国中起盛 一
麻金皇王と須々木王が狩猟にでかける。ただの息抜きであるこの行事ですら、政治の行く末を変えていくものだった。
登場人物
須々木雅義:陽の国王。
麻金皇王:陽の国の皇王。
用語
<墓守>:<守人>の中でも特に優れた者につけられる称号。
東亜藍潮計画:辰港を建設する為の、全てを含めた総称。
<穴追い>:狩りで獲物をしとめる、または運ぶ下働き。
「お見事!」
短く整えられた黒髪と、四角く平面的な顔にはしっかりとした眉に、優しく細い瞳。鼻筋は真っ直ぐで、その大きな口からは低く、心地良いよく通る声で、須々木王。
森の中でそこだけひらけており、薄く光る空に、風が吹けばまだ襟をしめる季節。
「いや、皆もよく追い立ててくれた、お蔭でうまく仕留めれた、感謝する」
そう言いながら黒い眼帯を外したその顔は、どちらかと言えば色白で、黒というよりは灰色がかった髪を短く後ろで縛り上げており、鋭いが大きな瞳は薄い青で、目の周りが少し赤いだろうか。細身の顔つきに細い鼻と口、身体つきも隣の須々木王と比較してしまう為、いっそう細く見える。しかし華奢ではなく絞られた無駄のない男。
「もったいないお言葉です、皇王陛下」
うやうやしく須々木王が頭を下げる。ぱっと見、二人を見たならば、須々木の方こそ高い地位と感じるだろうが、持って生まれたものが違うとでもいうのか、その自然な立ち振る舞いからは、これぞ皇王、と人々を納得させるに十分なものであった。
皇王の従者が眼帯、手袋、銃を受け取り、他の従者がその場を平らに払って椅子を設置。それを確認するでもなく、静かに座ると右手を軽く振った。すると皇王の右手やや後ろに、もう一つの席が用意されており、一礼して須々木王が席に着く。周囲を見渡して、従者や警護の<墓守>達との距離を気にしつつ。
「皇王陛下」
小さく低い声がどうにか届くようにして、須々木王が耳打ちする。
「よい、話してみよ」
ゆったりと座ったままの皇王。
「東亜藍潮計画の件ですが、継続調査といたしたく思います」
の言葉に皇王は、軽く首だけ傾けて続きを促す。
「これを機に政治基盤を盤石なものとし、国家安定の強化に繋げる事と致したく存じます」
薄く光る空に、風が吹けばまだ襟をしめる季節。座る椅子が暖かく、座り直す皇王。
「信じてよいな?」
「はいっ」
即答。
「一つだけ言っておきたい。無用な争いは起こすな、朕は無用な争いを好まぬ」
「 はい」
「……」
その時、目の前の木々の中から磁気浮遊式貨物箱を携えて、二人の<穴追い>がやって来た。箱からは皇王が仕留めた鹿の足が飛び出ている。
「おぉ、これは立派な獲物にございます」
須々木王が殊更通る声で言う。すると遠巻きにしていた従者達がやって来て、口々にお祝いの言葉を告げていく。
立ち上がり皇王。
「ありがとう、皆のおかげだ」
そう言って手を掲げるなり、従者の中から料理係が大勢進み出て、<穴追い>から獲物を受け取る。それを見つつ座る皇王の目に。
「……」
須々木王が皇王の視線の先をとらえると、立って礼を取り続けている一人の<穴追い>の姿。
それは恰好こそ草木に紛れる為、色々な偽装をした、全く猟師然としているが、見た目の美しい青年だった。まつ毛は濃く長く、瞳は黒く大きくその周囲はうっすらと赤く、丸い顔は小さく色白で、きちんとした格好をしていれば、どこかの令嬢と見まごうばかりの容姿だろう。
次々と、鮮やかに解体されていくと、改めて大きな獲物であると分かる。
ある程度まで解体するのを<穴追い>はそのまま待ち、獲物に問題がないと料理係が合図を送ると、最敬礼、立ち去る。が。
「これは良い皆で分けよ」
その言葉に立ち去ろうとした<穴追い>達が、思わず止ってしまう。
それに気づいて須々木王が、右手を振り直ぐに立ち去るように促す。
「よい、朕は皆で、と言ったのだ」
「皇王陛下、この者は<穴追い>です」
「良いのだ」
森の中でそこだけひらけており、薄く光る空に、風が吹けばまだ襟をしめる季節。火が焚かれ、立派なテーブルと食器が用意されていき、周囲に香ばしさがいっぱいに広がってく。
「……」
左手にグラスを持ち、視線は端にいるあの<穴追い>を捉えている、須々木王。何かを感じ取ったからだろうか、先程振り払った右手が、何故か痛かった。




