国中起盛 四
暴動へと変わるデモを観て危機感を募らせる須々木王。対照的にそれを冷静に判断していた次期王候補の那美樫奉斎。須々木王は自分の中の権威が徐々に弱くなる不安を感じていた……。
人物紹介
須々木王:陽の国の王。
那美樫奉斎:須々木王が推薦する時期王候補。
南代香北:麻金皇王の側男。
「治安簡易権を出したな」
一般に、治安維持の簡易権限と呼ばれる、『治安維持を行う為の短期的権限付与に関する法令』が出され、モニターの向こう側で、<守人>衆が暴徒を鎮圧している様が映し出されていた。
それを座って観ている、四角く平面的な顔にしっかりとした眉と優しく細い瞳、鼻筋はまっすぐで大きな口の、須々木王。
黒鳥の間と呼ばれる青千院の一角にて。そこは横に広く、素朴だが洗練された古木で作られた執務机が一つと、向かいの壁一面ガラス窓の外には牡丹、ベージュ一色の大きな絨毯に、机左手の壁に掛けられた絵には、黒い鳥。
右側の壁に映し出された映像を観て、須々木王は状況が一段階進んだ事を知ったのだった。
「予想以上に被害が大きくなりそうだ」
強めの口調で須々木王が。それに反応して。
「暴徒として動いている<守人>衆はいないようですし、鎮圧は時間の問題でしょう」
綺麗に七三分けの灰色がかった短髪で、横にまっすぐと四角い目に濃く深い藍色の瞳にレイヤー、輪郭のしっかりした顎にやや厚めの唇の男が、須々木王の横に立ってそう言った。
「那美樫君、起きた被害は消えないのだよ」
須々木王はこの時期での暴動が、必ずしも自分の利益になるとは思えなかったのだ。政権への支持率が、これによってどう変わっていくか、予断を許さない状況だと。
「しかし、万事うまく抑え、暴動が新改革派によるものだと、その様にお伝えできれば、事実そうなのですから」
那美樫が言う。
確かに彼の言う通りなのだが、須々木王の本心は政権ではなく、自分自身の評価にあるのだった。
那美樫は須々木王自身が決めた次期王候補で、その能力には問題はない。だが須々木自身の影響力を、強く残しておく為には、終わり間際であるこの時期に、世間的にマイナスの印象が起きる事は、決して有利にはならないだろうと。
「……会見用の草案準備を」
言われてレイヤー伝いに連絡をする那美樫。早期に解決した場合、やや長引いた場合、そして長期化した三段階で依頼、合わせて関連大臣へ、その動きを伝える事も忘れない。
「次の大臣会議は?」
「森総務大臣、野本財務大臣、佐復外務大臣、小能中公安大臣による、治安に関する会議が十八時に予定しております」
出席なさいますかの問いかけに、直ぐ頷こうとして、はたと止まる須々木王。
「王を各会議へ出られるようにと、進言したのは」
「南代香北、皇王陛下の側男、ですな」
つい先日、皇王陛下より意見書として出された、王の議事進行への関わり、という内容についてである。
王は、会議や議会を開く命令、採用、拒否権を持っていたが、そこに直接関わる権利は持っていなかった。
今回、それを皇王陛下の意見により、参加できるようにとの働きかけであり、王道派は味方を得るも同然なので賛成、代王派は、直接自分達の意見を伝えられるとして賛成、新改革派に至っては、直接糾弾できるとして賛成、となった青千院内条例である。
「ふぅ……」
須々木王のため息に、何か問題でも、と那美樫。
これ自体に問題はない。自分の影響力が強まるのだから、賛成したし、だからこそこの短期間で決まったのだ。だが。
「あの男……」
南代香北という男、あの時の<穴追い>だった男が、如何に美しい見た目だったとして、こうも簡単に側男になれるだろうか。あの時感じたような気がした、違和感、あれは気のせいではなかったのかもしれない。
「所詮は側男です、それ程気にする事もないかと」
「そうれはそうだが」
映像を消して須々木王。
「君に無事王位を継いでもらうまでは、些細な事であっても注意すべきだ、互いにな」
「はっ」
目の覚めるような敬礼をした那美樫。
その側男が自分達に立ちはだかるとは、夢にも思っていなかった。




