Episode 16
「は?何言ってんの?」
きーさんは真顔で平然としているアストに威圧がかった声で言う。
アストは少し寂しそうな顔をしていた。
その手には数枚の書類と写真が握られていた。
「これ持って逃げろって…馬鹿じゃないの?」
「それはこの国に言ってよ。」
手渡された写真には幼い少女が3人映っていた。
「これ、誰?」
全員見覚えのない顔に戸惑いを隠せないきーさん。
アストは悲しそうに言った。
「誰だっていいと思う、ほら、荷物持って…」
「アスト、」
「この街はもうきーさんしか住人が居ないんだから、早く行かないと。」
「どういう事!?ねえ!アスト!!」
いつの間にか纏められていた荷物を持たされ手を引かれる。
連れて来られたのは獣人の住む森だった。
そこに見覚えがある、が思い出せない。
「ここは安全だと思うから、危険だと思ったらどこでもいい、走って。」
「アス…」
「私は行かないと、皆を待たせてるから。」
そう言って来た道を引き返すアストの背を見詰め、
何があったのか理解できないきーさんは途方に暮れた。
「何でよ、アスト…」
虚空に消えたその声と共に遥か遠くで銃声が聞こえた。
まさか、と思った。
(戦争?)
ここ200年は無かった戦争が今になって起こったというのだ。
きーさんは手渡された写真を見た。
やはり知らない少女が映っている。
誰かが近付いてくる足音がした。
「あ、居た。」
「……誰ですか?」
目の前のふわふわした獣人はきーさんの手を引く。
「私は亜冴腐、貴方はきーさんですよね?アストさんに言われて来ました、
貴方を守護致します。」
亜冴腐は宙に漂いながらきーさんを導く。
導かれるまま辿り着いたのは獣人の住処だった。
人間は1人も居ない。
「戦争が終わるまでここに居てもらいます、いいですね?」
「アストは…アストが何で…獣人と…?」
その疑問に亜冴腐はにっこり笑って答えた。
「貴方もアストさんも獣人じゃないですか、ここで生まれた同胞は
人間として過ごしても記憶がなくても皆仲間、歓迎しますよ?同胞よ。」
その言葉に写真の記憶は蘇らなかった。