火繰家伝 二
原井公安大臣が辞任。それに伴い与野党それぞれの思いが渦巻く中、火繰家の河智聖子が佐復外務大臣に耳打ちする。それに名家の影響力と、佐復紘一個人の思惑が結びつく。果たして火繰家の思い通りに、事は運ぶのだろうか!?
登場人物
河智聖子:火繰家の当主。
佐復紘一:陽の国外務大臣。
用語
青千院:太京にある政治の中心地。
羊鳴棟:各派閥政党毎の会議室のある建物。
「佐復外務大臣」
黒い前髪を切りそろえ、後ろに長く美しい真っ直ぐな艶やを流し、美しく鋭い赤茶色の瞳に鼻と小さな唇。立ち姿は均整がとれ、昇り火と呼ばれる、赤い意匠を凝らした着物が、女性らしさを引き立てていた。
「うん? 河智君か」
高い天井はアーチ状の装飾された白い梁に硝子張りで、床には天鵞絨の絨毯が長く敷かれた廊下にて。
ここは、青千院の一角にある羊鳴棟。各政党が集まり会議を行う場所で、河智はそれが終わるのを待っていたのだった。
「お話をお伺いしたく」
「うん、それでは別室に行こうか」
休憩室、大臣達が応対室と呼んでいる場所へ移動してきた。後ろは分厚い壁に、やたら丈夫な扉と、左右は白いすり硝子、小さく四角い机を挟んで立派な椅子は、お互い、大きな窓から桜の咲いた庭を向いて、左側に河智、右側に佐復外務大臣が座る。
「公安大臣の件だね?」
「はい、伺いたく存じます」
原井公安大臣は辞任という事になり、後任人事が今揉めて、野本財務大臣に兼任してもらう方向で、話が進みそうだという。
「財務と公安を兼任、ですか?」
強力すぎるのでは、と河智の意見はもっともで、普通であれば誰も認めないが、野本信士の能力人柄ともに、あらゆる人が認めるところであり、少々堅物な点も、この際は良い方向に働くとみられているのだ。
「そうですか、……もしよろしければ」
河智の切り出しに、来たな、とそれを隠して佐復外務大臣。
「うん?」
「よろしき人がおります」
「誰かな?」
「小能中御池です」
言われても直ぐに思い出せない佐復外務大臣。若手議員の末席にいる、議員歴三年の男だと河智の説明に。
「んん? あぁ、ああ、居たな若いのが」
思い出せてすっきりしたのか、笑顔になる佐復外務大臣。しかし直ぐに。
「若すぎるのでは? 経験も浅すぎといわれるだろうし、火繰家のご推薦であっても、その提案では、皆の納得を得るのは難しいのではと思うよ?」
「推薦する理由がございます」
凛とした声に、衣装も相まって、堂々とした姿勢で続ける。
「まず第一に、彼は政党派閥に属していません」
「それが?」
思わず聞き返してしまう佐復外務大臣。こういった人間臭さが、今一つ抜け出せないところなのだろうと、河智は思った。
「第二の理由に繋がりますが、今、公安大臣を拝命いたしますとして、その任期はいか程でありましょうや?」
ふむぅ、と佐復外務大臣は考え込む。
なる程、王が変わるのであれば、現職の大臣はいったん総辞職となる。再度任命されるものもいれば、そうでない者も。そんな中途半端な状況では、熟練議員達がキャリアを使うわけもない。
「しかし、そうであれば他の者でも良いのでは?」
佐復外務大臣が顎に手をやり、河智に聞き返す。
まさか火繰家の操り人形だからとは言えまい、どう答えるのか。
「第一の理由に繋がりますが」
例え短期にしても、大臣を務める事に変わりなく、本来であれば、それなりの影響力を持ちます。
「しかし彼はまだ若く、何処にも属していないのです」
「! なる程分かった、近々にかけてみよう」
河智の言わんとしている事を理解して、急に立ち上がり。
「話は以上だね? それでは申し訳ないがそろそろ失礼させていただくよ」
早口にまくし立てて、佐復外務大臣は部屋を出ていった。
「ふぅ」
重たい扉が閉まると、河智は肩を緩めて、椅子に深く沈んだ。
知野さんの言った通り、状況を与えれば、人は勝手に解釈して動くものだと、非常に納得していた。
影響力の使い方が未熟な大臣を、味方に付ける事ができれば、政党にしても派閥にしても、それは決して損にはならないのだ。それと考えついて、いち早く自分の影響力を高めるべく、先に小能中御池を飼いならそうと、佐復外務大臣は考えたのだ。しかも火繰家が支持するのである。儲かる事を保証された、株を買うような気持ちにもなろう。儲け幅と期間は不明だが。
「後は代王派がどう動いてくるか……」




