Episode 1.
「龍巳。」
ごん、と彼女の頭に本が振り落とされる。
唐突の痛みに彼女は顔を上げる。
「…痛いよ、お兄さん。」
「はは、すまんすまん。」
微笑んで男は言う、しかし彼女は依然無表情で彼を見上げる。
(いつの間に椅子に座ったんだ、私。)
無意識の行動も慣れたものだ。
いつの間にか椅子に、いつの間にか外に。たまにある事だった。
彼女は壁を埋め尽くす本棚に今読んでいた本を戻す。
脚立を使えば早いが彼女は背伸びをして戻そうとしていた、こういう所は誰に似たのか否か。
(あと、あと3cm…!)
それを見ていた彼_____クラウンは溜め息を吐く。
やはり彼も妙に頑固な所は誰譲りなのか少し考えて止めた。
「もー、そういう事はクラウンのお兄ちゃんに頼みなって」
ず、と本が棚にはまる。
彼女は真上に居る存在を見上げた。
背の高いポップだがどこかロリータ系な印象を感じさせる服を着た女が自らを見下ろしている。
「姉さん、居るならちゃんと言って下さい。」
「そうだよ姉貴、心臓に悪いから。」
「ふふ、ごめんごめん。」
月はクラウンよりも高いその身長にふわりとスカートを翻した、そしてニコリと笑う。
そして大量の書類を彼女に押し付けた。
「何すかこれ。」
「次の仕事のターゲット、龍巳ちゃんご指名できたから渡しに来たの。」
「指名かよ、凄いな龍巳」
「…全然嬉しくないっす。」
彼女は仕事が嫌いだった。
鉄臭くてしかも服にこびり付いて落ちない。
それに断末魔が五月蝿くて耳が痛い。
出来れば早くここに帰りたいので仕事は手短に、
きっちりやって最短ルートで帰る。
軍警が居ると面倒事が増えるので裏を廻らなければいけないし、
しかも普通に撃ってくるから怪我もする。
痛いし鉄臭いし後始末面倒だし早く寝たいし、
彼女はそういう人間になったのだ。
「ターゲットはこの政治家ですか……また面倒な獲物ですね。」
「もう行くの?」
「さっさと終わらしてさっきの本の続きが見たいんすよ。」
「でも龍巳、いつもこの本読んでるじゃん。」
クラウンは先程彼女が読んでいた本を手に取る。
栞が挟まっている。
よく分からない、何処かの国の文字だ。かろうじて読めるのは過去、という文字だけだった。
「それだけは沢山読んでおかないとなんすよ。」
彼女はそう言うと鈍く光る大鎌を手に取り外に出る。
クラウンと月はほぼ同時に溜め息を吐いた。