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雨女でゴメンナサイ  作者: 真楠 冷
第1章
6/26

⑥旅にトラブルはつきものです

「はぁ、おいしかった」

 プリンを食べ終わり、アイスコーヒーを飲み干したサニーは満足そうに呟いた。

「さて、そろそろ行きますか」

 レイナはコクンと頷き立ち上がった。


 それから約1時間。

「今日はこのあたりにしとこうか」

 クタクタの様子のサニーの言葉にレイナは黙って頷いた。

「歩くって俺には向いてなーい。レイナちゃんもそう思うだろ?」

 レイナは首を軽く横に傾げた。

「とりあえず、今夜はここに泊まろうか」

 まだまだ明るい夕方ではあったが、サニーは目の前にある宿屋のドアを押した。


 ドーン。

 サニーは、ドアを開けた途端、宿屋から飛び出してきた物に跳ね飛ばされた。いや、正確には物ではなく者であった。

 ぶつかってきた男は、尻餅をついて倒れ込んだサニーに謝るどころか、蹴りを入れた。

「邪魔なんだよ!」

 宿屋からはおどおどとした女性が出てきて、「あのぉ、宿代を…」と声をかけるが、男は「あ?」と不機嫌な声を出すと睨みつけた。

「こんなしけた宿に金なんか出せるかよ!さっいあくだったぜ!この5日間ちっとも安眠できなかったね。不眠にさせたお詫びに金を払って欲しいくらいだね」

 少しも顔色が悪くない男は大声でわめきたてた。

 大きな身体にいかつい顔、必要以上に大きい声の男に周囲は見て見ぬ振り。となりの食堂は慌ててそっと看板を下ろし、店じまいをする始末である。

 宿屋の女性も、怯えて宿の中へと引っ込んだ。中から鍵をかける音がした。

 男は「ほらほら、お詫び代ぐらい払えよ!」と言って宿屋のドアをドンドンと乱暴に叩いた。


「アイタタタ…」

 サニーは蹴られた腰を抑えながら、「よっこいしょ」と声をかけながら立ち上がった。

 その時、サニーの腰にぶら下げた皮袋から、ジャラリと音がした。その音を聞いて、宿代を踏み倒した男はニヤリと笑った。

「兄ちゃんよ、さっきはよくもぶつかってくれたな。痛かったぜ!慰謝料払ってもらおうか」

 そう言って男はサニーの皮袋に手をかけた。

 サニーは、両手で皮袋を握ったが、そのようなものはあっさりと振り払われ、腰に結びつけていた紐が引きちぎられ奪われる。

 男は皮袋の中身をジャラジャラと手の上に取り出した。

「あ?たったの銀貨5枚と銅貨23枚?」

 そう言うと男はサニーに詰め寄った。

「そんなわけないよなぁ、まだ持っているよなぁ」

 襟首を掴んで押し寄られ、サニーは再び尻餅をついた。

 サニーは首を横にブンブンと力一杯振ったが、男の目はサニーが担いでいた荷物へと移った。

 荷物は尻餅をついた時に転がって…レイナの足元の近くにあった。

 レイナの顔はこわばり、今にも泣き出しそうな顔になっていた。それでも、レイナは屈み込むとサニーの荷物を抱え込んだ。

 晴れ渡っていた空はいつのまにか黒い雲が覆い尽くしていた。

 男が一歩、レイナへと近づいた。

「レイナちゃん!」

 サニーが叫んだが、レイナはその場を動かない。

 その時、雷の轟音が鳴り響き、突如として大雨が降りだした。

「チッ」

 男は舌打ちをすると、足早に去っていった。

 男の姿が見えなくなると、サッと雨が上がった。


「雨を降らせてゴメンナサイっ!」

 びしょ濡れのまま必死に謝るレイナ。

 サニーはごそごそと荷物の奥からタオルを取り出し、レイナの頭をゴシゴシと拭いた。

「なんで謝るの?おかげで助かったよ。あのままじゃあ、どうしよう、って困ってたよ。ありがとうだよ」

 レイナはサニーの言葉に彼をキョトンとした顔で見上げた。

「かあちゃんは、俺を囮にして逃げろって言ってたのにね」

 サニーはそう言って楽しそうに笑った。

「旅にはトラブルはつきものだよね。まぁ、これも旅の醍醐味ってことで」

 サニーは腰の引きちぎられた紐を悲しげに見た。

「でも、怖いのはこりごりだね」

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