三目家伝 四
遂に権力獲得へ動き出した光芽守靖。代王派の森総務大臣と繋がっていく。互いに腹に一物をもっての交渉は、新たな勢力図を作り出していく。
登場人物
光芽守靖:三目家の当主。
森國男:陽の国の総務大臣。
用語
レイヤー:眼鏡型の情報端末。
「こうして会うのは初めてですね」
ややごつい黒のレイヤー越しの目は神経質そうで、細身の頬に鼻、話す際にも口を殆ど動かさない中年が、事務的な椅子に座って相手と向かい合っている。
「お会いできて光栄です、森総務大臣」
そう応えるのは、七三分けの黒髪に、細い眉毛と茶色い瞳、面長でしっかりした鼻と大きな口に、派手さはないが仕立ての良い服を着た、光芽守靖。
簡素な硝子テーブルに、地味な器とお茶、地味な衝立と何処にでもあるような観葉植物、あとは南側に窓があるだけの、何とも味気ない執務室にて。
こちらもお会いできて光栄です、と型通りの挨拶を終えると、早速森が切り出す。
「それで、本日の御用の向きですが……」
答えて光芽。
昨今の国政を考えまするに、これまでのように国に支えられるだけではなく、何がしか、今まで受けた恩をお返しすべきではないか、我が三目家も、お手伝いができるとは言えませんが、広く事業を行ってきましたので。
「どのような形であれ、御用立ての機会を頂けましたらと、愚考した次第でございます」
「いえいえ、こちらこそ名家である三目家よりご指名を頂けるとは、望外の喜びですよ」
一呼吸おいて森が続ける。
「ところで何故、私をご指名いただけたのでしょう?」
「ご政道に通じ、幅広くご見識があり、なおかつ不躾とは思いましたが、私共の話にもお耳を傾けていただける器量のある方と、ご迷惑とは思いましたが、おすがりさせて頂いた次第でございます」
ここまで、一切のよどみなく続いたやり取り。まるで役者のようであり、実際、お互いがこの状況を演じていた。
「そこまで言われますと、返す言葉が見つかりませんな……」
森の言葉がゆっくりになった。
なる程、三目家は本気で私に取り入るつもりらしい、その目的は漏らすまいが、さて、どうしたものか……。政治にかかわってからというもの、数えきれない程、繰り返してきたやり取りだ。しかし、今までと違う点なのは、その相手が、あの三目家、という事にある。今まで、三目家がこうして目立って政治的な行動をとらなかったのは、火繰家、月帝家がいたからだが……。
「ご謙遜で、ございます」
光芽も、相手が一旦はこちらを受け入れたと判り、口調をゆっくり低いものに切り替える。
何を言ってくるにしても、まずは様子見以上のものにはなるまい。他の名家との摩擦は御免だろうし、さて……。
「そうですな、今巷を行き交う不穏な空気、あれは国の乱れの基になりはすまいかと、案じておるところです」
「なんと」
わざとらしく驚いて光芽。
「国の安定は一丸となってこそと、私なりに思います」
安定、その言葉に森が反応したのが分かった。事前に全て調べた上での言葉である。反応してもらわねば困るというもの。
「よもや流言を利用して、私利私欲の為に国を壟断するような事が、あってはなりません」
森が椅子に、少し深く腰を掛け直し。
「まさに」
仰られる通り、代王派も王道派も国を思う気持ちでは、世間が思う以上に通じているものなのです。
「しかし、そうは考えない者達が、恥ずかしい事に、政治の中枢にはいるのです」
身を低く乗り出し、光芽が言葉を繋げて。
「新改革派ですね」
目を閉じながら頷いて、眉間に皴の森。改革とは名ばかりの、国の仕組みを根底から壊そうとしている、破壊者でしかないと、忌々しく思っているのだ。
「そうだ、あれらには、そう、少し、大人しくなってもらいたいと、思いこそ、するが……」
姿勢を正して光芽が。
「森総務大臣の、仰る通りと存じます……、全く、その通りであります」
「ふむ、話が早くて助かりますな」
森が身体を起こして。
「ただ私があなた方にできる事は、そう多くないというのが、何とも心苦しいところですな」
思わず口の端が歪みそうになったが、抑えて光芽。
「いえ、この様な機会を与えていただき、その上、期待以上のお言葉を頂けました」
許されますなら、今後とも、ご縁を続かせて頂けますれば。
「お役に立てる機会もあろうかと思い、光栄に存じます」
簡素な硝子テーブルに、地味な器とお茶、地味な衝立と何処にでもあるような観葉植物、あとは南側に窓があるだけの、何とも味気ない執務室にて。




