カミツレ 一
広大な港を守る三人の<守人>。侵入者の気配を捉え、排除にかかる。
登場人物
並比良和司:三人いる<守人>の主任。
若智覚:一番若い<守人>。
秦巻薫:モデルのような<守人>。
用語
レイヤー:眼鏡型の情報端末。
<影梁>:諜報活動に秀でた者、もしくはそれを職業としている者。
<守人>:近接戦闘職者。
「侵入者だな」
少し早口で言うと、夜の工事現場を見下ろしていた窓から離れた。すると窓が、薄い水の膜に覆われるようにして閉まっていく。
その男は、少し長い黒髪を後ろで束ねられるくらいで、まつ毛は濃く綺麗な楕円の瞳は黒、シャープで角ばった輪郭に硬そうな鼻。眼鏡をかけている所為か、全体として落ち着いた印象であった。左腰には少し細く長い剣を下げ、首をぴたりと白い服が覆い、濃い緑色のジャケットに灰色のパンツに茶色のブーツ姿。名前は。
「遂に来ましたか、並比良さん」
そう返した男は、机の上に浮かび上がった島全体のホログラムを見渡す。並比良という男より更に若く見え、短く逆立てた黒髪に細身の顔、特徴的なたれ目の瞳は茶色く、下に突き出るような鼻先と小さくへの字に曲がった唇。明るい色のジャケットを腕のところで絞り、足もまたベルトで絞られ動きやすさを重視した格好で、彼の左腰にも剣が下げられている。
「確実にいるぞ若智」
すると反対側の棚でお茶を入れていた、小さい顔は、目にかかるくらいの前髪と左でまとめた黒い髪に、丸く薄青い瞳と高い鼻はモデルのようで、それに似あう身体にそった服は彩度の低い青色の男が。
「いよいよ破壊工作に乗り出してきた、という事ですね」
腰に二本剣をさしている、彼。
「そうだ、秦巻」
二人ともレイヤーを、と並比良の言葉に眼鏡を取り出してかけると、彼から情報を受けて、レイヤー越しに赤い点が幾つかホログラム上に記された。
並比良は右掌を中指でなぞると、ホログラムの一部が拡大する。
「これは侵入者の形跡があった場所だ」
それは人工島の端から中へ向かって四つ程。
「続いているわけじゃないですね?」
記しが飛び飛びになっている事から、侵入者をうまく追跡できていない、即ち侵入者は手練れではないかと、暗にそう言ってみた秦巻の言葉に続いて。
「この感じ、<影梁>、ですかね?」
そうした事に長けている者といえば、<影梁>だと若智が思うのは当然だった。
「そうだ」
並比良が断定する。
「既に」
警備主任にはそれを通達済みで。
「恐らく、目的も判明している」
だだっ広いこの人工島のどこを破壊するのか、見当がつくものだろうか、二人がホログラム越しに並比良を見返す。
「工事現場監督が言うには」
今最も妨害さ入れたくない箇所は、船の接岸部にあるクレーンの基礎で、そこを壊されると工期が必ずずれてしまうからと。
「なるほど、ね」
腕を組んで若智がしたり顔。
「しかし島のほぼ全周囲がその対象になります、ちょっと広いですね」
地域最大規模の港を造るというのだから、大規模で広大になってしまう。それを心配しての秦巻。だが警備員の数は多いし。
「俺等<守人>が三人もいれば十分だろ?」
一歳しか違わないが一番若い若智は、自信たっぷりに言った。
「この手の妨害は、今から二十三時までの三時間に最も多く行われるというデータもある、直ぐに巡回行動を……!?」
突如鳴り響く警報音。間髪入れず、三人は素早く外へ飛び出していった。