三目家伝 五
新改革派のデモは暴動となった。風間福児はデモの首魁は光芽守靖とみたが、では暴動の首謀者は? 恐るべき解析力でそれを暴く竹野中竜兵衛。そして暴動を鎮圧すべく動き出した各<守人>衆。そして陽は暴動の現場へと向かう。
人物紹介
赤実陽:風間家の<影梁>。
風間福児:風間家の当主。
竹野中竜兵衛:風間家の参謀。
光芽守靖:三目家の当主。
原井円生:前公安大臣。
須々木王:陽の国の王。
藍河宗玄:陽の国の代王。
南代香北:麻金皇王の側男。
石和希具視:南代香北の後継人。
用語
時事情報局:日々の出来事を扱う情報放送局。
青警察:重武装した治安部隊。
赤警察:捜査調査を担当する警察。
王道派:須々木王が率いる派閥。
火繰家:古代より続く名家。
金剛衆:火繰家に仕える<守人>衆。
側男:性的に仕える男性。
「あぁ、酷い」
お店は関係ないのに、と猫のような丸い顔、長い黒髪と白い肌、濃いまつ毛に赤い瞳と目の周囲、尖った鼻先に小さく濃い色の唇の陽。
その横で二人。
「取り入ったか……」
短い清潔感のある黒髪に、優しいながらもどこか冷たく感じる瞳は黒で、細身の顔の福児と。
「光芽守靖様が森総務大臣とお会いした際に、大臣が新改革派に対する不満を漏らしたとの事」
血色悪い肌に、薄茶色い短髪、隙間の大きい二重で瞳の色は灰色、細い鼻と色の薄い唇の竹野中、風間の後ろ脇から説明する。
立派な椅子に座った風間は、右人差し指を額に当て何やら考え込み、その足元にちょこんと座っている陽。
長方形の居間で、クリーム色の絨毯にこげ茶色の家具、壁は薄い灰色で落ち着いた色調の部屋で、大きな窓の外にはアザレア。
壁に時事情報局の映像が映しだされて、それを三人で観ているのだが、本日行うとされていた平和的デモは、そのカメラの目の前で暴動へと変わり、それは時間を追って過激化しているようだった。
「これを、守靖がやったのか……?」
風間の質問に竹野中は、新改革派のデモを画策したようですが、暴動は別の思惑のようです、と。
「別?」
続きを促す風間の下で、陽が映像に一々反応している。
「暴徒の中に、元青警察、赤警察の者を複数名確認しております」
「……じゃあ、原井、か? 意趣返しか?」
はたと気づいて、風間が質問する。
そう、元公安大臣の原井は、辰港の件で王道派に恨みを持っている。またその立場から警察OBを動員する事は容易いだろうと。だが。
「ここまでの暴動を望んでいたとは思えません」
風間の耳もと、報道を観ながら竹野中。
その通りだろう。原井は大臣を辞職させられてはいるが、今も政権側の人間なのだ。起きた暴動が短期で鎮圧できなければ、評価が下がる側にいる。
「誰も望んでいない暴動、か」
眉間に皴を寄せて風間。だが直ぐに。
「望むとすれば、火繰家かと」
竹野中が。その言葉に疑問の風間が、火繰家だって政権側だろう? と。
「火繰家の金剛衆が、多く<守人>を集めておりますれば、その試しと鎮圧による政権への影響力強化が考えられます」
なる程、火繰家は、何もしなかった、だけか。
物事には必ずそれで得する人間がいる。起そうとする事で得する者、起きた事で得する者、終わった事で得する者と。
「福児、きちんと政府がやってたら、こんな事にはならなかったんじゃない?」
口調の強い陽の声に、額に当てた人差し指を離して、足元の彼の頭へ。
関係ない人達まで巻き込まれて、酷いと、陽は憤っているのだ。
「陽、政治は安定が必須だよ、けど人の不満は、食べれる事、働ける事、遊べる事、この三つが揃っていれば、多少の不満なんか問題にならないんだよ」
ちゃんと政治、がどういったものなのか、それに直接答えるのではなく、その根本を福児は説明したのだ。
「でも新改革派が云うように、現状がいいわけじゃないんでしょ?」
口を尖らした陽に、少し笑って福児が言う。
「陽、どんな事にも目的があるんだよ、そしてどんな事であっても、それで困る事は起こるんだよ」
「?」
撫でる手のひら越しに、福児を見上げる陽。
例えばお菓子を禁止する法ができたとしよう。すると反対派は、昔からあるものを禁止するのか、それを仕事にしている人達はどうするのかと、声を上げるだろう。でも、その目的が、健康を害するお菓子の禁止だとしたら? お菓子全体を禁止なんて、一言も言ってないとしたら?
「批判も文句もこの国では言う権利がある、ただ必ず、目的を確認する癖をつけておけば、それ程的外れな事にならずに済むだろうね」
それに、と福児は続ける。
政治体制も、結局単なるシステムでしかない。システムは上手くいくように考えるものだけど、失敗した時、それに対応できるようにしておく事が。
「何よりも大事なんだよ」
「……分かった、覚えとく」
応えた陽の頭を撫でる福児。
そのやり取りを、眉一つ動かさずに見ていた竹野中が、レイヤーで映し出されている映像を切り替えて。
「動きが変ったようです」
その言葉に、映像を観る風間と陽。
そこには、破壊した店等から引いていく暴徒の姿。すぐにそれと気づいて陽が声を。
「<守人>、衆だ」
映像の中で、明らかに動きの違う数人が、瞬く間に暴徒を追い散らしていく。それは。
「赤い」
揃いの、特徴的な赤い印を背中に背負った衆であった。
須々木王が。
「公安大臣に、治安維持の簡易権限を出す許可を与えたと聞いています」
それが下されたようです、と竹野中。
「陽、ちょっと見てくる」
勢い良く立ち上がってとび出していく陽に。
「陽っ」
福児が声をかけ、振り返る陽に人差し指を立てて。
「気を付けるんだよ」
「はあいっ」
嬉しそうに飛び出していった。
「 例の件、彼には伝えたのでしょうか?」
急に話を振られて、その内容に少し目を大きくした風間が。
「いや、まだ」
と答える。それに薄いため息だろうか、一呼吸して竹野中が。
「事態がいつ急変するかも分かりません、早めに伝えておくべきかと」
そうだねぇ、そうしておくよ、と気のない返事で切り抜ける風間が、続けて。
「藍河宗玄の方は? えー……南代香北か」
名前が直ぐに出てこなくて、右人差し指を額に当てた風間。
陽が色々調べた中で、どうやらこの男が代王派の次期王推薦候補ではないかと、風間はそう予測を立てていた。
竹野中が風間の前に回り。
「南代香北の政治的才能が、皇王陛下に認められていると聞きます。しかし」
側男になってから僅か一ヶ月程度です、急いだにしても信頼を得るには短すぎですし、政治的才能だけで。
「こうなるとは思えません」
言われてみれば確かに、しかし。
「後ろ盾があの藍河代王なら、さもありなん?」
すっと姿勢を正して竹野中。
「はい、これから申し上げる事は、それに関する推論となります」
うん、と座りなおす風間は楽しそうに、竹野中に向き合った。
「側男として仕えたのですから、そもそも政治手腕を期待されていたとは思えません」
そして僅かばかりの政治論を披露したところで、周囲より目立つ事はないでしょう。
「確かに、でもそれじゃあ南代は評価されないよな」
風間の言葉に頷き、続ける竹野中。
こうした場合、最も評価される為には。
「事実を言い当てる事に尽きます」
その通りと風間。
ここでいいます事実とは、未来をいい当てる事ではなく、言った内容を未来に起こす。
「事となります」
頷く風間に《かざま》。
「しかし側男には難しいでしょう」
「違うのか?」
藍河代王は、自ら次期王の名乗りを避ける程慎重な方です。積極的な行動は避けたいでしょう。
「確かに……」
そもそも皇王陛下に政治的才能を評価されたいなら、誰よりもまず適任者であり、それをわざわざ避けているのだから。
「じゃあ?」
「代王派と関係が薄く、実際に先を予見できる者がいる、という事です」
右人差し指を額に当てて、風間。
「石和希具視」
南代香北の単なる後継人ではなく、石和希具視こそ中身であり、南代香北は器でしかない。
「と、そう考えられます」
風間は首を椅子にもたれて、大きくため息。改めてこの竹野中の才能に驚嘆した。
微動だにしない竹野中。
不意に。
「体調の方はどうだ?」
一歩下がり一礼すると。
「お気遣いありがとうございます、問題ありません」
ひょいと立ち上がって風間。
「全くいくらでも予定外の事は起きるな、これからも頼む」
深く一礼する竹野中の表情は、一切変わらなかった。




