Episode8
「…これ位かな。」
「ありがとう、姉さん。」
手当てされた手首に目を落とした。
___彼女から手当を頼まれた事もそうだが、異常な程包帯が巻かれていた体に月は驚いた。
この組織の古参の部類に入る月でさえ、こんなに傷を負っている者は見た事が無い。
しかも女だ。彼女はれっきとした女なのだ。
(洗脳でもしたのかなぁ…)
不穏な考えをしてしまい月はハッとし首を振った。
(あんなのされたら流石に今頃死んでる。)
組織の洗脳教育は酷過ぎて死人が出る程だった。
彼女が組織に入ったのはまだ5歳だった。
周りの5歳が洗脳教育や実地訓練等でバタバタ死んでいくのに
彼女は平然と、当たり前のように生きていた。
『素質』、またの名を『特殊』…ひっくるめてそれを人はナチュラルと呼ぶ。
それはどんな素質かは分からない。
人によって違う。
(それを持ってるだけでこんなに違うとは…
やっぱナチュラルは凄いな…)
月は席を立ち、余った包帯を棚に入れた。
大きな棚には包帯と薬と眼帯、数枚のタオルしか入っていなかった。
引き出しには着替えのシャツとズボン、靴下、上着の替え。最低限の物しか置いていないのだ。
「龍巳ちゃん、私行くからね。」
「すみません遅くまで…ありがとうございました。」
「いいのいいの、何かあったら呼んでね。」
バタン、と扉を閉めて月は私室へ向かった。
大きな机の上に人形が横たわっている。
「ツハラちゃん、また目だけ取って行ったの?」
「綺麗だったんですよー。翡翠色で、光に当てるとキラキラ光るんです!」
ツハラエルはずるりと落ちた縞模様の靴下を上げる。
傍にはテディベアと瓶が置いてあった。
薄い青緑色の液体の中に丸い物が浮いている。
「確かに綺麗、しかもこの子生きてるじゃん!珍しいね、いつもは死んでるのに。」
「たまには新鮮なのをと思って。」
「そういう時決まって龍巳ちやんが絡んで来るよね。」
ツハラエルはぴくりと反応した。
月は図星か、と笑った。
「見たの?」
「…」
無言の肯定に月はやっぱりと言って俯くツハラエルを撫でた。
恐ろしく手が冷たい、この手がツハラエルはとても好きだった。
(死人と同じ体温だ。)
喰種とはそういう生き物なのだろうか、とツハラエルはまた研究対象が増えた事に笑みを漏らす。
「アレは誰にも言っちゃ駄目だからね、言ったら…分かってるよね?」
ツハラエルは頷く、
それを見届けた月は断末魔と共に今宵の晩餐を平らげた。