
金剛衆:火繰家の<守人>衆。
レイヤー:レイヤー:眼鏡型の情報端末。
草平衆:影松桐蔭の作った新しい思想の<守人>衆。
<守人>:近接戦闘職者。
「君の中に、国を守る気概あらば、喜んで向かい入れましょう、君の中に、国を守る気概なくば、ここで育てていかればよろしかろう、金剛衆では得られなかったものが、見つけられよう」
顔の作りは細く面長で、茶色い瞳は神経質で、かけている細身のレイヤーの男、影松桐蔭が真っ直ぐ、正しい姿勢で正座をして言った。
「あ、……はい、あ、お願い、致します」
その勢いに圧されて、思わず面食らった、薄茶色でふわりとした短髪に、特徴的な怒り眉とくっきりした黒い瞳、青いレイヤーの青年。
「うむっ、ではようこそ朱巻智也君、草平衆は君を心から歓迎しよう」
雑然とした、物が所狭しと置かれている部屋を出て、細い通路を影松が案内していく。明らかに、後から作られたと分かる作りで、まるで迷路のように入り組んだ先を進んでいく途中、ふと朱巻が。
「影松さん、何故草平衆は誰でも受け入れるんですか? 思想とか問わないんですか?」
「<守人>であれば、至極もっともな問でしょう」
歩きながら影松が答える。
本来、衆とは決まった思想の下、それぞれ独自の剣術修行を行うところである。しかし影松に云わせれば、その考え自体が間違いだという。
「でも、強くなる為には」
そうした方向性は必要だと考える朱巻に。
「その強さは個人の強さでしかありません、集団戦であれば、個々の剣術など取るに足らないっ」
前を進みながら、きっぱりと言い切る影松。今振り返られたら、朱巻が如何に納得していないか、影松はっきりと分かっただろう。
「でも、弱くていいという事も、ないですよね?」
間髪。
「その為に武器があるのです」
これでは<守人>は不要で、武器を使えるなら、誰でもいいと言ってるようなものである。朱巻は口がへの字に曲がる。
「戦争の経験はありますか?」
急に立ち止まり、振り返る影松。慌てて、渋さで絞りきった表情を開く朱巻。反動で喜んで驚いている表情になった。
「……いいえ」
「見ますか」
質問ではない影松。
狭く折れ曲がった通路の途中、その先から喧騒を感じつつ、朱巻は影松からの映像を、レイヤーに表示した。そして。
「……!」
思わずレイヤーを自分から引き剥がした。その顔色は蒼白、というより緑がかって、今にも萎れそう。
そのくぼんで見える瞳は、真っ直ぐ影松を捉え、怒りに満ちていた。
「自分が体験した戦争です」
「 」
絶句する朱巻。
「この国がそうならないよう、惨劇から守らなければならないのです」
影松は再び通路を、ゆっくり進みながら続ける。
「個人が救える数など、微々たるもの」
そうして通路を出た先、そこは広い部屋だった。しかし、それはいわゆる衆の道場なんかではなかった。
「……ここは?」
思わず口をついて出た。
勿論、剣術を鍛えている者もいるが、集団で討論している者、勉強している者、何やら道具を作っている者、絵を描いている者、まさに様々であった。
「ここが我が草平衆の道場、それぞれがそれぞれの考えで行動し、実践に備える場なのです」
実戦? 実践? 朱巻はわけが分からなかった。影松は。
それぞれが国の為に、守る為に、今自分には何をできるか、それを考え。
「その為に、ここで必要な修行をするのです」
と言った。続けて。
「剣を取る者は、戦に備えた勇気を、学ぶものは知識を、物を作るのは皆の為に、絵を描く者は皆に知らせる為に」
それぞれが得意分野を伸ばし、努力し実際に活かす事こそ、守るべき、<守人>としての道であると。
「そう考え実践する為、修行するのが草平衆なのです」
惨劇を阻止する為には、全ての国民がそれに備えるべきで。
「国内で争うなど、言語道断っ」
朱巻は息を吸い、自然と背筋が伸びた。
ここには金剛衆で見た顔もあり、首になった連中が多く流れていると、噂で聞いていた。彼自身、そうした<守人>の一人であり、ここへ来たのは、簡単に雇ってもらえそうだからだった。
「 」
だが、目が覚めた。
朱巻は、ここで自分をもう一度鍛え直そうと、決心していた。




