火繰家伝 一
辰港での出来事を追求しない代わりに、火繰家をはじめ、政治の中枢で権力の駆け引きが始まる!
登場人物
須々木雅義:陽の国王。
河智聖子:火繰家の当主。
佐復紘一:外務大臣。王道派。
三岡芳蔵:火繰家の財政担当。
野本信士:財務大臣。王道派。
原井円生:公安大臣。王道派。
知野陽音:火繰家の参謀役。
用語
辰港:陽の国の西南に位置する、現在建設中の超規模の港。
太京:陽の国の首都。
青千院:陽の国の政治機構の中枢を集めた場所。
家門館:青千院にある建物の一つ。
レイヤー:眼鏡型の情報端末。
東亜藍潮計画:辰港を建設する為の、全てを含めた総称。
「辰港は予定通り六三十年に開港といたします」
前髪は切りそろえ、後ろに長い黒髪に、鋭く赤茶色の瞳、少し低いが真っすぐな鼻に、紅をそえた艶やかな唇、の女性。
向かいには緩く三日月型テーブル、その外側に、如何にもという風体で席についている、男五人。その真ん中には須々木王が穏やかな表情。王から一人挟んだ左の席の男が彼女に確認をした。
「それでは、今回の妨害工作の被害は、小さいものだったという事ですか? 河智君」
太京にある政治の中心となる青千院、その中にある建物の一つ、家門館の一室にて。さして大きくもない部屋は、濃く落ち着いた木目調で統一され、天井は高く真上から明り取りの窓と、四方の高い位置にある大きな窓からは空のみが見える。そしてこの部屋で最も特徴的なのは、四方の壁全てに扉がついている事だった。
三日月型テーブルの向かい、こちらはそれよりも短い三人席に、河智聖子を中心として、一癖ありそうな中年が左右についていた。
「いえ、今回の被害は甚大なものですが、工期の遅れを取り返す算段をたてております、佐復外務大臣」
努めて低い落ち着いた声で河智。間髪向かい席、今度は反対側の男が。
「資金注入かね?」
腕をテーブルで組みながら質問。
それにつきましては、三岡よりお答えさせていただきます、と河智が自分の右側に座る男の顔を見た。
「それにつきましては私の方からお答えいたします、野本財務大臣」
今年いっぱいは予備の予算でやり繰り致しますが、年明けて再来期以降は、追加の予算を投入し。
「工期の遅れを収束させていく予定でおります」
全員のレイヤーに、各時期における予算の使用グラフが表示された。それによると、一年後に追加の資金投入となっており、四年後には工期を巻き返し、開港となっていた。
「追加資金には、現在東亜藍潮計画に参加している各家企業が行います」
「それは話がついている事なのかね、三岡君」
具体的にはこれからですが、第一報はそれとなしに。
「非公式ですが、追加予算が必要になる可能性について、情報を入れてあります」
「では工期の遅れは事実上存在しない、何故延期と答えたのか」
向かい席左端のややいかつい、首に傷のある男が、質問ではなく強い口調で。
「それにつきましては原井公安大臣、私の方からお答えいたします」
河智の左側男が、機械的な調子で続ける。この事件の実行犯を捕まえても、黒幕にはたどり着かないであろう事、この件で利益を得る算段を既につけているであろう事、一年後の港開港に対し手をうってくるだろう事、それらを説明し。
「これを機に、我々の体制強化を仕込みたいと考えております」
間髪入れず、原井がテーブルを叩いて抗議、というより全身を赤くして、その分首の傷は白く、何故それを会見で言わなかったのかと、怒るが佐復が割って入り。
「どういう事ですか?」
唯一平和な陽の国ですが、このところ人々の間に不穏な噂が流れています。
「即ち、内乱が起きるのではないか、と」
この噂や空気は、現在の政治体制に対し、麻痺した知識と不安によるもので、端的にその原因は。
「野党の強力な台頭と与党内の分裂にあります」
なるほど、とゆっくり頷き。
「相手の予想を超えて利益を上げる、それにより権力を強化すると」
中央の席にゆったりと構えた、短く整えられた黒髪と、四角く平面的な顔にはしっかりとした眉に、優しく細い瞳。鼻筋は真っ直ぐで、その大きな口からは低く、心地良いよく通る声で。
「須々木王、ご明察の通りです」
知野がうやうやしく頭を下げる。
「ではこの方針で行きましょう、詳細は各位協議の上、お願いいたします」
そう言うと立ち上がり、これから麻金皇王と狩りに行く約束があるので。
「失礼いたします」
そう言うと軽く頭を下げて、後ろの扉から退出していった。全員が立ち上がり、頭を下げて見送った。扉が閉まる。
「 」
「 」
「 」
「 」
「 」
「 」
「……では」
全員が大きく背もたれにかかり、顎を上げる。ここからが会議の本番であった。




