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陽国史 一  作者: いちのはじめ
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白若竹 九

 暴動に変わるデモの様子を見に来ていたひざし。この国でこんな、人が死ぬような暴動が起こるなんて思いもせず困惑し、近く起こると噂される内乱に心が乱れる!


登場人物

 赤実陽あかみひざし風間かざま家の<影梁かげはり>。


用語

 レイヤー:眼鏡型の情報端末。

 <守人もりと>:近接戦闘職者。

 青警察:重武装した治安部隊。

 電足帯でんそくたい:電磁式の移動補助具。

 「こんなところでも」

 猫のような丸い顔、長い黒髪と白い肌、濃いまつ毛に瞳にはレイヤーと、尖った鼻先に小さく濃い色の唇、ひざし

 日が傾き延びたとはいえ、急激に夕暮れに変わっていく風景の中、ビルの外階段から暴動となったデモの残骸を見ていた。

 陽はもっと太京駅近くへ見に行くつもりだったが、思いの外あちこちで行われているようで、湾岸近くの、大きな公園から始まったデモの場所に来ていた。

 レイヤーによれば、ここのデモは小規模で百名前後、そこへ五十人近い暴徒が発生したというから、今も目の前でデモ隊の欠片が、どうにか逃げようと右往左往しているようだった。

 「酷い」

 青警察が少数でどうにか、暴動の流れを外側へ変えようとしているが。

 「十人もいない」

 為に、作ったバリケード毎押されているよう。

 「いけないよ」

 眉間に皴を寄せてひざし、どちらへ流れているのか、暴動を見極め、せめてデモ隊だけでも誘導しようと思った、その矢先。

 「 ! <守人もりと>衆っ」

 レイヤー上には四人、いや、五人。

 彼等は瞬く間に暴徒達を追い散らしていく。その流れたるや、誰が見ても見事という他なかったであろう巧さ。

 「凄い……」

 感嘆するしかないひざし。単に追い散らすのではなく、圧されていた青警察にも勢いが戻るように、そして実際青警察も秩序を取り戻し、相乗的に暴徒が刈り取られていく。

 「……」

 ひざしは初めて、<守人もりと>衆としての行動を見た。個人が強いという<守人もりと>なら、いくらでも見てきたが。

 「これが衆……」

 そして。

 「あ」

 その<守人もりと>衆の中でも、とびぬけて凄まじい、長髪、の男だろうか、が目に付いた。

 あれがひょっとして、邇邇ににだろうか? いや、邇邇にには衆に属さないみたいだから、あれは違うのか。だとしたらどの位、どっちが……。

 「うわっ!」

 爆発音!

 公園沿いの大通りで炎が上がった。周囲がたちまち恐怖の叫び声に染まっていく。

 「何て事を……!」

 振動は、ひざしの身体を貫く程の衝撃だった。

 「っ」

 電足帯を起動し、レイヤーを顔に密着させ、一気に階段を滑り降りる。地上で一気に駆け抜けるつもりが、逃げ惑う人の波にのまれ、進みが遅くなる。そしてまた。

 爆破音!

 暴徒なんかじゃない!

 これは完全に意図的な行動で、破壊活動だと、ひざしは理解した。一気に公園に入り、突っ切って反対側を目指す。

 「わっ」

 ひざしの手前、逃げ惑う人の中へ、爆発で吹き飛んだ何かの破片が、鈍い音を立てて落下した。

 素早く上空周囲を確認、他の飛来物を警戒する。

 「ない」

 それだけ分かると、減りつつある人波の中、飛来物が落ちた場所を見て。

 「ああ……」

 破片の下から、手。

 「 」

 破片をどかす。

 助けられなかった。そのひざしと同じくらい肌の白い人の首は、あらぬ方向に曲がっており、レイヤーが判定するまでもなく。

 死んでる……。

 綺麗な、顔のまま。

 「こんな」

 この国で、こんな事が起きるなんて、ひざしは思ってもみなかった。

 福児ふくじは言っていた、もう直ぐ内乱が起きるって。そうなれば、こんな事が、もっとひどい事が起きちゃう。<守人もりと>同士であれば、そもそも戦う事が職業だし、そこで起きる事はお互い承知の上だ。だからやられれば、悔しいと思いこそすれ、酷いだの恨みだのは、感じた事もなかったが、無関係の人が巻き込まれる事に、こんな感情が高ぶるなんて、思いもしなかった。

 夕暮れの空に、立ち上る煙。

 公園反対側の道に出て、暴徒の追われた先を覗くと、既に青警察の護送車に、何名か捉えられているようで、その騒ぎも、急速に鎮静化へ向かっていた。

 「……」

 今起きていた騒動が、驚く程あっけなくしぼんでいく。ひざしは両肩が重くなったような、眉間の中に平たい重りを埋め込まれたような、嫌な倦怠感を感じていた。

 「ふぅ」

 電足帯の電源を切り、レイヤーを戻す。

 「はあっ」

 上を向いてため息、何度か漏れて。

 戻ろう。

 何をする気力も失っていた。再び公園を横切り。

 「……あれ?」

 脳が、その現実についていけず、停止した。

 「破片」

 口が勝手に事実確認。どかした脇には、死体が。

 「無い」

 その自分の声に、思考が再起動して、ようやく認識。

 「えっ死体が無い」

 口に出す。ええっ!? と周囲を見渡すが、勿論、誰もいない。

 誰かが運んだ?

 対デモ用に備えていた救急隊員は、まだ公園の外で爆発地点周辺で手一杯のよう、こちらに来る余裕はない。

 「 」

 逢魔が時。

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