国中起盛 三
権力の中枢へとたどり着く石和希具視。麻金皇王の下へ付き、壮大な謀略を動かし始める! 二千年続く国の体制を、彼はどう変えていくのか!?
登場人物
麻金皇王:陽の国の皇王。
南代香北:麻金皇王の側男。
石和希具視:麻金皇王に近づく策謀家。
用語
レイヤー:眼鏡型の情報端末。
「石和希か、覚えている、朕に香北、そちを引き合わせた者だな」
どちらかと言えば色白で、黒というよりは灰色がかった髪を短く後ろで縛り上げており、鋭いが大きな瞳は薄い青で、目の周りが少し赤いだろうか。細身の顔つきに細い鼻と口に、細身でしかし華奢なだけではなく、絞られた無駄のない、麻金皇王。
「はい」
見た目の美しい、まつ毛は濃く長く、瞳は黒く大きくその周囲はうっすらと赤く、丸い顔は小さく色白で、どこかの令嬢と見まごうばかりの容姿の青年、香北。
政治の中枢である青千院より西に、十キロ程場所、広大な敷地をもつ静秦殿。皇王の居住地として整地され、あらゆる施設があるとされる。その一角にある麻金皇王の私邸、緑宮。そこからは、広く平坦な草地一面に、白詰草が咲いていた。
「 改革派が、原井公安大臣の辞職を、政権の責任逃れだと、 議会が停止に追い込まれています、 王道派、代王派もこのまま時間をかけ続ければ、対立が鮮明化するかと」
豪奢なベッドの上で、水のように艶やかなシーツを半身にかけて、香北。それに対し、巨木を切り出したテーブルに、度数の高い酒をグラスに注ぎつつ、ガウン一枚の麻金皇王が。
「なる程、良い、連れてまいれ、香北そなたの頼みだ、聴こう」
花水木のピンクだけが、窓一面に広がる会議室。素朴だが、考え、選び抜かれたテーブルと椅子、そして調度品が、どこか人を落ち着かせる。
その部屋の窓向かい、壁際下座に、レイヤーをかけた目に剣のある独特の表情を持ち、やや伸びているが髪は濃い灰色で、口元は常に薄く笑っているようで、決して第一印象が良いわけではない、少し小柄な男、石和希具視が立っていた。
「」
足音に気づいて、レイヤーを外し真っ直ぐ立つ。しかし癖なのか、右肩がやや上がり気味な事に、本人は気づいていなかった。
扉が開き、九十度、頭を下げる石和希。相手の足元だけ見えて、その後ろからも足が続こうとしていたが、止められ、静かに扉が閉まった。
石和希は二人きりになるとは思っておらず、自分の身体がこわ張るのを感じた。
「面をあげよ」
テーブルの向かい側、花水木を背に、深く腰掛け顎を上げた麻金皇王。石和希の顔を見て。
「覚えているぞ、朕に香北を引き合わせた事。面倒は省け、目的を言え」
「!」
石和希は、全身に電気が走ったような衝撃を受けた。まるで別人のような態度である。
なる程、これが本当の麻金皇王か……、ならば。
「では申し上げます」
その口調に、麻金皇王の眉毛が動いた。恐れながらとも言わず、物怖じするでもなく、意図を汲んだうえで、この言い方。
「政を、あるべき姿に」
「! はっ」
思わず声に出た麻金皇王。その顔には笑みを浮かべているが、剃刀のような、近づけば切れそうな、笑顔。
思わずひれ伏した石和希。
「朕の元、人は皆平等か、面白いっ、二千年続くこの国の体制を変えると云うか」
伏したままの石和希。
「面をあげよ、貴様、名は? 朕は覚えよう」
「石和希具視と申します」
礼をしこの瞬間、石和希はほくそ笑んだ。儀式なのだ。名乗りは前回に済ましている。だからこれは、皇王が認めたという、儀式だった。
これ程までに皇王が鋭い人物とは予想していなかったが、であれば、下手な隠し事は不要、全てを知ったうえで、こちらの提案にのってきたのだ。そう、自分は勝負に勝ったのだと。
「誰の下だ?」
「今は藍河代王の下で、働かせていただいております」
目を細めて麻金皇王、しばしの沈黙。花水木か風にそよぐ。
「藍河代王を裏切るのか」
伏せたままの石和希、皇王の口調が変化した事に気づいて、間をとり。
「藍河代王におかれましても、その願いは、国家の安定にございます」
「まあそういう事にしておこう、貴様、朕に仕えよ」
「はっ!」
不敵な笑みで石和希は応えた。今まさに、この瞬間より、彼の政治舞台は始まったのだった。
「面をあげよ、で具体的には?」
自信に満ちた口調で、石和希が答える。
「王には各議会への参加、論議する権利を付与するのです」
現状では、王は各大臣より上がってきた政策を、決定、再審理する権限が与えられているが、直接政策会議に参加する事はできない。故に、これは王の権限が大きくなるととれる内容だから。
「……拡大ではないのか?」
王の権力拡大は、皇王の弱体化ともいえる。麻金皇王の疑問はもっともであるが。
「いえ、降格にございます」
「! なる程、はっ、面白い、それをする貴様の望みは何だ?」
先程より、鋭さの抜けた笑みで麻金皇王が石和希に。
「 金と権力にございます」
臆面もなく言ってのける石和希に、眉を上げた麻金皇王、しかし直ぐに鋭さを取り戻し。
「まあ、そういう事にしておこうか」
花水木のピンクだけが、窓一面に広がり、風にそよいでいた。




