国中起盛 五
四月十二日暴動と呼ばれる事になる事件を受けて、大臣達が王道派の権力拡充を狙う。一人代王派の森國男総務大臣はそれの阻止をあきらめるも、ひとつの切欠を作ってしまう。それが後の改革につながるとも知らず――。
人物
佐復紘一:王道派。外務大臣。
小能中御池:王道派。公安大臣。
森國男:代王派。総務大臣。
野本信士:王道派。財務大臣。
須々木王:陽の国の王。
那美樫奉斎:次期王候補の一人。
石和希具視:権力者を渡り歩く策謀家。
藍河宗玄:陽の国の代王。
用語
青千院:太京にある政治の中心地。
円黄議会場:青千院の中の会議室。
火繰家:王道派の名家。
青警察:重武装した治安部隊。
赤警察:捜査調査を担当する警察。
「どうやらこれで、全て鎮圧、という事でいいですかね」
それぞれのレイヤーに映し出された映像は、街に騒乱の傷痕が生々しかった。
青千院でもっとも使われる場所の一つ、円黄議会場。その名の通り円形で、丸く中央に穴の空いたテーブルと二十二の椅子、その内四席だけが埋まり、それを囲うように一段高い席がある、天井の高い窓のない会議室内。
穏やかで笑ったような細い目の、佐復外務大臣が誰となしにそう言った。
「自分のレイヤー上には残り四ヶ所を除いて、全て鎮圧の報告がきています」
前髪を細く分けて、両側は刈り上げた、たれ目の男が佐復外務大臣に。
彼らの他には森総務大臣、野本財務大臣がおり、高い外側の席には須々木王と那美樫奉斎が座っていた。
「大臣になって日もまだ浅いのに、大した初手柄だよ、小能中公安大臣」
たれ目の男に、森総務大臣がそう言って褒めた。しかし。
「思いの外被害が大きい、新年度早々、過度に予算を食いかねん、そもそもこうなる前に……いや、んん、失礼、そういう場ではなかった」
野本財務大臣の失言に、口の端を釣り上げて見せる森総務大臣。
「そうですね、まずは鎮圧できたという認識でいいですね、この事実を踏まえて」
今後の治安に関する方針について、一定の方向性を。
「この会議で決めていきたいと思います」
すると早速、野本財務大臣が先程の失言もあってか、それを取り繕うというわけでもなかろうが。
「殊治安となると、人員の拡充や装備の追加等、予算を消費する方向に」
話がいきがちになる、先ずは現状の見直し工夫から。
「進めてもらいたい」
と至極まっとうな意見から、会議は始まった。
そういう事であればと、佐復外務大臣が。
「小能中公安大臣の、権限のあり方について考えてはいかがかと思いますが」
しかし直ぐに森総務大臣が反応して、切り返す。
「安易な権限拡大は、平時でのバランスを崩しかねない、慎重になるべきだ」
ただでさえ公安大臣の権限は強すぎる。
「しかし今回の件を見るに、治安維持の簡易権限が功を奏したと、みるべきではないかね」
野本財務大臣の口調は、顎を上げてやや甲高い声だった。失言時のやり返し。
「では、それを踏まえた上で、慎重になるべきだ」
森総務大臣は、この中で唯一の代王派である。小能中公安大臣が噂通り、火繰家と繋がっているとすれば、彼の功績、権力は火繰家の、ひいては王道派の強化に繋がってしまう。
あまり安易なのもな……。
だがそれとは別に、石和希という男から藍河代王からであると、奇妙な内容の依頼を受けていた。
「私も、安易という点については同意ですが、今一度、見直すという事であればそれ自体に、反対をするといった類のものではありませんね」
と佐復外務大臣。
「……」
この流れに、どうやら小能中公安大臣の権限拡大は、決定事項だと理解した森総務大臣。であればもう一つ、奇妙な依頼の方を済ましてしまおうと、今の議題については早々に諦めた。
佐復外務大臣が小能中公安大臣を見ると、彼が一呼吸、咳ばらいをして。
「調べましたところによりますと、公安大臣の権限には、かつて、停止されたものがあると知りました」
それは通称、事前治安維持権と呼ばれるもので、今回のように、事が起きてからではなく、その前に青警察、赤警察の大量動員、市民生活の制限等を公安大臣の権限で、短時間のみ発令できる権利である。
小能中公安大臣の、いかにも一生懸命暗記してきた感じはいい加減しらけるが、元々あった権利の一つである。森総務大臣が反対しないのであれば、だれも異論はなかった。
「あくまで、王の裁可が降りたうえでの権利付与ではあるが」
野本財務大臣は誰に対しても厳しい。
「須々木王、いかがでしょう、何か意見はありますでしょうか?」
不意に森総務大臣が、一段高い外周席に座る須々木王へ振った。白々しいやり取りだと、野本財務大臣は目を細める。
「ん、皆ご苦労様です、通称事前治安維持権ですが、その行使の責任は私も負うものです、過度な心配は必要ないでしょう」
この方向でお願い致します、と須々木王は言い、座ったまま各大臣が礼をする。
これこそ、森総務大臣が受けた奇妙な依頼だった。この発言が、後に政治体制の大変革に繋がろうとは、この時は誰も、気づく事はなかった。いや、発言の内容に問題があったのではない。発言したその事が、問題になるのだった。




