Episode 5.
「んー、何かあっさり終わりましたねぇ…」
「お前何もしてねぇじゃん。」
ツハラエルはそんな事ないですよう、と一人のメイドを抱えていた。
気絶しているだけでまだ死んではいない。
彼女は溜め息を吐いた。
「…お前、新しい人形か?」
するとツハラエルは幸せそうに笑ってメイドの頬を舐めた。
赤い舌がメイドを支配した様に見えて彼女は一瞬顔を顰めた。
「先輩分かってるなら聞かないで下さいよ〜。
この子、目が綺麗だったので。」
「気持ち悪いな。」
「あの軍警ちゃんに縛られてる先輩に言われたくないなぁ。」
ツハラエルはまたケタケタ笑う。
しかし彼女から溢れ出る殺気にすぐに笑いを止める。
「じょーだんですよう…そんなに怒らないで下さいよー。」
「何でお前があの子の事知ってんだよ。」
「…く、くろから聞いたんですよ……」
あの野郎、と彼女は頭をガリガリ掻く。
でもあいつも知らないのに…
きらくるが情報を掴んだか?
それとも、と考え込む。
それをみた黒猫はぞわりとする。
表情から溢れる殺気に後悔の色を示す。
「誰だ。」
少し低めの声がした。
彼女は振り返る。
ツハラエルは一歩後ずさった。
黒猫は後悔しつつ、とても帰りたくなった。
「軍警か。」
「……"死神"…?」
彼女は知らぬフリをした。
そして、殺そうとはしなかった。
殺せなかった、手が震えてしまっていた。
アストの手も震えていた。
(逃げなきゃ…)
(捕まえなきゃ…)
黒猫が彼女を揺さぶる。
「龍巳!!」
「くろ!先輩っ!」
ツハラエルが彼女の手を握って窓から脱出する。
黒猫はアストに微笑みを投げた。
「再会、邪魔してごめんね?」