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帰る間際、内線電話が鳴った。
「はい、図面管理課早川です。」
「製造課の紅林ですけど。」
「えっ!…あ、すみません。お疲れ様です。」
紅林さんから内線電話がかかってくるのは初めてで、私は驚きのあまり受話器を落としそうになった。
こちらからかけることばかりだから、何だか新鮮だ。
「今日は定時上がり?」
「はい、そのつもりです。」
「じゃあ、門で待ってる。」
「えっ、あっ、はいっ。」
紅林さんは用件だけ告げると、すぐに電話を切ってしまった。
これまた初めてのことだ。
”門で待ってる”ってことは、一緒に帰るとかそんな感じだよね?
ドキドキしているとすぐに定時のチャイムが鳴って、私はいそいそと帰り支度を始めた。
着替えをして外に出て、門の手前で社員証をカードリーダーにかざすと、先の門にはもうすでに紅林さんが待っていた。
小走りで近付くと、何だか不機嫌そうな顔。
待たせちゃったかな?
「すみません、遅くなりました。」
「いや。それより、大島に手作りケーキをあげたって?あいつめちゃくちゃ自慢してたよ。」
「あー、はい。大島さんだけじゃなくて課内にも配りましたよ。シュトーレンのことですよね?」
「俺にはないの?」
ええっと。
まさかのご本人からの催促です。
あります、ありますとも。
だって一番あげたかったのは紅林さんだもの。
私はカバンから最後の1個を取り出す。
紅林さんに渡そうかどうしようか迷いながらもちゃんとひとつキープしておいたのだ。
「もらってくれますか?」
私は紅林さんの目の前に差し出す。
渡すだけでこんなに緊張するなんて思いもよらなかったよ。




