表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

野生のJR

作者: 村崎羯諦
掲載日:2020/04/10

『近年、観賞用に飼育されていたJRの野生化が問題となっております。天敵のいない住宅街で急速に繁殖し、住宅の床下に線路や駅舎といった巣を作るなど、近隣住民の生活に大きな悪影響を与えています。特に赤字路線が顕著な地方においては、企業によるJRの集団放棄が問題となっており、NPO法人の調査では、前年度に比較して……』


 テレビの内容をかき消すように、業務用の携帯電話がなる。山崎が電話を取り、簡単なやりとりの後で電話を切った。仕事だ。事務机から立ち上がりながら、山崎が面倒くさそうな声で俺に告げる。


「野生JRの駆除だ。タイムリーだな」


 内容はなんだと俺が聞く前に山崎があくび混じりにそう答えた。ニュースの内容通り、最近は本当に増えてるなとぼやきながら、俺は山崎とともに仕事の準備に取り掛かる。着替えを済まし、駆除道具を荷台に詰め込み、依頼があった民家へと軽トラックで向かう。依頼主は一軒家に住む独居老人で、家の床下に住み着いた野生のJRを駆除してほしいとのこと。トラックを走らせている最中に、再び助手席に座る山崎の携帯に電話がかかってくる。山崎が電話相手と到着時間についてやりとりをするのが聞こえる。そして、そのやり取りの断片から、仕事の内容がまた野生のJR駆除だということがわかった。しかし、そのことに特別驚きはしなかった。数年前まではネズミやハチといった害虫駆除だが、今ではもう仕事の八割以上が野生のJR駆除だったからだ。


 軽トラックを二十分ほど走らせ、ようやく依頼主の家に到着する。依頼人との簡単なやり取りの後、俺達はすぐに野生のJRが住み着いている家の床下へと案内された。すでに、何百件もの駆除を行っている山崎が確認を行い、小さく舌打ちをする。


「あー、これは完全に群れを作って、繁殖しちゃってますね。パッと見た感じでも、メスのJRとオスのJRがいますから」


 でも、駆除自体は簡単なので心配はいらないですよ。山崎が身体を起こして説明を行う。その言葉に依頼主がほっと胸をなでおろす。人に直接危害を与えるわけではないが、このまま放置しておくと衛生上の問題も出てくる。そして、床下から毎晩毎晩線路を増設する音が聞こえてくることで、中には睡眠障害を発症する人もいる。俺たちのような業者に頼んで、きちんと駆除をするに越したことはない。


 じゃあ、さっさと始めるか。山崎の言葉を合図に、俺は軽トラックから駆除道具一式を持ってきて、早速駆除を開始する。まずはネズミ駆除で使っている殺鼠剤を野生のJRの巣と化している床下に投入していく。それからしばらく時間を空けた後で、俺達は床下へと入り、死骸の掃除と、床一面に建造された彼らの巣、つまりは路線や駅舎を片付けていく。


 巣を片付け終わったら、新しいJRが住み着かないよう、人体には無害な特殊な液体を散布し、侵入経路になっていたと思われる穴を埋めていく。俺たちが駆除を始めてから二時間ほど。依頼主の家にはもう、野生のJRは完全に消えてなくなった。


 最後の点検を終え、俺達は外へ出て、依頼人に駆除完了の報告を行う。今回やった駆除内容と、今後も野生のJRが住み着かないようにするための対策について簡単に説明を行い、これで本当に仕事が完了する。


「支払い方法はどうします」

「Suicaでお願いします」

「まいどでーす」


 軽快な電子音が鳴り、決済が完了する。俺たちは依頼主に深々と頭を下げ、軽快な足取りで軽トラックへと戻っていった。


 それから俺たちはいくつかの仕事をこなし、辺りがすっかり暗くなった頃に事務所へ帰った。作業着を脱ぎ、ソファに腰を落とす。自分の腕を試しに嗅いでみると、気のせいか、野生のJRを駆除したときに使用した殺鼠剤の臭いが残っているような気がした。


「本当、国だけしか飼うことが禁止されていたJRが一般人も飼えるようになったときはあんなにみんな歓迎していたのにな。飽きたら、簡単にポイだよ」

「野生のJRに限った話じゃないけどさ、人間は身勝手なもんだよな。本当に」


 山崎が電子タバコを咥えながら同意する。俺はふと山崎の左手にピカピカの腕時計がはめられているのに気がついた。


「おい、山崎。また腕時計買ったのかよ?」

「お、ようやく気がついたな。カッコいいだろ」

「昨日まではめてた百万円のやつは? あれを買ったのも確か一ヶ月くらい前だろ」

「あれはもう飽きちゃったからさ、新しいやつに買い替えたんだよ。割の良い仕事が山ほどあって、金には困ってないんだから」


 野生のJR様様だな。俺が皮肉交じりにそうつぶやく。俺はテーブルに置かれていたテレビのリモコンを手に取る。人間は身勝手なことをこれからも繰り返していくんだろう。だけど、そのおかげで俺たちはこうして美味しい思いをできている。そう考えると、人間の身勝手さも悪くはない気もする。俺は少しだけ笑いながら電源ボタンを押した。テレビではちょうど、夕方のニュース番組が流れていた。


『近年問題となっているJRの野生化に加え、新たにJALの野生化が問題となっています。まだ一般の飼育数が少ないものの、繁殖力の高さから、専門家は野生のJRと同程度の社会問題が発生するという指摘を行っており、それに対し政府は……』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ