⑤気ままな旅をはじめよう
「さあて」
サニーは、パン屋のドアを出ると大きく伸びをした。
隣りにやや緊張の面持ちで立つレイナに、にっこりと笑いかけた。
「楽しい旅にしようね」
レイナはコクン、と大きく頷いた。
「そうそう、レイナちゃんはアカデミーを出てきたんだよね。じゃあ、進むのはこっちだ!」
サニーは、アカデミーと逆方向に勢いよく歩き始めた。
「ほらほら、行くよー!」
先に進みながらサニーは振り返ってそう言った。
レイナは慌てて駆け出してサニーに追いついた。
横に並んだレイナを見て、サニーはニカッと笑った。
いつのまにか黒い雲はどこかへ消え、さわやかな秋の青空が広がっている。
「さてさて、このまま真っ直ぐ行くと王宮に着いてしまう…」
サニーは、ふと立ち止まり、まだ姿を見せぬ王宮の方を眺めて呟いた。
「流石に今日クビになったばっかのところに行きたくはないなぁ」
「ゴメンナサイっ」
「もうっ!レイナちゃんに謝って欲しくて言ってるわけじゃないんだよ。俺が恨むのは俺の上司、あ、元上司だけだよ。そんなに気にしてちゃダメだって」
反射的に謝るレイナに、サニーは困ったように笑いかけた。
「ようは、真っ直ぐの道はやめよう、ってだけだよ。さぁ、ここでわかれ道。レイナちゃん、右の道と左の道、どっちにしようか?」
「えっとぉ…」
真剣に考え、黙り込んでさしまったレイナの頭をサニーはポンポン、と軽く叩いた。
「そんなにまじめに考えこまないでよ。じゃぁ、今回は右にしよう!」
ほらほら、とサニーはレイナの手を取って右の道へと入った。
「レイナちゃん、力を抜いてよ。気ままな旅をしよう!」
サニーはそう言ってスキップを始めた。
それからしばらく歩いて…「ちょっと休憩ー!」と道端に座り込んだのはサニーだった。
歩き始めてようやく1時間が経ったところだった。
「ねぇ、俺、もう疲れたんだけど。レイナちゃんは?」
「…平気…です」
グッタリとしたサニーの横でレイナは顔色が変わることなく立っていた。
「元気だねぇ…。いや、もしかして俺がダメなだけ?」
サニーは一人自問自答していた。
「いやぁ、こんなに歩くのなんていつぶりだろうねー」
サニーは座り込んだまま、周囲を見渡した。
ちょっと先の方に、飲食店らしき建物を確認した。
「うーん、あそこまで頑張りますか」
サニーは立ち上がると心配そうな顔のレイナと2人、少し先にある建物に向かって歩き出した。
ドアを開けるとカランカランと音がなり、2人は建物の中に入った。
お昼時ではないので客はまばらだ。
「さぁて、なんにするかなー。レイナちゃんは何にする?」
「えっと…私は…」
モジモジとするレイナを見て、サニーは頰を膨らませた。
「遠慮なんかしちゃダメだからね。かあちゃんも言っていたでしょ。支払いは俺に任せて好きなのを頼むんだよ」
「じゃ、じゃあ、オレンジジュース」
「それだけ?」
サニーが笑顔でレイナをみつめる。
「あ、あと…プリン!」
「あー、プリン、いいねぇ、俺も好き」
そう言うと、サニーは右手を上げて店員を呼んだ。
「オレンジジュースひとつ、アイスコーヒーひとつ、そしてプリンをふたつお願いします」
まもなく運ばれてきたアイスコーヒーを口にして、サニーは、「はぁ、生き返ったぁ」と言って大きく息を吐いた。
「おいしいねぇ」
「はい、おいしいです…」
プリンを食べながら、ニコニコと笑うサニーに釣られるかのようにレイナも多少ぎこちなさはあったが笑顔を浮かべた。
「おいしいものを食べる旅っていうのもいいよねぇ…」
サニーは楽しそうに呟いた。