双頭録 四
怪我をした赤実陽。しかし身を隠しての活動であった。そうとはしらず浮かれる空矢政継と冷静な黒田量。これが彼らの最初の出会いだった。
登場人物
赤実陽:早芽桜と偽って諜報活動中。
空矢政継:若い<守人>。
黒田量:若い<守人>。
用語
レイヤー:眼鏡型の情報端末。
「ありがとうございました」
猫のような丸い顔、長い黒髪と白い肌、濃いまつ毛に瞳にレイヤーと、尖った鼻先に小さく濃い色の唇、陽がすっと立ち上がり、椅子の向きがそうだったか、右肩を前に出す形で。
ウェルカムフラワーとでもいうのか、入ってすぐにスノーフレークが飾られ、作りは外に面して平行に続く、奥行きの無い、変ったホテルの一室。
陽の黒いレイヤーには、もう少しでお昼になる事を告げる、時間が表示されていた。
相手が慌てて、手で座るように促す。
椅子に座って、白くゆったりしたブラウスに、下は裾の広いライトグレーのパンツで、ちらりと見える左足首には包帯の陽が、訪ねてきた相手にお礼を言った。
「空矢さん、黒田さん、昨夜は遅い時間まで……」
「あーいやいや、いや、いいさ なぁ」
まとまりない黒髪に上がった眉毛と、挑戦的な黒い瞳にレイヤーをかけ、剣を下げた空矢が、何と答えようか、何と答えるのがいいか、ぱたぱたしつつ、黒の短髪に細い眉、優しい眼にレイヤーをかけ、長短日本の剣を下げた、黒田に振る。
「 怪我の方は大した事ないみたいだね」
おかげさまでと猫撫で声で対応する陽に。
「もう赤警察には届けたの?」
はいと答えたが、嘘である。そもそも身分を偽っての活動なのだ、赤警察なんてとんでもないと、内心で舌を出していた。
「あぁ、何なら俺達もついていこうか? 警察に知り合いがいるんだ」
食い気味な空矢に黒田が。
「こら、予定があるだろうが、それに知り合いは青警察だ」
あっ、と驚く空矢に黒田が、何の為に昨夜は遅くまで練習に付き合ったと思ってるんだ、と小言を言われ、その様子に仲が良いんだなと、くすりと笑った陽。
「それじゃあ俺等はこれで」
少し空矢を引っ張り気味に、黒田が挨拶。
「何のお礼も返さずに、申し訳ありません」
「桜ちゃんもお大事にね」
扉を閉めて量。
「政継本気で忘れてたろ?」
「舞雪形に行くんだって、分かってるって」
顔を背けて大股に歩き出す政継に、力の抜けたため息一つ量、後をついて行く。
ホテルの上層階、外壁に設置された自動垂直昇降機に乗り、一階へと向かう。
量のレイヤーには彼女、先程別れた早芽桜の名前と顔写真。そのまま視線を政継に移し。
「彼女、変わってるよな」
その表情を変えないままの量の言葉に。
「んん、ああ、なんつーか、可愛いっつーか、どっちかっつーと綺麗な」
そうじゃなくて、と間髪返す量に思わず振り返った政継に、量が。
「彼女の利き手」
「左」
それは助けた時に分かった事だから、即答の政継。
「彼女が立った時、左側を隠して立っただろ?」
「……」
それに足を怪我していて、あの立ち上がり、何がしかの体術を。
「備えてるな、それに」
政継の表情が、拗ねた子供のそれになるが構わず。
「お礼の台詞が違ったろ?」
「……」
いちいちもっともな量の指摘に、眉間いしわを寄せて。
「あーそーな、確かにな、だから何だよ」
量に背を向けると、景色が勢い良く流れていく。曇りの空は街を全体的に、白っぽく霞ませているよう。
「ここまで言えば気づいたろうけど、夜中にあの状況だった事含めて」
一階ロビーに着き、閉まるボタンを押して量。
「あの子は<影梁>だ」
ボタンから手を放し扉が開いて。
「絶対厄介事抱えてるぜ」
言いながら先に出て行く量。ため息一つついて政継。
「そう言われてもねぇ」
小さくつぶやきながら、政継にしては複雑な表情をして、量の後に続いて行った。




