④ご一緒してもいいのですか
「働かなきゃ…」
レイナは銅貨6枚を握りしめてそう言った。
切実な問題である。
このままでは、行き倒れになるのは時間の問題だ。
一言呟いたあと、深刻な顔をして黙り込んだレイナを見て、サニーは不思議そうな顔をした。
「レイナちゃんは魔法を使えるんでしょ。そんなのめっちゃ希少じゃんか。仕事なんて選り取りみどりだよ」
レイナはサニーの言葉にブンブンと首を横に振った。
「…全く制御できないんです…」
アカデミーで、学んでうまく使えるようになるはずだった。が、退学。
「そっかぁ…それは困ったねぇ」
「レイナちゃんより、サニー、お前はどうするんだい?」
「えっ、俺?かあちゃんが、ここはダメって言うからさぁ、どうしよっかなぁ。ま、俺にはこれがあるし」
そう言ってサニーは皮袋を振ってジャラジャラと言わせた。
「クビって言いながら退職金はくれたし、しばらくは遊んで暮らそうかなぁ」
「何言っているんだい」
サニーの頭の上にブリビアの拳骨が落ちた。
「そんなものはすぐになくなるよ。お前もちゃんと働きな」
「うーん。そうは言っても、俺は気象の勉強しかしてないしなぁ。腕っ節はからきりだし…何しよっかなぁ」
サニーは筋肉があまりついていない細腕をさすりながらそう言った。
「本当に私の息子かと疑いたくなるね」
ブリビアは腕まくりをして力拳を見せつけた。
「かあちゃん、相変わらずすごいねぇ」
サニーは感心したように母親の筋肉質な身体をみつめた。
「うーん、たしかにお前に向いてそうな仕事はこの辺りにはないね」
「でしょ」
そう言いながら、サニーは、もう一個、と言って今度はクリームが入ったパンを手に取った。
「そうだ、旅に出よう!」
「は?何言っているんだい?」
突然のサニーの発言に、ブリビアは批判的な声を出した。
「いい年して、馬鹿なことを言ってんじゃないよ」
「だってさぁ、他に思いつかないんだから仕方がないじゃんか。1年くらいは食べていけるくらいの金はあるし、旅してたらなんか俺にできる仕事もみつかるかもでしょ」
開き直ったかのようにそう言うサニーに、ブリビアはため息をついた。
「もう、勝手にしたら…」
「で、レイナちゃんも、俺と一緒に来る?」
「えっ⁉︎」
レイナは驚いてサニーを見た。
サニーは笑顔だが、その目は真っ直ぐレイナを見ていた。
「…ご一緒してもいいのですか?」
「勿論だよ。旅は一人より二人が楽しいからね」
そう言ってサニーはにっこり笑って右手を差し出した。
レイナも右手を出し、握手がかわされようかとしたが…
「ちょっと待ったぁ!」
ブリビアが叫んで握手を阻止した。
「お前が旅に出るのは構わないさ。でもレイナちゃんまで巻き込むんじゃないよ!」
「でもさぁ」
サニーは口を尖らせた。
「レイナちゃんは今のところ行くあてがないんだろ。じゃあ、一人でどこか行くより俺と一緒の方がよくない?」
「そうかもしれないけど…いや、レイナちゃん、ここで手伝わない?」
「えっ、かあちゃん、さっき手伝いはいらないって」
「お前は黙ってなさい!」
ブリビアはサニーをキッと睨み付けると、笑顔でレイナに向き直った。
「レイナちゃんのような可愛い子ならお手伝い歓迎だよ。どうだい?」
レイナは考え込んだ。
考えて出した答えは…
「私も一緒に旅に出ます」
レイナはブリビアと視線を合わせると、弱々しいながらも決意を込めてそう言った。
「…そうかい、レイナちゃんが決めたのなら仕方がないね。ご飯代はサニーに出させるんだよ。遠慮なんてするんじゃないよ。それから、変な人に絡まれたりしたら、サニーを囮にして逃げるんだよ。それから…」
「なんだよそれ。かあちゃん、ひどいなぁ」
レイナに延々と言い続けるブリビアをサニーは呆れ顔で遮った。
「じゃあね、行ってくるね」
「ちょっとお待ち」
ドアを出て旅立とうとする二人をブリビアは呼び止めた。
「サニー、パン代。銅貨15枚ね」
ブリビアの言葉にサニーはちぇっと言って皮袋から銅貨を出した。