白狼 三
哭腑衆内で四月十二日暴動を検証する雲丘達。しかし彼らの<影梁>の能力をもってしても、名家の奥を覗く事はできなかった。そんな中、国を揺るがす一大事が起こる!
人物紹介
一之谷伍政:哭腑衆の<影梁>。
園野覚知:哭腑衆の<守人>。
雲丘貴善:哭腑衆の<墓守>。
鈴木敬:哭腑衆の<墓守>。
原井円生:元公安大臣。
万邦芳孝:元草平衆の<守人>。
用語
火繰家:陽の国の名家。
金剛衆:火繰家専属の衆。
レイヤー:眼鏡型の情報端末。
「火繰家は基本無実ですね、結果として金剛衆の試し斬りにはなったようですけど、何人か首になりましたし」
前髪の長い、たれ目に銀のレイヤー、神経質そうで全体的に線の細い男が。
「じゃあ誰なんだ? 一之谷」
髪を刈上げ、細い目にはレイヤーをかけ高い鼻、しっかりと大きな口に、短く顎鬚の逞しい青年、園野が尋ねる。
縦に細い窓に囲われた、扇形の変則的な部屋にて。まだ上がりきらない太陽の下、いくつか開けられた窓から吹く風は、動いた後の身体には心地良いものだった。
机に腰掛ける一之谷と、椅子に座る園野、大きく傾けた椅子には、長い黒髪に白い肌整い鋭い顔つき、目の周りが赤い、雲丘。そして壁際に仁王立ちしている、長身で体格良く、精悍な顔立ちに、灰色の瞳と短くしなやかな黒髪の、鈴木。
「原井円生と万邦芳孝ですね」
「誰だ?」
鈴木が。原井円生は元公安大臣として分かるが、もう一方は。
「まあ知らないと思いますよ、世に出た人じゃないので」
知ってるとしたら、と言いながら雲丘を見て。
「彼だけでしょうね」
「え、知らないよ?」
即答する雲丘。
一之谷がレイヤーを操作すると、鈴木が立っている横の壁に、写真が映し出された。
「本当に知らない」
不思議な顔して雲丘。
「万邦芳孝二十三歳、草平衆の<守人>です」
あー……、と雲丘、園野が揃って、眉間にしわを寄せながら合点がいった風に。
「腹いせのデモだという事か?」
「いえいえ違います鈴木さん、彼等がやったのは暴動の方です」
直ぐに気づいて園野が割って入る。
「腹いせったって、まだ政権に残ってるだろう、それはおかしいんじゃねえか?」
「でも暴動側に多数の警察OBがいたのは事実ですよ」
レイヤーを操作して写真を消す。
「まあ何でもいいか、僕達の活躍はちょっとは知れ渡ったし、目的は達成できたし」
行儀悪く、斜めになった椅子でゆらゆらしながら雲丘。
「一之谷、結局誰がデモを計画したんだ?」
「分からなかったです」
即答に、眉毛が互い違いの高さになる鈴木。
表向きは勿論、新改革派が起こしたものだが、何故この時期だったのか、調べる程分からなくなったと一之谷。
「調べ方が足りないんじゃなくて?」
園野の言葉には肩をすくめて。
「まあ、自分の勘ですけど、これ以上調べても分からないと思いますよ、これは家が関わってますね」
「! 名家か、どこの……、いや、それが分からないから、か」
鈴木が、一之谷の言わんとしている内容を理解して。
だが同じ名家の火繰家は調べられるんだから、そっちも調べられるだろう、と園野に。
「本気で隠されたらどれも無理ですよ」
「なる程、まとめよう」
そう言って鈴木。
新改革派デモを計画したのは、正体不明だが名家であろう、それを暴動に変えたのは、おそらく原井円生であると、そして。
「火繰家は今回は何ら益を得ていない、でいいか?」
その最後の言葉に雲丘が。
「今回の騒動を鎮圧したのは金剛衆って事になってるから、それって益なんじゃない?」
との突っ込みに、続けて一之谷が。
「その金剛衆が、人員削減をしたようですよ」
それって何でだ? と誰に言うでもない園野に。
「使えないのを放出、ってとこだね」
雲丘が答えた。
「んじゃまた草平衆が増えるんじゃねえの」
園野は、適当に思いついた事を言っただけだが、鈴木は。
「なる程、一勢力になり得るかもしれん……」
この懸念は、後に現実として、彼らの前に立ちはだかる事になる。
「あぁ、それとついで事が一点」
思い出したように一之谷が続けて。
「外国籍の軍船が、陽の内海から領海侵犯したそうですよ」
全く、ついで感覚どころではない、一大事だった。




