⑥旅にトラブルはつきものです
「はぁ、おいしかった」
プリンを食べ終わり、アイスコーヒーを飲み干したサニーは満足そうに呟いた。
「さて、そろそろ行きますか」
レイナはコクンと頷き立ち上がった。
それから約1時間。
「今日はこのあたりにしとこうか」
クタクタの様子のサニーの言葉にレイナは黙って頷いた。
「歩くって俺には向いてなーい。レイナちゃんもそう思うだろ?」
レイナは首を軽く横に傾げた。
「とりあえず、今夜はここに泊まろうか」
まだまだ明るい夕方ではあったが、サニーは目の前にある宿屋のドアを押した。
ドーン。
サニーは、ドアを開けた途端、宿屋から飛び出してきた物に跳ね飛ばされた。いや、正確には物ではなく者であった。
ぶつかってきた男は、尻餅をついて倒れ込んだサニーに謝るどころか、蹴りを入れた。
「邪魔なんだよ!」
宿屋からはおどおどとした女性が出てきて、「あのぉ、宿代を…」と声をかけるが、男は「あ?」と不機嫌な声を出すと睨みつけた。
「こんなしけた宿に金なんか出せるかよ!さっいあくだったぜ!この5日間ちっとも安眠できなかったね。不眠にさせたお詫びに金を払って欲しいくらいだね」
少しも顔色が悪くない男は大声でわめきたてた。
大きな身体にいかつい顔、必要以上に大きい声の男に周囲は見て見ぬ振り。となりの食堂は慌ててそっと看板を下ろし、店じまいをする始末である。
宿屋の女性も、怯えて宿の中へと引っ込んだ。中から鍵をかける音がした。
男は「ほらほら、お詫び代ぐらい払えよ!」と言って宿屋のドアをドンドンと乱暴に叩いた。
「アイタタタ…」
サニーは蹴られた腰を抑えながら、「よっこいしょ」と声をかけながら立ち上がった。
その時、サニーの腰にぶら下げた皮袋から、ジャラリと音がした。その音を聞いて、宿代を踏み倒した男はニヤリと笑った。
「兄ちゃんよ、さっきはよくもぶつかってくれたな。痛かったぜ!慰謝料払ってもらおうか」
そう言って男はサニーの皮袋に手をかけた。
サニーは、両手で皮袋を握ったが、そのようなものはあっさりと振り払われ、腰に結びつけていた紐が引きちぎられ奪われる。
男は皮袋の中身をジャラジャラと手の上に取り出した。
「あ?たったの銀貨5枚と銅貨23枚?」
そう言うと男はサニーに詰め寄った。
「そんなわけないよなぁ、まだ持っているよなぁ」
襟首を掴んで押し寄られ、サニーは再び尻餅をついた。
サニーは首を横にブンブンと力一杯振ったが、男の目はサニーが担いでいた荷物へと移った。
荷物は尻餅をついた時に転がって…レイナの足元の近くにあった。
レイナの顔はこわばり、今にも泣き出しそうな顔になっていた。それでも、レイナは屈み込むとサニーの荷物を抱え込んだ。
晴れ渡っていた空はいつのまにか黒い雲が覆い尽くしていた。
男が一歩、レイナへと近づいた。
「レイナちゃん!」
サニーが叫んだが、レイナはその場を動かない。
その時、雷の轟音が鳴り響き、突如として大雨が降りだした。
「チッ」
男は舌打ちをすると、足早に去っていった。
男の姿が見えなくなると、サッと雨が上がった。
「雨を降らせてゴメンナサイっ!」
びしょ濡れのまま必死に謝るレイナ。
サニーはごそごそと荷物の奥からタオルを取り出し、レイナの頭をゴシゴシと拭いた。
「なんで謝るの?おかげで助かったよ。あのままじゃあ、どうしよう、って困ってたよ。ありがとうだよ」
レイナはサニーの言葉に彼をキョトンとした顔で見上げた。
「かあちゃんは、俺を囮にして逃げろって言ってたのにね」
サニーはそう言って楽しそうに笑った。
「旅にはトラブルはつきものだよね。まぁ、これも旅の醍醐味ってことで」
サニーは腰の引きちぎられた紐を悲しげに見た。
「でも、怖いのはこりごりだね」




