白若竹 二
唯一平和だった陽の国が、内戦へと向かうきっかけとなる最初の事件が始まる。
登場人物
赤実陽
「うわぁ、広いなぁ」
高い鉄塔の上から見下ろす眼下は海、そこに広大な島が作り出されていた。海風に時折金属がきしむ音。月もない真っ暗な空の下、煌々と照らされた周囲一面に、無人機が強風にもよどむ事なくそれぞれに作業を進めている。
「これ全部港になるんだ」
足元もろくにない場所で楽しそうに言った。その口から白い息が流れたのに気づいて、慌てて右手で口元を抑える。その顔は野生の猫のような、丸く童顔なのか年相応なのか、黒く短い髪と白い肌、濃いまつ毛と目の周りはうっすら赤く、その瞳はより赤く、つんと尖った鼻先に小さいが色の濃い唇を持った、少女のようだが引いてみれば、その身体つきは少女のそれではない。だがかといって、左手に眼鏡を持ち、黒一色で輪郭が露になるような服装だが、分かる人が見れば少年のそれとも一概にいえない事に、気づいただろう。
「すごいなぁ」
これだけのものを人は作れるんだと、しばらく見入ってしまう。これができあがれば世界最大の港となり、この陽の国が益々栄えるらしい。
「でも」
思わず口から漏れる。
その繁栄には勝者と敗者がいる事を、いやという程見てきた。自分達の所為で敗者になった人も大勢いる。だから。
「何で」
皆で仲良く勝者になれないのだろう、と思ってしまう。そして今
「陽が動けば」
また、勝者と敗者ができあがるのだと、分かっていた。
眼鏡を顔にかけると、赤い瞳が黒になり、硝子部分に文字が浮かび上がる。
『ようこそ、赤実陽さん』
その表示が切り替わり、二十二時半と表示され、眼鏡と思っていたそれは、顔にぴたりとくっつくかのように変形し、赤実陽が首元を触ったかと思うと、目以外顔も黒く覆われた。
「よしと」
そして一呼吸
「仕事だ」
行動を開始した。