火繰家伝 三
木たるべき内戦に備え、<守人>を集める火繰家の河智聖子。そこへ知野陽音が一つの情報をもってきた。名家同士の争いが始まる!
登場人物
河智聖子:火繰家の当主。
知野陽音:火繰家の参謀。
用語
太京:陽の国の首都。
山都:陽の国の古都。
レイヤー:眼鏡型の情報端末。
<守人>:近接戦闘職者。
辰港事故:髙木に建設中の世界最大となる人口港で起きた事故。
青警察:重武装した治安部隊。
「どうぞ」
黒い前髪は切りそろえ、後ろに長く美しい真っ直ぐな艶やを流し、美しく鋭い赤茶色の瞳に、真っ直ぐな鼻と小さな唇の、河智聖子。
首都太京より、西へ四百六十キロに位置する山都。その山都にて、最も広大な土地を所有している火繰家。まるで敷地内が一つの街のようですらあった。
「かなり集まったようですね」
部屋に入って来た、細身、細い顔、薄い口に細い目、そしてレイヤーまで細い、知野陽音が言う。
河智がいるのは執務を行う建物、風送りの館二階にて。
壁に映し出される人の顔と個人情報を、座りながら次々と見ていく河智。
「ですが質の問題がございます」
知野が冷静に。
「そうですね、実力もそうですが、素行も重要ですね、……邇邇のような<墓守>とは言いませんけど」
息を吐きながら河智。レイヤーで、<守人>の情報を次々送り続ける。すると知野が。
「お望みでしたら、あたってみましょうか?」
手が止まり、知野へ振り向く河智。<守人>に疎い彼女ですら、邇邇の名前は知っているくらいで、しかも、どの家にも属さない人物であるとも。
「情報だけでも集めておくべきと考えます、味方とできないまでも、敵にしない方がよろしいかと」
そうね、その通りね、と答える河智のレイヤーに、新しい<守人>が登録された事を知らせる、アラームが鳴った。
振り返ると、そこに表示されていたのは、目にかかるくらいの前髪と、左でまとめた長い黒髪。丸い目の瞳は薄青く、高い鼻に厚い唇の顔立ちは少し幼く見えるが、小さな顔とその等身はモデルのような<守人>。
「あら」
その見栄えに、思わず声が漏れた河智。慌てて右手で口を抑えた。
眉間を少し険しくした知野が。
「この男は避けた方がよろしいかと」
「何故ですか?」
「辰港事故の当事者です」
「! ……そう、ですか」
河智の顔が、仕事のそれに切り替わった。
辰港事故が事件である事を知る、三人の内の一人、秦巻薫。知野が口止めを指示したが、きけば納得して従った訳ではないという。
「……何故、火繰家に来たと考えますか?」
表示された情報だけでは、この男の人となりまでは判断できない河智。しかし訊かれた知野も、その真意までは分からない。珍しく指を鼻にあて黙ったまま、先に河智が。
「テロ行為に及ぶつもり、でしょうか?」
と懸念するも。
「おそらくそれはないでしょう、陰の仕事を嫌うようですので」
「では大丈夫ですね、素行にも問題ないとなれば雇い入れましょう」
その素早い判断に、知野が懸念を示すが。
「真っ直ぐな若者であれば、こちらから尋ねればいいのです、きっと、真っ直ぐ答えてくれるでしょう」
「はい」
この人を見抜く力は、全く知野が感嘆するところであった。
レイヤーを操作して、河智が画面を消すと。
「それで、ご用件は何でしょうか?」
河智が改めて知野に向き直り、そう言うと。
「公安大臣の件ですが、小能中御池に決まりました」
このまま事前治安維持権の。
「停止解除を進めたいと思います」
よろしくお願いします、と丁寧に言う河智。
これはこの先起こるであろう、内戦をを想定した、火繰家の手の内の一つであった。事前治安維持権を公安大臣が出せるようになれば、王の命令を待たずに、武装させた青警察を大量動員できるのだ。
「……」
だが本当に、そんな事態が起こるのだろうか? <守人>を集めてはいるが、内乱なんて……。
頭を振る河智。願望と現状認識がごっちゃになっている事に気づいて。
と、その様子には特に触れず、知野が。
「それともう一つ報告がございます」
顔を上げる河智の目は、少し大きく見開き、小さく閉じた口と相まって、何というか、可愛らしかった。
「辰港事故前後の、三目家に関するものです」
河智の顔が、再び、仕事のそれに切り替わった。
三目家といえば火繰家と同じように、太古から続く名家の一つである。河智は立場上、一、二度、三目家当主と会っているはずだが、正直、全く顔が思い出せなかった。
「三目家が、何か?」
「国内に限らず、小規模な港の権利を延長、買い占めを行っておりました」
なる程、辰港事故の前から、三目家がそのような行動をしていた。
「という事なのですね」
明確に、そうです、と知野。
三目家も東亜藍潮計画には出資しているが、これ自体、今回の事件から目をそらす為の偽装という事も考えられるのだ。
「……それは良しとしましょう、既に手は打ったのですから」
誰が計画者であれ、それを出し抜く為に、早めの記者会見を行ったのだ。しかし。
「三目家に関しては、もう一つ」
知野が少し前かがみになり、口調を落として。
「どうやら森総務大臣と接触したようです」
「 」
河智の目が、すっと鋭く、赤茶色の瞳が色濃くなる。
「目的は不明です、権利なのか権力目的なのか、内容次第では、こちらの対応も厳しいものにする必要があります」
「構いません、直ちに対抗措置を取りましょう」
即答する河智に少し驚いて。
「よろしいのですか? 内容を確認してからでも、対応は可能と思われます」
「そのように疑われた時点で痛い目を見るという、教訓を与えるによい機会です」
「はっ、かしこまりました」
頭を下げつつ、知野は思う。世間は火繰家当主を知らぬばかり、これあるかな、我が主君、と。




