表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陽国史 一  作者: いちのはじめ
13/137

国中起盛 一

 麻金あさかね皇王と須々木(すすぎ)王が狩猟にでかける。ただの息抜きであるこの行事ですら、政治の行く末を変えていくものだった。


登場人物

 須々木雅義(すすぎまさぎ)こく王。

 麻金あさかね皇王:こくの皇王。


用語

 <墓守はかもり>:<守人もりと>の中でも特に優れた者につけられる称号。

 東亜藍潮計画とうああいしおけいかく辰港たつのみなとを建設する為の、全てを含めた総称。

 <穴追い>:狩りで獲物をしとめる、または運ぶ下働き。

 「お見事!」

 短く整えられた黒髪と、四角く平面的な顔にはしっかりとした眉に、優しく細い瞳。鼻筋は真っ直ぐで、その大きな口からは低く、心地良いよく通る声で、須々木(すすぎ)王。

 森の中でそこだけひらけており、薄く光る空に、風が吹けばまだ襟をしめる季節。

 「いや、皆もよく追い立ててくれた、お蔭でうまく仕留めれた、感謝する」

 そう言いながら黒い眼帯を外したその顔は、どちらかと言えば色白で、黒というよりは灰色がかった髪を短く後ろで縛り上げており、鋭いが大きな瞳は薄い青で、目の周りが少し赤いだろうか。細身の顔つきに細い鼻と口、身体つきも隣の須々木(すすぎ)王と比較してしまう為、いっそう細く見える。しかし華奢ではなく絞られた無駄のない男。

 「もったいないお言葉です、皇王陛下」

 うやうやしく須々木(すすぎ)王が頭を下げる。ぱっと見、二人を見たならば、須々木(すすぎ)の方こそ高い地位と感じるだろうが、持って生まれたものが違うとでもいうのか、その自然な立ち振る舞いからは、これぞ皇王、と人々を納得させるに十分なものであった。

 皇王の従者が眼帯、手袋、銃を受け取り、他の従者がその場を平らに払って椅子を設置。それを確認するでもなく、静かに座ると右手を軽く振った。すると皇王の右手やや後ろに、もう一つの席が用意されており、一礼して須々木(すすぎ)王が席に着く。周囲を見渡して、従者や警護の<墓守はかもり>達との距離を気にしつつ。

 「皇王陛下」

 小さく低い声がどうにか届くようにして、須々木(すすぎ)王が耳打ちする。

 「よい、話してみよ」

 ゆったりと座ったままの皇王。

 「東亜藍潮計画とうああいしおけいかくの件ですが、継続調査といたしたく思います」

 の言葉に皇王は、軽く首だけ傾けて続きを促す。

 「これを機に政治基盤を盤石なものとし、国家安定の強化に繋げる事と致したく存じます」

 薄く光る空に、風が吹けばまだ襟をしめる季節。座る椅子が暖かく、座り直す皇王。

 「信じてよいな?」

 「はいっ」

 即答。

 「一つだけ言っておきたい。無用な争いは起こすな、朕は無用な争いを好まぬ」

 「 はい」

 「……」

 その時、目の前の木々の中から磁気浮遊式貨物箱を携えて、二人の<穴追い>がやって来た。箱からは皇王が仕留めた鹿の足が飛び出ている。

 「おぉ、これは立派な獲物にございます」

 須々木(すすぎ)王が殊更通る声で言う。すると遠巻きにしていた従者達がやって来て、口々にお祝いの言葉を告げていく。

 立ち上がり皇王。

 「ありがとう、皆のおかげだ」

 そう言って手を掲げるなり、従者の中から料理係が大勢進み出て、<穴追い>から獲物を受け取る。それを見つつ座る皇王の目に。

 「……」

 須々木(すすぎ)王が皇王の視線の先をとらえると、立って礼を取り続けている一人の<穴追い>の姿。

 それは恰好こそ草木に紛れる為、色々な偽装をした、全く猟師然としているが、見た目の美しい青年だった。まつ毛は濃く長く、瞳は黒く大きくその周囲はうっすらと赤く、丸い顔は小さく色白で、きちんとした格好をしていれば、どこかの令嬢と見まごうばかりの容姿だろう。

 次々と、鮮やかに解体されていくと、改めて大きな獲物であると分かる。

 ある程度まで解体するのを<穴追い>はそのまま待ち、獲物に問題がないと料理係が合図を送ると、最敬礼、立ち去る。が。

 「これは良い皆で分けよ」

 その言葉に立ち去ろうとした<穴追い>達が、思わず止ってしまう。

 それに気づいて須々木(すすぎ)王が、右手を振り直ぐに立ち去るように促す。

 「よい、朕は皆で、と言ったのだ」

 「皇王陛下、この者は<穴追い>です」

 「良いのだ」

 森の中でそこだけひらけており、薄く光る空に、風が吹けばまだ襟をしめる季節。火が焚かれ、立派なテーブルと食器が用意されていき、周囲に香ばしさがいっぱいに広がってく。

 「……」

 左手にグラスを持ち、視線は端にいるあの<穴追い>を捉えている、須々木(すすぎ)王。何かを感じ取ったからだろうか、先程振り払った右手が、何故か痛かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ