②どこへ行けばいいの
レイナはアカデミーを後にして、トボトボと歩いていた。
行くあては、ない。
あんなにアカデミー入学が決まった際に大喜びしてくれた実家に、たった半年で退学になったと、帰れるわけがない。
すぐに実家には退学通知がいくだろうけど、それを見て両親はどう思うだろうか。
寮を出る前に両親に宛てた手紙だけは出してきた。
「ごめんなさい。探さないでください」
こぼれ落ちそうになる涙をぬぐいながらそれだけを書いてレイナは封をしていた。
レイナは、とりあえず寮においていた私物を詰め込んだキャリーバッグを引きながらあてもなくさまよった。
キャリーバッグの中には着替えが数着と筆記用具が入っているくらいで大したものは入っていない。それでも、今のレイナには、重い荷物を引きずっているような気分になっていた。
気分は落ち込んでいても、お腹は減ってくる。
もうお昼時は過ぎている。
所持金を手に広げた。僅か銅貨10枚。
シンプルなパンなら2個買えるだろうか。
でも、それで何日もつ?
レイナは絶望的な気持ちになりながら手の上の銅貨を握りしめた。
レイナはとりあえず歩いた。
通りすがりの人がキャリーバッグを引く少女を興味深そうな顔で見るが、その絶望感満載の顔を見て声をかけずに去っていく。
レイナは甘い匂いに誘われて、一つの店の前で立ち止まった。
そっとドアを開けて見る。
そこには、数種類のパンが並んでいた。
「いらっしゃい」
中年の女性が声をかけた。
レイナはは、並んでいるパンをじっくりと眺めた。
クリームが入っているパン、美味しそう。でも銅貨7枚。
コーンがのっているパン、食べてみたい。でも銅貨8枚。
結局レイナはシンプルなミルクパンを一つ手に取り、銅貨4枚を女性に渡した。
「はいよ」
女性は銅貨を受け取ると、ちょっと待ってな、と言って奥に行くと、一つのパンを手にとって戻ってきた。
「ちょっと失敗作だ。よかったら貰ってくれ」
少し焦げたパンをそう言ってレイナに差し出した。
「ありがとうございます」
レイナはありがたくパンを受け取った。
「そこで食べていいよ」
そう言われて、レイナは店の片隅にある椅子に座ってパンを口にした。
失敗作だと言って渡されたパンには甘酸っぱいベリージャムが挟まれていて、レイナは夢中でそれにかぶりついた。
そのとき
「かあちゃん!」
一人の男が、ドアを勢いよく開けて飛び込んできた。
「来客中だよ」
女性はしかめっ面で飛び込んできた男を見た。
「ごめんよー。でもっ、かあちゃん、クビになっちゃったよー」
「何言ってるんだい」
女性は呆れたような声を出した。
「そんな簡単にクビになんかなるもんかね。まがりなりにもお前は難しい気象予報士の資格をもっているんだから」
「それがクビになっちゃったんだよーっ!降水確率0%と出したのに、雨が降ったんだよ!絶対雨を降らせたらいけない日に!」
「ごめんなさいー‼︎」
レイナは椅子から飛び上がると男の前で必死に頭を下げた。
パン屋の女性と飛び込んできた男性はそんなレイナの姿をびっくりしながら見ていた。
「サニー、お前、この子に何をしたんだい?」
サニーと呼ばれた男は目を丸くして首を横にブンブンと振った。
「かあちゃん、俺は何もしてないよ!この子とは、はじめまして、だよ」
「だが、謝らせているのはお前だろう!」
「そんなこと言われたって、身に覚えはないよぉ」
当惑する二人の前でレイナは頭を下げ続けた。
目からは涙が溢れでる。
「ちょっとあんたも落ち着きな」
女性がレイナの肩を軽く抱きしめた。