火繰家伝 四
四月十二日暴動を終えて、火繰家の金剛衆について確認をする河智聖子達。三目家への対応や、政権に関する策謀を果断なく進めていく。
登場人物
三岡芳蔵:火繰家の金銭的参謀。
河智聖子:火繰家の当主。
知野陽音:火繰家の政略参謀。
用語
太京:陽の国の首都。
山都:陽の国の古い首都。
レイヤー:眼鏡型の情報端末。
「思ったより、かかりましたね」
面長で矢印のような鼻の三岡が、自分の顔に対しては、大きめのレイヤーを操作しつつ言った。
半分、庭へせり出す形の大きな部屋は、豪華なテーブルと椅子を見るに、大勢が揃って食事する晩餐会用とも思え、その広い場所に三人、河智聖子、知野陽音、そして三岡芳蔵だけがいた。
首都太京より、西へ四百六十キロに位置する山都。その山都にて、最も広大な土地を所有している火繰家の敷地内。
空は快晴だが、まだ薄い空色の季節だった。
「今年分は足りますか?」
揃えた前髪と後ろに黒い長髪で、美しく鋭い赤茶色の瞳に赤いレイヤーの河智が、外庭に半分身体を向ける形で座りながら尋ねる。
それは大丈夫ですが……、と含みを持たせた物言いに。
「何か懸念点でも?」
河智より、内側の席に座っている知野が。
すると全員のレイヤーに、今回、火繰家の金剛衆が活動した際にかかった、金額の詳細が棒グラフで表示された。
「ここで表示した経費とは、各<守人>への給料なのですが」
続けてそのグラフに、今回の個人鎮圧成果を重ねると。
「随分と偏りがあります、全員抱え込むのは得策ではないですね」
と二人に対面している三岡。
そのグラフの中に、秦巻薫の名前をすばやく確認して河智が。
「分かりました、効率重視で行きましょう、平均の給料相場は幾らですか? それ以下の働きは切って構いません、三岡さんにお任せします」
分かりましたと即答する三岡、続けて。
「それと例の三目家の件ですが」
月帝家の塩永敬善と、一回目の情報交換を行いました。
「ご苦労様です、それで何と?」
「こちらの考えに同意の様子でした、ただ」
「ただ?」
促す河智。
「行動する事に関して、一切関知しないという態度でした」
河智は思わず目を大きくした。同意は簡単に得られるだろうと、これは予想通りだったが、何の協力もしないというのだ。
「……」
自分の鼻に右人差し指を当てて、しばしば考える河智。
政権内での出来事である。これで火繰家だけが動けば、その分、こちらの権力基盤を強化できる事になるのだ。その恐れがあるのに、月帝家はそれで構わないと認めた事になる。
「考えますに、月帝家は手がいっぱいなのではないかと」
知野が言う。
この後に控えている、次期王への対処に全力を挙げているのではないかと。
何故なら、月帝家は多く王を輩出しているが、藍河代王、須々木王と続けて違う系統より王が出てしまっている。そして次期王候補の那美樫奉斎にしても、月帝家とは関わりのない人物なのだ。
細かな権力増強より、次期王を自家から出すか、それが無理なら取り入る為に。
「今は全力を注いでいるのかと」
「なる程」
知野の説明に、納得する河智と三岡。そしてすぐに。
「では火繰家のみで行いましょう、後々問題にならないよう、月帝家の言質を取っておいてください」
それは私の方でやっておきましょうと、三岡が請け負った。
となると後は制裁の内容だが、さてどうするか、それが問題だ。強く出すぎれば、お互い衆同士の争いになりかねない。そうなれば、今回の暴動どころでは済まなくなる。かといって。
「こちらが制裁を行ったとして、三目家はひくでしょうか?」
「引かないでしょう」
鼻に人差し指を当てた河智の質問に、知野が答え、それに頷いて同意する三岡。
では警告は意味を成さないばかりか、相手を反発させるだけだろう。
「時代が時代でしたら、相手の末端情報員でも刈り取れば、こちらの意図も伝わるでしょうけど」
と会話の途切れに入って、三岡が適当に話す。が、知野はそれも結局、警告でしかなく、制裁にはならないと考えるが、そうは口に出さず。
「そうですね……一つ、提案がございます」
と。
「どのような?」
「東亜藍潮計画についての会議を開くのです、そしてその場に三目家を招待しない、というものです」
「あぁ、なる程」
思わず、口をついて出た河智。口を抑えて。
それならば三目家に実害を与えられるし、火繰家が主導的に動ける。そう理解。
「ではそれでいきましょう、各関係者との日程調整を、大変かと思いますがよろしくお願いします」
はい、と知野が一礼。
「特に、代王派との調整を慎重にお願い致します」
河智の注意など、知野であれば云われずともだが。
「はい」
一礼する知野。日々頼もしく成られるご当主であると。
しかし知野は、敢えて、言わなかった事があった。懸念しているであろう、衆同士の争いについて。事が過激化すれば、必ず、そうなるであろうと。
そうさせない為には……。




