12 業務命令…ですか
気象予報が当たらない。
降水確率100%の予報でも、厚い雲が覆うばかりで雨粒が落ちてくることはない。
毎日毎日、王宮の気象塔にはクレームが届く。
王宮のお抱え気象予報士達は、頭を抱えていた。
そして、年配の気象予報士は、ピリピリとし、若手の気象予報士は、ビクビクとしていた。
「もしかして…次は私が…」
王宮の気象塔の片隅で、書類の山を整理しながら、若手の気象予報士・クラードは、かろうじてクビの二文字は口にすることなく飲み込んだ。
「だいたい…サニーを…クビにしたのが…まちが…」
クラードは、ブツブツと呟いていたが、先輩の姿を視界に入れて、慌てて口をつぐんだ。
「おい、クラード」
「は、はいっ」
クラードは先輩に名を呼ばれ、体をびくりとさせながら返事をした。
「あのな…」
先輩は、言いにくそうに視線を逸らした。
やはり、クビか…クラードは覚悟を決め、せめて建物を出るまでは涙を見せるまい、と心に決めた。
「お前、サニーの行方を知らないか?」
「いえ…」
思いもよらない問いにクラードは拍子抜けしてしまい、何故かよろついてしまった。
「あいつの分析レポートを見ていたら、すごくてな、ちょっと今の気象をあいつならどう分析するか聞いて見たかったが…」
そうなのだ。彼の分析は素晴らしかった。到底新人とは思えない…。そのくせ、軽くて、毎日必死になって取り組んでいる自分が惨めに感じることもあった。
そのため、クラードは、彼がいなくなってホッとした気持ちがあることも否めなかった。
そこに上司が現れ、先輩に何やらヒソヒソと言葉をかける。先輩は黙って何度か頷いた。
上司はチラリとクラードの方を見たが、何も言わずに去って行った。
上司が去ると、先輩はクラードをじっと見た。
「クラード、サニーを探して来てくれないか?」
どうやって?クラードは戸惑った。彼は気象予報士であって、人探しは専門外だ。
「あの…実家にはいないのですか?」
「ああ、いなかった」
すでに確認済みのようだ。
「とりあえず、サニーを見つけて来い!」
「は、はい」
クラードは先輩の勢いに押されて返事をした。そして、我にかえる。
「えっ!あ、あの…見つけるって…」
「あぁ、今からお前の業務はサニーをみつけることだ。業務命令だからな。方法はお前に任せる。なんとしても見つけ出して、ここに連れて来い」
クラードは、先輩に救いの手を求めてすがるような目を向けたが、返ってきたのは冷たい視線だけだった。まるで、クビにならないだけありがたく思え、と言わんばかりの…。
クラードは、軍資金としてジャラジャラと硬貨が入った皮袋を渡されると、まるで追い出されるかのように部屋を出た。
クラードは、王宮を出て、トボトボ歩いた。
今日の気象予報は雨時々曇り、降水確率80%。
厚い雲が覆ってはいるが、雨粒が落ちる気配は未だない。
クラードは、一瞬だけ空を見上げて、うつむきながら歩いた。
渡された軍資金の重みが、これからの行手の困難さを想像させた。
「とりあえず、サニーの実家に向かうしかないよなぁ」
クラードは、1人呟きながら、そういえばサニーはやたら実家のパンを自慢していたな、と思い出していた。