白若竹 九
暴動に変わるデモの様子を見に来ていた陽。この国でこんな、人が死ぬような暴動が起こるなんて思いもせず困惑し、近く起こると噂される内乱に心が乱れる!
登場人物
赤実陽:風間家の<影梁>。
用語
レイヤー:眼鏡型の情報端末。
<守人>:近接戦闘職者。
青警察:重武装した治安部隊。
電足帯:電磁式の移動補助具。
「こんなところでも」
猫のような丸い顔、長い黒髪と白い肌、濃いまつ毛に瞳にはレイヤーと、尖った鼻先に小さく濃い色の唇、陽。
日が傾き延びたとはいえ、急激に夕暮れに変わっていく風景の中、ビルの外階段から暴動となったデモの残骸を見ていた。
陽はもっと太京駅近くへ見に行くつもりだったが、思いの外あちこちで行われているようで、湾岸近くの、大きな公園から始まったデモの場所に来ていた。
レイヤーによれば、ここのデモは小規模で百名前後、そこへ五十人近い暴徒が発生したというから、今も目の前でデモ隊の欠片が、どうにか逃げようと右往左往しているようだった。
「酷い」
青警察が少数でどうにか、暴動の流れを外側へ変えようとしているが。
「十人もいない」
為に、作ったバリケード毎押されているよう。
「いけないよ」
眉間に皴を寄せて陽、どちらへ流れているのか、暴動を見極め、せめてデモ隊だけでも誘導しようと思った、その矢先。
「 ! <守人>衆っ」
レイヤー上には四人、いや、五人。
彼等は瞬く間に暴徒達を追い散らしていく。その流れたるや、誰が見ても見事という他なかったであろう巧さ。
「凄い……」
感嘆するしかない陽。単に追い散らすのではなく、圧されていた青警察にも勢いが戻るように、そして実際青警察も秩序を取り戻し、相乗的に暴徒が刈り取られていく。
「……」
陽は初めて、<守人>衆としての行動を見た。個人が強いという<守人>なら、いくらでも見てきたが。
「これが衆……」
そして。
「あ」
その<守人>衆の中でも、とびぬけて凄まじい、長髪、の男だろうか、が目に付いた。
あれがひょっとして、邇邇だろうか? いや、邇邇は衆に属さないみたいだから、あれは違うのか。だとしたらどの位、どっちが……。
「うわっ!」
爆発音!
公園沿いの大通りで炎が上がった。周囲がたちまち恐怖の叫び声に染まっていく。
「何て事を……!」
振動は、陽の身体を貫く程の衝撃だった。
「っ」
電足帯を起動し、レイヤーを顔に密着させ、一気に階段を滑り降りる。地上で一気に駆け抜けるつもりが、逃げ惑う人の波にのまれ、進みが遅くなる。そしてまた。
爆破音!
暴徒なんかじゃない!
これは完全に意図的な行動で、破壊活動だと、陽は理解した。一気に公園に入り、突っ切って反対側を目指す。
「わっ」
陽の手前、逃げ惑う人の中へ、爆発で吹き飛んだ何かの破片が、鈍い音を立てて落下した。
素早く上空周囲を確認、他の飛来物を警戒する。
「ない」
それだけ分かると、減りつつある人波の中、飛来物が落ちた場所を見て。
「ああ……」
破片の下から、手。
「 」
破片をどかす。
助けられなかった。その陽と同じくらい肌の白い人の首は、あらぬ方向に曲がっており、レイヤーが判定するまでもなく。
死んでる……。
綺麗な、顔のまま。
「こんな」
この国で、こんな事が起きるなんて、陽は思ってもみなかった。
福児は言っていた、もう直ぐ内乱が起きるって。そうなれば、こんな事が、もっとひどい事が起きちゃう。<守人>同士であれば、そもそも戦う事が職業だし、そこで起きる事はお互い承知の上だ。だからやられれば、悔しいと思いこそすれ、酷いだの恨みだのは、感じた事もなかったが、無関係の人が巻き込まれる事に、こんな感情が高ぶるなんて、思いもしなかった。
夕暮れの空に、立ち上る煙。
公園反対側の道に出て、暴徒の追われた先を覗くと、既に青警察の護送車に、何名か捉えられているようで、その騒ぎも、急速に鎮静化へ向かっていた。
「……」
今起きていた騒動が、驚く程あっけなくしぼんでいく。陽は両肩が重くなったような、眉間の中に平たい重りを埋め込まれたような、嫌な倦怠感を感じていた。
「ふぅ」
電足帯の電源を切り、レイヤーを戻す。
「はあっ」
上を向いてため息、何度か漏れて。
戻ろう。
何をする気力も失っていた。再び公園を横切り。
「……あれ?」
脳が、その現実についていけず、停止した。
「破片」
口が勝手に事実確認。どかした脇には、死体が。
「無い」
その自分の声に、思考が再起動して、ようやく認識。
「えっ死体が無い」
口に出す。ええっ!? と周囲を見渡すが、勿論、誰もいない。
誰かが運んだ?
対デモ用に備えていた救急隊員は、まだ公園の外で爆発地点周辺で手一杯のよう、こちらに来る余裕はない。
「 」
逢魔が時。




