13 雨が降らない
雨が降らない。
この1ヶ月、曇ることはあっても、雨となることはない。
サーチルは、アカデミーの窓から外を眺めながら物思いに耽っていた。
そういや、あいつが退学になってからもう3ヶ月か。早いものだ、と思う。
たった半年しか彼女のことは知らないが、やたらとオドオドして、何かにつけて謝っていた印象ばかりが残っている。
僕にあれだけの才能があれば、もっと有効活用するのに、と何度悔しく思ったことか。
教室がざわついていた。
すでに朝の始業の時間を5分ほど過ぎているのに、教師が現れない。1分1秒の遅刻でも目くじらを立てらるこのアカデミーで、まさしく珍事である。
やがて教室に入ってきた教師は、息が切れており、顔色が悪かった。
「今日は自習だ」
教師はそう短く言い捨てると、3人のクラスメイトに声をかけて一緒に教室を出て行った。
呼ばれたのはいずれも水に関わる魔法を扱う子だった。
なるほどね、サーチルは1人納得していた。
そんな能力がない僕にはお呼びがかかることはないだろう。
サーチルは、とりあえず、目の前の課題に取りかかった。
周囲が首を傾げながら取り組む中、彼は次から次に紙をめくっていった。
教師たちが出て行って4時間くらいたった頃、久々に雨音が聞こえてきた。
サーチルは、手を止めて窓の外を見た。
パラパラと降り出した雨は、しかし本降りになることなく、すぐに止んでしまった。
サーチルは、空を眺めながら、もうすぐ来る長期休みをどうしようか、考えていた。
実家に帰っても大して面白いことはない。なら、いっそのこと…。
こっそり宿題の手伝いをしてやったクラスメイトからの小遣い稼ぎのおかげで、しばらくの旅には耐えられそうだな、とサーチルは考えていた。
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「お、久しぶりの雨だねぇ」
ブリビアは、お昼に自分が焼いたパンを頬張りながら懐かしそうに呟いた。
「あら、もう止んじまったか…」
ブリビアは残念そうに呟いた。
「あの子は雨を降らせてゴメンナサイ、って謝っていたっけ」
彼女は思い出しながらふふっと笑った。
「これだけ雨が降らないってことは…レイナちゃんは何事もなく過ごしているってことかな。サニーが、少しは役に立っているといいけどねぇ」
頼りない息子のことを思い出して、ブリビアは、クスッと笑った。
「あれで私の息子なんだからねぇ…」
そして、空を見上げて呟いた。
「しかし、もうそろそろまとまった雨が欲しいねぇ」
遠慮がちにゆっくりと扉が開いて、顔色の悪い若い男が入ってきた。
「あのぅ…サニーさんの行方は分かりませんか?」
「あんたは誰だい?」
ブリビアは警戒心をあらわにして尋ねた。
「あ、あの…クラードと言います…。サニーさんの同僚…じゃないか…元同僚の気象予報士です…」
「何だい、あんたもクビになったのかい?」
「ま、まだ…なっていません…」
ブリビアの言葉にクラードはそう言って力なく首を横に振った。