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紅林さんが手を伸ばして受け取ってくれるのを、私はドキドキしながら見つめていた。
綺麗にラッピングされたシュトーレンが、私の手から紅林さんの手に渡る。
それだけで胸がいっぱいだ。
「ありがとう。」
紅林さんが私にお礼を言った瞬間、
「真!」
紅林さんの背後から声がかけられて、綺麗な女性が現れる。
忘れもしない、優香さんだ。
紅林さんの腕に自分の腕を絡めている。
もう、それだけで衝撃だ。
「今帰り?一緒に帰ろ。」
「…優香。」
「あら、何これ?真ドライフルーツ嫌いだから食べられないでしょ?」
今しがた受け取ってもらったシュトーレン。
優香さんはチラリと私を見ると、紅林さんの手からそのシュトーレンをもぎ取った。
「返せ、優香。」
強い口調で言うけれど、優香さんは全く動じていない様子で、「それよりさ」と話題を変える。
「クリスマスなんだけど。」
「はあ?」
「今年も行くんでしょ、いつものとこ。」
よくわからないそのやり取りに微笑ましさすら感じられて、なぜだか自分が惨めになった。
私の知らない、ううん、知りたくなんてなかった、紅林さんと優香さんの関係。
こんなにも仲がよくてラフな感じなんだ。
それもそうか、元夫婦だし。
考えれば考えるほど居たたまれなくなって、鼻の奥がつんとしてくる。
「あの、ドライフルーツが嫌いだとは知らなくてすみませんでした。よかったらそれ、優香さんが食べてください。…えっと、じゃあ私、失礼しますね。」
自分でも早口になっていることはわかる。
だけど一刻も早くこの場から立ち去りたくて、私は逃げるようにその場を後にした。




